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白女の琵琶  作者: ナウ
1/8

白子と大姫

祇園精舎の鐘の声

諸行無常の響きあり

沙羅双樹の花の色

盛者必衰の理をあらはす

おごれる人も久しからず

ただ春の夜の夢のごとし

たけき者も遂にはほろびぬ

ひとへに風の前の塵に同じ



1185年【元暦2年】 3月24日

壇ノ浦の戦いにおいて平家は滅亡した

その年の暮れ、1人の赤子が鎌倉の由比ヶ浜で捨てられていたのを付近の村人が見つけた


鳴き声が聞こえたと思ったら赤子

ただ、その赤子は普通とは違っていた

髪も肌も白く青い瞳を持つ赤子

その赤子を見つけた男は急いで自分の村の人々に伝えた

聞いた人々は集まり布に包まれているその赤子を見て口々に言い合う


「何だいこの子は、気味が悪いったらありゃしない」

「何かの病気か?」

「ものの怪の類じゃないだろうね?」

「呪いとか?」

「呪われた子か、近寄ったら呪いが移っちまうぞ」

「おお怖い」

「バカ言え、呪いなんてあるもんか」

「それにしても何でこんな所に」

「親か棄てていったんだろ、今時捨て子なんて珍しくもねぇ」


わいわいと言い騒ぐ村人達

騒ぎを聞いて村の長老が杖をつきながらやってきた

赤子を見て長老が言う


「おめえら、こりゃ白子だ」

「村長、白子って何だ?」

「時々生まれるんもんだ、髪も肌も白いのがな」

「本当か?」

「ものの怪じゃないのかい?」

「いんやぁ、こりゃあ白子だ、ものの怪の類じゃねぇ」

「白子ってどういうんさ」

「理由はしらねが白子は肌も髪も白くて目がよく見えねぇんだ」

「目が見えねぇ?」

「そうだ、目が見えなくて陽の光に弱ぇえだ」

「だったらこの子も目が見えないのかねぇ」

「目の玉見てみなよ、青いよ」

「だなぁ、こんな色じゃ目が見えないのも当たり前だなぁ」

「まだ見えないと決まったわけじゃないよ」

「どっちにしてもこんな髪や目の色じゃ親が捨てちまうのも無理ねぇ」

「で、どうするんだねぇ、この子供」

「とにかくこんな所にほっといたら死んじまう、取り合えず誰かの家に連れてってやんなよ」

「俺んとこは嫌だぜ」

「私んとこもさ」

「俺んとこも勘弁してくれ、ガキが6人もいるんだ」

「そうだ村長んトコはどうだ」

「ううむ…」


長老は唸った




それから7年後

1192年【健久3年】7月、鎌倉に幕を張る源頼朝が征夷大将軍になる

その館のある幕屋の町下の一角で筵を引き座って琵琶を弾く1人の少女がいた

名前はしょうぶ、漢字で書けば菖蒲

小さい白笠を被っていて見物人からは顔はよく見えないがその長い髪はうっすらとした金色の白、肌は白く瞳の色は青い

由比ヶ浜で捨てられていた赤子は大きく成長していた

琵琶法師の僧から琵琶を習い最近になって人の行き交う場所で琵琶を弾いて食を得ている

年齢は8歳、まだ子供だが生きていくには四の五の言ってはいられない

日中は光が目に厳しく殆ど見えないため目を閉じているか布を目に巻いているか

それで最近人々から名付けられたのがめくら御前だ

そもそも女の琵琶法師など見たことも聞いたことも無いらしくかなり珍しがられている

しがもその容姿も奇異とあって噂を呼んだ


めくらと言われてもまったく見えない訳ではない

ただ他の普通の人とは見え方が違うようだ

まず様々な色が見える

最初に色があって形は何となく分かるという見え方

昼間の陽の光が強すぎて日中は形が歪んで見えるが夜は何となく整って見える


自分は白子で他の人間とは違うというのは育った村長の所で聞かされた

その村長も今は死んでいない

それで琵琶法師に付いてあちこち歩きながら行ってその途中で琵琶を習った

鎌倉に戻ってきたのは久しぶりだ


じゃり...


そんな菖蒲の琵琶を聞いている中に2人の女性が前に進み出てきた

見物人達は慌てて道を開けて距離を置く

琵琶を弾きながら菖蒲は目を細めてその2人の気配を感じた

色、気配、周りの人々が気を遣う感じから高貴な身分だ

匂いも明らかに違う

目に頼れないぶん耳や鼻、手先の感覚が頼りだ

特に耳は微かな物音も捉えられる程鋭い

琵琶を弾き終えた時に2人の1人が話しかけてきた


「素晴らしかったです」


まだ若い女性の声だ

声からして10代中頃辺りか

ただ何か弱々しく感じる


「本当に」


今度は年配の女性の声

母親だろうか?

落ち着いた声だが我は強そうだ


「ありがとうございます」


礼を言う菖蒲

そんな事より菖蒲に取っては食い扶持を稼げるかどうかの瀬戸際だ

ただ相手は身分が高そうなので期待は持てる


「まぁ、あなたは若いのね」


若い女性が近寄ってきて顔を覗き込んできてそう言った

小さくて髪が白いのでてっきり年老いた老女かと思っていたのだろう


「それにとても白いのね」

「白子と呼ばれています」

「白子?」


若い女性の何だか分からなさそうな声に母親らしき女性が助けの言葉を出した


「白い肌に髪、そういう容姿で生まれてくる者がごく稀にいるのですよ、世間ではそういった者を白子と呼んでいます」

「そうなんですね、お母様」


やはりこの2人は親子のようだ


「それにしても女性の琵琶弾きは珍しいですね」

「琵琶法師様に習いました」

「生まれは?」

「由比ヶ浜で捨てられていたそうです、それを拾われました」

「若いのに苦労していますね」

「まぁ...」

「お母様」

「ん...そうですね」


年配の女性は娘に言われて明らかに言葉を濁した

与えられる物を持ってきていないのかも知れない


「えーと...」


年配の女性がなやんでいる時、近寄ってきた男が声を掛けてきた


御台みだい様、そろそろ...」

「良い所に来ました、この琵琶の方の音が実に良かったので褒美を与えて下さい」

「畏まりました」

「ありがとうございます」


菖蒲はホッとした

とにかく何か得られそうだ

それはそれとして男が言った御台様とは?


「いいえ、さぁ帰りますよ」

「はい、また来るね、琵琶の方」


娘の「また来るね」という言葉に母親は驚いた声を出した

それが何かは分からないが何かあるのだろうと感じた


こうして菖蒲はこの親子と縁を持つ事になる

後に知るがこの親子は大姫と北条政子と言う

鎌倉殿と呼ばれ現在日本の中心になりつつある源頼朝の妻とその娘である

〔1話の話〕


白子(しらこ)めくら

現在では差別用語化しているそうな


【大姫】

大姫とは長女という意味で名前ではないようだ

一般に知られているこの大姫の本当の名前は不明らしい



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