5年 2月1日 ②
学校見学から帰ってきた舞に早速今日の様子をきかせた。
「すごい緊張感だったわ!もう来年の今日なのね!あなたも頑張らなくちゃ!」
少し興奮気味に話す加奈子に舞は冷めた様子で
「そう。良かったね。」と他人事のように答えた。
なんで自分のことなのにそんなに他人事なの!?途端にイライラしてくる。
さらには
「私にはそんな雲の上のような学校は無理だよ。公立じゃダメかな?友達と同じ学校に…」
「何を言っているの!?」かなり強めの口調で舞の言葉を遮る。
公立なんてとんでもない!
荒れてはいないけど、内申獲得が熾烈を極めるらしい。勉強のほかに先生にも気に入られなきゃならないし、副教科の体育や音楽も気が抜けない。部活動は運動部の中心メンバー必須だという。ストレスなのかいじめや不登校も多いみたいだ。考えるだけでも頭が痛いわ。
「公立は忙しくて大変よ。私立は学校のレベルも高いし、お友達の質は高いから穏やかに過ごせるわ。その方が舞にはいいと思う。」
「でもパパもママも公立じゃない。」と食ってかかる舞に加奈子は呆れたように
「だから言っているんじゃない。」とため息をついた。
加奈子は自分の中学時代を思い返してみた。
田舎の公立。意味のわからない校則。腹のたつ教員。不登校のあの子。不良集団。その中で上手く泳いできた自分。それでも時々はハメを外したりもした。
大人に隠れてする悪いことはドキドキして楽しかった。
危なかったわ。もしかして道を踏み外していたかも知れない。
自分の子はどうだろう?上手く泳げるだろうか?
自分は田舎の学校だから大した誘惑もなく、ハメを外すと言っても可愛いものだった。
ここは東京。誘惑もたくさんあるし、田舎とは段違いの危険があるだろう。
その中で我が子は大丈夫だろうか?
危ない場所に近づけないで、安全な安心できる環境においてあげたい。
それに…
加奈子は苦い思いで自分のコンプレックスを思い起こす。
私はちゃんと勉強すれば女子大止まりじゃなかったかも知れない…。
田舎だから大した塾もなくほぼ独学だった。
加奈子の時代はお嬢様女子大は人気があった。合格した時は両親は喜んでくれ、大変だっただろうに東京の女子大に通わせてくれた。あの頃は誇らしかったが、かつてのお嬢様大学も今は見る影もない。
田舎では凄くても東京ではね…。
同じ大学に通う本物のお嬢様たち。
格の違いを見せつけられた。ファッション・考え方・仕草・教養の深さ、何もかもが雲泥の差だった。彼女たちは努力してあの学校に受かってはいない。エスカレーターで優雅にあがってきたのだ。
田舎から来た自分は何て泥臭いのだろうと落ち込んだ。
そして、同じ田舎から地元の国立に行った友人。
その後のキャリアの差は歴然としていた。
今の自分はただの契約社員だ。
舞には私のように惨めな思いをさせたくない。
進路の選択を間違って欲しくない。努力して道を切り開いてほしい。
女の子だからこそ、男に頼らない自立した大人になってほしいと願う。
「舞はまだわからないかも知れないけど、勉強して適切な環境に身を置くことで選択できる未来は大きく変わってくるの。頑張ろう。ね?」
そういうと舞はやや睨むような目を私に向け下を向いて黙り込む。
さあ、ついに最終学年だわ。
「私も頑張って働くし、貴方のサポートを全力でするわね!」
勤めて明るく言ったが、舞は顔を背けて自分の部屋に入っていた。
反抗期かしら?