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26.“記録”に映る悲劇


若干閲覧注意です。

本当に軽いもの(人によっては注意書きいらない程度)ですが、グロ?描写と性暴力の表現(直接的ではない)があるので苦手な方はご注意ください。



始まりの乙女の想いが眠る地は現在音大となっている土地の一角だろうと麗叶さんに話すと、麗叶さんがその土地に関する“記録”を調べてくれた。


私も一緒に“記録”を見させてもらうと確かに、千二百年前くらいの記録に“始まりの乙女”であろう少女と黒邪であろう少年が映っていた。


今は大学のキャンパスとなっているその地にはかつて小さな村があった。

他の村と変わらなかったその村は、いつの頃からか作物が豊かに実るようになった。


比較的近い位置にある他の村が干天による旱魃に喘ぎ、河川の氾濫に苦しめられている時もその村の周辺では豊かな作物と、恵みの雨が降っていた。


……映像からも伝わってくる神の加護が与える影響の大きさ。

今の時代は、作物の品種改良が進んでいるし、作物が不足して他の土地から輸送したり海外から輸入したりして凌ぐことができる。

それに、土地自体の開発が進んでしまっていて私自身、家の周りには個人の小さな畑がいくつかあるくらいだったから、私の存在が作物に影響を与えていたとして、その影響を計り知ることは難しい。……大きな台風や記録に残るような大雨のような災害に遭ったことがないから、それは神様の加護のおかげだったのかもしれないけど……



技術や経済が今ほど発達しておらず、自然と隣り合わせであった時代には、人ならざる存在が与えた力が遺憾なく発揮されていた。


ある少女が世話をした作物は、村でも特別育ちがよかった。

その少女の歌は、不思議と村人の心を癒した。

心だけでなく身体的な怪我さえ、少女の歌により治癒が早まった。

……村の変化は少女が生まれた年から起こり始めた。



村人は少女こそが村に恵みと富をもたらした少女であると噂し始める。

少女は神の加護を受けた存在であるとして、村人から崇められるようになった。


そして、村の長である男は少女を村につなぎ止めるため、さらなる恩恵を受けるために、己の息子と少女の和合を申し渡した。


当時、齢4つであった少女は“結婚”がいかなるものかよくわかっていない様子だったが、日頃より自分に優しくしてくれる5つ年上の少年と家族になるのだと喜んでいた。

少年……村長(むらおさ)の息子は、妹のように可愛がっていた少女との結婚を命じられて戸惑ったものの、少女を護れるならばと受け入れた。



2人は少女が裳着を行う年になったら一緒になろうと誓い合った。



時は流れ、少女は12歳に……正しく少女と言われる年頃になった。

元服が行われる年齢を過ぎた少年は優しい心はそのままに、精悍な一人の男となった。


共に過ごす時の中で2人の仲は深まり、少年を兄として慕っていた少女は一人の女として少年にないする恋心を抱くようになり、少女を庇護の対象としていた少年は、その恋情も少女に向けるようになった。


翌年にはついに結ばれるのだと心を躍らせていることが、“記録”に映し出される映像からも伝わってきた。



──……しかし。



時が流れる間にも、力が衰えることなく、むしろ強くなっていった少女の話はいつしか都の貴族の耳にも入っていた。


牛車に乗り、武官の随身を引き連れた男が村にやってきた。

……それが悲劇の始まりだった。



村にやってきた貴族の男は富をもたらす少女を渡すよう命じた。


家内で行われた話し合いの様子を“記録”から窺い知ることはできなかったが、最初は渋った村長も、貴族には逆らえず……というよりも、少女と引き換えにと示された条件に目が眩んだようだった。



己の婚約者であると訴える少年の声は父である村長に届かなかったようで、少女は男に引き渡された。

少女は泣き叫んで少年の名を呼んでいたが、牛車に押し込まれる少女の下に少年は現れなかった。



……少女が村から連れ去られて数刻が経った日が沈みかけていた時に村長の家から出てきた少年の姿はボロボロだった。

父か他の村人から、折檻を受けたのだと思う。……もしかしたら、貴族の男からも痛めつけられたのかもしれない。男も村長の家から出てきたから。

顔や着崩れた着物から除く手や足には無数の痣があって、鞭で打たれたような傷も覗いていた。

目は上手く開かなくなっているし、足もふらついている……酷い姿だった。



そんな少年の下に3人の子どもがやってきた。

子ども達は涙ながらに少女が連れ去られたことを少年に伝えた。

それを聞いた少年は少女の安否を案じて嘆き悲しみ、己の不甲斐なさを呪うと同時に理不尽な世への怒りを発露した。



少年は村を飛び出した。

少女を追って都へと。





少女はずっと泣いていた。

移動の最中にも男の屋敷についてからも、ずっと。

喉が枯れても静かに涙を流し続けている様は痛々しかった。



しかし、少女の力は場所を映っても損なわれることなく発揮された。……少女の思いとは関係なく。

男は喜ぶと同時に畏怖した。他の者の手に渡ったら、と。


少女は男の荘園へと送られた。


そして、男はまだ幼いながらも美しい少女に欲情をぶつけた。

……その様子が“記録”に映っていたわけではないけど、少女が少年に、神に、助けを求めながら泣いていた。

当時は成人とされる年齢であったとはいえ、まだ15歳になっていなかった。

自身の父親よりも年上の男に強いられたものは、少女の心をどれだけ傷付けただろう?


恋い慕う少年への思いも、自尊心も、人としての尊厳も……何もかもを踏みにじられた少女の目からは涙が枯れ、光が消えてしまっていた。




少年が少女の居場所を突き止めたのは、少女が村から連れ去られてから6年が経った頃。

青年となった少年は泥にまみれ、痩せこけ、あちこちが擦り切れた着物を纏っていた。


少年は何度も何度も少女がいる屋敷の門を叩いたが相手にされず、屋敷に行く度に鞭打ちや棒叩きを受けていた。


少年は諦めなかった。何度痛めつけられようと愛しい少女に会えるまでは諦めないとばかりに門を叩いた。

そうして数か月が経った頃、いつものように屋敷に訪れた少年の前にあの男が現れた。

少女を連れ去った、あの男が。



男は随身に命じて人ほどの大きさの何か(・・)を少年の前に放った。


焦げ臭いそれは焼け焦げた人間だった。


少年は突然のことに後退る。


男は『そんなに欲しいならばくれてやろう』と言い放つ。


少年は“まさか”という顔でそれ(・・)と男を交互に見やる。


男は『求めていた女だろう?』と下卑た笑いを浮かべる。


少年は“信じられない”といった様子で変わり果てた姿の少女を凝視する。


男は『いい娘だったのに残念だ』と行為(・・)や少女の最後について語る。



聞くに堪えないものだった。

少女の存在が他の貴族にも伝わり、男は謀反を疑われたらしい。

強大な力を有する少女を妖……人ならざるものであると断じた貴族たちが復讐や反逆を恐れていたこともあり、自身のみを護るために、男は少女を火で焼いたのだ。


男は自分に感謝するようにと言い残して屋敷の奥へと消えていく。



……少女の最後も“記録”で見た。

光が消えた瞳の少女は反抗もせずに縛られ、油を浴びせられていた。

火を点けられたときさえ、何の反応も示さなかった。

袂から何かを取り出して握りしめた少女は悲鳴を上げることなく火に包まれた。



少年は呆然と座り込み、それ(・・)に手を伸ばす。

焼け焦げた体は脆く、地面に投げられた時にも崩れてしまっていた。


そして、少年は何かに気が付いた。

崩れた一部……手であった部分から零れ落ちているものに。


……“記録”を見てきた私にもわかった。

少年がまだ幼かった少女に贈った懸守(かけまもり)だ。

一部は黒く焼け焦げてしまっているけど、少女が握りしめていたためか形を保っている。


私は当事者ではない。“記録”を見ているだけだ。

それなのに、涙が止まらない。


“記録”の中にいる少年も泣き叫んでいた。

自分が触れているそれが、愛しい少女であるとわかってしまったから。

少女を掻き抱いて、ひたすらに泣き叫ぶ。



泣き叫ぶ少年の目にあるのは悲しみや苦しみ、そして計り知れないほど大きな憎悪。



やがて静かになった少年は少女を静かに横たえてゆらりと立ち上がり、屋敷に激情の宿った視線を向ける。


瘦せ衰えた体からは想像できないような力で門を打ち破り、屋敷に討ち入ったのだ。




再び“記録”に映った男は多くの傷を受けて息も絶え絶えになっていた。

それでもあの男には手を下したようで、返事をしない少女に謝りながら『仇は討った』と言っていた。




──少年は少女を抱き上げて、ふらつきながら木々が生い茂る森の中に消えていった。





















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