20.変わる日常 変わらぬ日常
あれから1週間が経った。
クリスマスを来週に控えているためか、学校内の雰囲気も浮足立っているようで、あちらこちらでカップルが成立し、昼休みのこの時間もクリスマスの過ごし方についての話し合いが聞こえてくる。
「──学校行事とかクリスマスの前ってカップル増えるけど、ほとんどはすぐに解消しちゃうよね~……」
「加奈、なんてことを……」
「だってぇ~!……はぁ。ウチも彼氏欲しいな……」
「まぁ、この時期に成立してるのはイベントを楽しむためのカップルみたいなところあるけどさ……」
「あはは」
私たちの話題もクリスマスについて。
とはいっても、各々に予定があるからということでみんなで遊ぶということはない。
「それで? みんなはクリスマスどうするの? ウチは家族で過ごすだけだけど」
「アタシはまぁ……デートかな?」
「どこに行くの?」
「映画見てご飯食べてイルミネーション行く予定」
「へぇ~!」
「相変わらず仲良いねぇ」
晴海ちゃんのお相手は1年生の頃から付き合っている彼氏さん。
2年以上たった今も関係は順調なようで、普段の会話の中で自分から話してくれることはないけど、こちらから尋ねれば恥ずかしそうにしながらも教えてくれるのだ。
「っもう!アタシのことはいいから……咲空ちゃんは?」
「私? 私も家族で過ごす予定」
クリスマスとはいっても、神族である麗叶さんには馴染みのないイベントだし、普段通り過ごすことになると思う。
私にとってはその“普段通り”の時間が一番幸せだし。
でも、イベントの勢いを借りて麗叶さんに告白しようかなんて考えてもいる。
「ふ~ん? ユイユイは?」
「……」
「ユイユ~イ?」
「結華ちゃん、大丈夫?」
「う、ん? あ……どうかしたの?」
ぼぉっとしている結華ちゃんの前で軽く手を振ると、それに気が付いたらしい結華ちゃんが私たちに視線を向けた。
「ん、みんなはクリスマス何するんだろうなぁ~って思って! ユイユイはどうするの?」
「私は中学時代の友達と会う予定。みんなは?」
「久しぶりに会うの?いいね~!ウチはね──」
……あんなことがあった後も、私は変わらない生活を送ることができている。
あの日、急にベランダに駆け出すという形になってしまったけど、桃さんと葵さんが上手く誤魔化してくれたみたいで、翌週の月曜日にあった時も『体調大丈夫?』と聞かれた以外には何もなかった。
……だけど、あの日を境に結華ちゃんが空を見つめてぼぉっとしている時間が増えたのだ。
当然、加奈ちゃんと晴海ちゃんも気が付いていて、それとなく何かあったのか聞いてみたりしたけど、『なんでもない』としか言われなかった。
2人から聞いた話だと、あの日私が帰った後からこんな感じだと言っていた。
今みたいにフォローできるならいいけど、さすがに問題だ。
最初は受験勉強の疲れかと思っていたけど、
──……確実に黒邪の件と何らかの関係がある。
……大事になる前に麗叶さんに相談してみよう。
黒邪を倒したとは言っても、今は封印しただけで完全に消滅したわけではない。
月読様がどうして祓うのではなく封印に留めるようにと仰ったのかはわからないけど、きっと何か意味があるのだろう。
そこからは結華ちゃんも会話に加わった。
クリスマスや年末年始、冬休みが明けたら間もなくとなる共通テスト……話題は尽きない。
────ガラガラ
「あっ、姫野さん。少しいい?」
「?はい」
昼休みもあと少しというところで教室のドアが開かれ、廊下の冷気とともにお兄ちゃんが入ってきた。
賀茂先生は少し教室内を見回した後で、私に目を留めて手招きした。
* * *
「昼休み中にごめんね」
「いえ……どうしたんですか?」
「……」
心なしか憔悴しているように見える。
教室から少し歩いて階段まで来ると、小さく何かを呟いた。
「賀茂先生?」
「……防音の陣を張ったから言葉とかは崩して大丈夫だよ。……その、さっき師匠から連絡があったんだ」
「連絡?」
「……父さんと母さんが目を覚ましたって」
「!」
あれから眠り続けていたお父さんとお母さんが……
「……美緒は?」
「美緒はまだ眠っているらしい。俺も詳しい話は聞いていないけど、黒邪の術……洗脳の影は見られないらしい」
「咲空はどうする?」
「私、は……」
「洗脳が解けたということは、昔の──咲空を宝物のように愛していた父さんと母さんが帰ってきたということだ」
みんなが目を覚ましたら向き合いたいとは思っていた。
でも、いざその時が来ると……やっぱり怖い。
私の中にある暗い過去は消せない。
私は麗叶さんと出会い、友人たちと出会い……その中で優しさや愛情を知ることができた。
……それでも、『もし何も変わっていなかったら?』と何も映さない瞳で仄暗く問いかけてくる私も消えずに残っているのだ。
だけど……──
「──会わせて」
「!」
お兄ちゃんが知る私を愛していた両親なんて、私は知らない。
でも、私がこうして……麗叶さんに出会うまで生きてこられたのは、黒邪の術を受けてもそれに抗い続けた家族がいたからだと麗叶さんが言っていた。それもあって、少しくらい期待していいのではと思えるようになった。
それに、両親からの愛を望んでいた幼い私も、確かに残っているのだ。
消えることなく、ずっと私の中にいた。
「会ってみたい」
「そうか」
お兄ちゃんは嬉しそうに笑って優しく頭を撫でてくれた。
私の答えを、自分に良いことがあったみたいに喜んでいるお兄ちゃんからは一見すると陰なんて感じられない。
でもね、私は誤魔化されない。
ただの生徒の頃だったら気付けなかったかもしれないけど、今の私は見栄っ張りで強がりだったお兄ちゃんを知っているから。
──お兄ちゃん、私はお兄ちゃんのことも諦めていないからね?
【おまけ】
~その頃教室では~
「賀茂先生、雰囲気変わったよね?」
「あ~わかるかも。なんとなくって感じだけどね」
「もともと優しかったけど、さらに優しい雰囲気になったよね」
「そうそう!あとはなんていうか……幼くなった?」
「「?」」
「えっ、わかんない? ……なんて言うんだろう?説明難しいんだけど、変に張り詰めていた糸が切れたみたいな?」
「う~ん、よくわかんないけど加奈が言うならそうなんだろうね」
「ハルミ~ン!適当言わないでよ」
「ふふっ」
「あと、咲空ちゃんのことなんだけど……」
「ん?」
「なに?」
「絶っ対、彼氏いるよね?」
「あぁ……怪しいよね」
「最初は『ワンチャン賀茂先生?』とか思ってたんだけど、違そうだし」
「賀茂先生ね~」
「あの二人はどちらかというと兄妹じゃない?」
「「わかる!」」
「ま、言ってくれるまで待と」
「そだね~。……言ってくれなかったら卒業式の日に問い詰める」
「「あはは」」
友達の勘は鋭い。




