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18.残る爪痕


本日1話目の投稿です。





《──姫野颯斗、屋上に来い》


「──っ!」


始業式があった日の放課後、職員室で集めた書類の確認をしていると、近くから声がした。

周囲を見回しても、他の先生に不思議そうな顔をされるだけ。……声は俺の頭の中で直接響いているようだ。


……『姫野颯斗』、久しく呼ばれていなかった俺の名が呼ばれたことにいろいろな感情がない交ぜになった。


驚愕、歓喜、そして何より、()を知っている者への畏れ。


それでも俺は、()を知る声に従って屋上に向かった。



「……来たか」


「貴方は……!」


柔らかな風に白銀の髪をなびかせ、全てを見透かす黄金の双眸で俺を見据える者。

咲空の話を聞いていた俺にはすぐにわかった。目の前に立っている存在こそが、神族を束ねる存在であると。


「……天代宮様、私に何か御用でしょうか?」


「ほぅ……よく我が天代宮であるとわかったな。なに、、咲空の兄であるそなたと少し話でもと思ってな」


……やはり俺のことを知っていたのか。


「我が天代宮の記録は妖に惑わされることはない。……記録をとれていても、そこに意味を見出せなければ何も意味はないというのに……すまなかったな……そなた達には苦労をかけた」


「いえ……」


「そなたが心の準備ができればいつでも名乗ってやると良い。咲空はそなたに親近感を抱いるようだったぞ」


「咲空が……」


……嬉しいことだ。咲空が俺を覚えているかもしれないという期待が膨らむ。


──でも、まだ会えない。

本当はすぐにでも名乗りたかった。


「……俺がケジメを付けたら必ず」


「そうか……我はもう行く。咲空を待たせているからな」



これが、天代宮様と俺の最初の邂逅だ。







* * *








「───この後はおおよそ咲空が知っている通りだと思う。本当はあんな形じゃなくて、ちゃんと落ち着いて話そうと思ってたんだけど……」


「……」


「……何もしてやれなくて、護ってやれなくてごめんな」


「……」


眉を下げて私に『ごめん』と繰り返すお兄ちゃん。


「……咲空?」


「なんで……? なんで、お兄ちゃんが謝るの……?」


「?」


「お兄ちゃんだってずっとっ、苦しんできたのにっ……!」


「咲空……」


“誰も自分を覚えていない”なんて、そんな辛いことがあるだろうか?

全ての人から忘れ去られるというのは、私が経験してきたものきたもの以上に辛いはずだ。

当時のお兄ちゃんの気持ちを考えると、涙が溢れてくる。……辛いのはお兄ちゃんのはずなのに。


「何もできなかったのは私も同じでしょ? お兄ちゃんが頑張ってくれているのに、自分のことで一杯一杯になって、自分のことしか考えられてなかったっ……」


「俺は咲空が俺を覚えてくれていただけで十分救われたよ?」


「でもっ……」


「咲空、泣かなくていい。……もう、全部終わったんだから」


お兄ちゃんが浮かべているのは、歩んできた壮絶な人生を感じさせない穏やかな笑顔。


「咲空、颯斗は自分が受ける痛みよりも、咲空が痛みを受ける方が辛かったのだ。……我には颯斗の気持ちが痛いほどにわかる」


麗叶にもそう言われるけど、涙が止まらない。


でも……私をこんなにも想ってくれる人たちがいるということに、幸せな気持ちになる。


「……私も、私のことを想ってくれている人が、お兄ちゃんがいてくれたことがわかってよかった」


「俺は咲空が笑ってくれていたらそれが一番嬉しい。……美緒の本当の笑顔も、早く見てみたい」


「美緒……」


そっか、美緒も黒邪から解放されたから、もう自分の意志で動き、自分自身の感情を表現することができるんだ。

……私がこうしていられるのは、美緒が黒邪を抑えてくれていたからかもしれないという話を聴いたし、美緒とちゃんと話してみたい。


姉妹として、一歩目から新たに歩んでいくために。



私が落ち着いたところで、麗叶さんが「そうだ」とお兄ちゃんに向きなおる。


「お前はこれからどうする?」


「……今まで通り、陰陽師として妖や穢れを祓いつつ教師として生活していこうと思います」


「それはよい。家族に対してだ。……そなたのことを思い出した咲空はともかくとして、他の者が自然に思い出すというのは思い出すというのは不可能に近いぞ? 術者の媒体となっていた妹は覚えているかもしれないが……」


「……そちらも、これまで通りでいきます。俺たちは他人で、今回関りをもったのは黒邪を祓うため。……この(・・)世界を知らない彼らには教員として立ち会います」


「そんな……」


せっかく会えたのに、家族として対面することができないなんて……

私は物心ついた頃から、お兄ちゃんとお祖母ちゃん以外の家族に良い思い出がないから、正直このままでも構わないと思ってしまっているけど、お兄ちゃんは違うはずだ。


平穏が黒邪に崩されるまでは、両親から愛されていたはず。


「お兄ちゃんはそれでいいの?」


「……俺はみんなが幸せに暮らしてくれればそれでいい。思い出したところで10年以上離れていた息子なんてほぼ他人だろうし……」


お兄ちゃんはそう言うけど、浮かべる笑顔はどこか寂し気だ。

当然だと思う。お兄ちゃんは情が深い人で、禁止されていても様子を見に来てくれるほどに家族(私たち)を気にかけていたんだから。


「……」


「我が解いてやれたらよかったのだが……」


「いいんです。確か、神族が地上の者の存在を改変したりするのは禁忌されていましたよね? 」


「あぁ……」


「……元に戻すのもだめなんですか?」


お兄ちゃんの“消失の呪い”を解くのは、もともとの状態に戻すだけのはずだ。

それなら存在を改変していることにはならないと思う。


「咲空、俺の記憶をもっていると分かりづらいかもしれないけど、今この時まで続いている世界に、姫野颯斗(・・・・)は存在していなかったんんだ。黒邪が一度改変してしまった世界だからね。つまり、元に戻す(・・・・)ためにはもう一度世界を改変しなきゃいけないことになる」


「……」


「最初にも言った通り、今の俺は“姫野颯斗”の精神体が復活させた存在で、かつての姫野颯斗(・・・・)ではない。……『復活させた』よりも『生み出した』という方が正しいかもしれない」


「神族の記録には颯斗の存在が残っているが、それは雲上眩界で綴られたものであり、地上とは切り離された世界にあるのだ」


「咲空、これでいいんだよ」


















1ヶ月も投稿できなくて申し訳ありませんでした……!

この話を公開予約するのを忘れていた+忙しくて書き進められなかったということで1ヶ月も空いてしまいましたorz

本日中にもう1話投稿します!

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