9.姫野颯斗の追憶②
申し訳ございませんm(__)m
投稿予約するのを忘れておりました(><)
今回の話の時間軸は十二年半前で、当時の颯斗視点になります!
ん
家を出て2年か……自身の置かれた状況にも慣れてきてしまった。
俺は本当に幽霊みたいな存在になってしまった。
……この2年、家には帰っていない。
自分は最初から存在していなかったのだと突き付けられそうで怖かった。
咲空は気掛かりだったけど、咲空にまで忘れられていたらそれこそ耐えられなかった。
……2年前、一人くらいは俺を覚えている奴がいるんじゃないかって思って行った学校で俺が見たのは、目を背けたくなる現実。
前日まで俺が通っていたはずの小学校。俺が毎日勉強していた教室。
でも、そこに俺の席はない。名簿からも俺の名前は消えていた。
友人関係が少し変わっていたような気がしたけど、その程度。
友人たちの輪の中に、俺は存在していなかった。
俺の状態についてまとめると、
一つ、他の人には俺の姿が見えず、声も聞こえない。
二つ、触れないのは生きている動植物だけで、無機物や死んだものには問題なく触れる。
三つ、触れるものに対しては干渉できる。
四つ、食事や排泄の必要がない。
五つ、睡眠を必要とせず、一日中活動していられる。
こんな感じだろう。
一、二、三から俺が幽体であれなんであれ存在はしていると言えると思うけど、四、五を考えると生きているとは言えないだろう。
あと付け加えるとすれば、質量のない状態だということだろうか?
質量がゼロではありえない、というか出来ないこともできているから全くないわけではないだろうけど、限りなく質量の小さい存在だとと思う。
家を出て何日かという頃、道を歩いていた人の服を引っ張って自分の存在を知らせようとしたら、そのまま引きずられてしまったということがあった。質量が大きかったら摩擦力がはたらく……というか、気が付いて止まるなり叫ぶなりされていたと思う。
『触れるものに対しては干渉できる』と言ったが、一度人がいるところで本を読んでしまって心霊現象と騒がれてしまった。それからは注意して行動するようにしている。
物を持てるということは自分に重量はなくとも、筋力はあるということだろうけど……何とも言えない奇妙な感じだ。
行動というのは主に読書。絵本から教科書、専門書、狂信者が書いたであろう怪しい本まで、何から何まで読み漁った。
そのおかげで、俺の学力や知識は俺の年齢では考えられないくらい高度なものになったと思う。
とはいえ、数日前まで俺の精神はかなり荒んでいて、やる気の活力も失いかけていた。
正直、『11歳の俺に何ができる?』とは今でも思っている。
現状を何とかしたいと思って毎日図書館に入り浸り、自分に起きている現象を説明しているものはないか探してきたけど、それだけ。肝心の俺の現状に関しては何の手がかりも掴めていない。ただ無駄に時間が過ぎただけ。
精神が荒廃していくのを感じる毎日だった。
だけど数日前……そんな日々の中で、咲空を見かけた。
俺が住んでいた家とは随分と離れた場所でだったから、最初は見間違えか他人のそら似かと思ったけど、確かに咲空だった。
咲空は最後に見た時よりも大きくなった咲空は、笑顔で街中を歩いていた。……祖母ちゃんと手を繋いで。
……安心した。
祖母ちゃんは両親に見向きもされない咲空を見た日から度々うちに来て咲空を可愛がってくれていたけど、祖母ちゃんも父さんと母さんみたいに変わってしまうんじゃないかって不安だったから。
両親がおかしいままだとしても、咲空が笑っていられる場所が残っていた。祖母ちゃんは変わらず咲空を大切にしてくれていたんだって安堵した。
そして、咲空の笑顔は俺を安堵と同時に俺の活力になった。
誰とも話すことができずに図書館や資料館を転々とし、本を読み漁る毎日。そんな毎日に疲れ切り、諦め始めていた俺に、失っていたものを取り戻させてくれた。
俺は絶対に咲空の傍に戻る。たとえ、どんなに大変なことがあったとしても……!
俺はそう、決意を改めた。
決意を改めてから数日目の今日も、俺は図書館に籠っている。
この図書館に来たのは昨日だけど、なかなかの蔵書数で初めて見る本も多くあった。
さて、今日はどの本を読むか……ん?
──……見られてる?
俺が今夜読む本に目星をつけていると、どこからか視線を感じた。
普通に考えればあり得ない。
俺は普通の人には見ることも感知することもできない存在なのだから……
『それでも』と告げる何かに突き動かされるまま周囲を見回していると、一人の老人と目が合った。
……いや、たまたまだろう。今までにも人と目が合ったと感じることはあったが、その人達は全員、俺の後ろにある物や人を見ているだけだったのだから。
そう思って別の場所に行こうと移動したけど、老人の目は俺を追いかけてきた。
その後もしばらく老人の前で動いていると、老人が小さく呟いた。
「──……付いてきなさい」
っ、俺に言ったのか……?
再び周囲を見回してみても、やぱっり誰もいない。
驚愕しながら老人を見つめていると、老人は穏やかな顔で静かに頷いた。
『──っ!』
老人はくるりと背を向けて歩き出す。
俺の脚は気が付いたら老人を追って動き出していた。
──神の導きのような出来事だった。
俺は図書館にいることが多いとはいえ、図書館で日中に出来ることはほとんどないから図書館にいないことも多いく、その時滞在している図書館の近くにある神社やお寺を巡って過ごしている。
お坊さんや神主さんならば俺を見るくらいはできるんじゃないかという淡い期待を持ってたくさんの神社仏閣に訪れた。
なのに、今日は今日の夜に読む本のピックアップをしようと思って図書館に留まった。
やっと、事態を好転させる糸口が見つかったかもしれない。
ゆっくりとした歩みで図書館を後にする老人を見失わないよう、必死に涙を拭う。
こんなことになってから今日まで泣いたことなんてなかったのに、涙が止まらない。




