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4.目覚め


「──4時……」


まだ暗い部屋の中フッと意識が浮上して目が覚めた。時間を確認すると普段ならばまだ寝ている時間だけど、昨日は明るいうちに寝てしまったからか、もう目が冴えてしまったし、このまま二度寝するというのは無理そう。


……ふふっ、こんなに長い時間眠ったのは初めてかもしれない。……麗叶さんに出会った時のことは除いてだけど。


昨日─黒邪を封印した日、月読様との話が終わって部屋に戻ったらそのまま寝てしまったみたい。

少し横になろうと思っただけだったんだけど……やっぱり、精神的に疲れていたのかな……。


黒邪は祓われたわけではないけど、もうその脅威におびえる必要がなくなった。

その安心感と解放感から、今まで張り詰めていたものが一気に押し寄せてしまったのかもしれない。


今まであまり良い関係とは言えなかった美緒も黒邪から解放されたし、これからは今までとは違った関係を築いていけるかな……?

……お母さんとお父さんも、術が解けたはず。


……正直、今更どんな風に向き合えば良いのかわからない。

あの家族(・・)の輪の中に私は入っていなかったし、いつのまにか『仕方がない』とさえ思うようになっていた。……私に物心がついたころから、私とあの人たちの間にあった繋がりは血縁だけ。


麗叶さんは、『黒邪の術下に者達の中にいて(そなた)がその年になるまで生きていられたのは家族の精神力が強かった故だ。何より、そこに黒邪であっても掌握できないほどの愛情があったのだろう』と言っていたし、私自身、黒邪が本当に美緒や両親の精神を支配していたのならもっと早くに死んでいたと思う。


──本当は愛されていたんだって思いたい。


だけど、黒邪の支配から解放された今、あの人たちが何も変わっていなかったら?

黒邪というイレギュラーな要素が取り除かれた今、あの人たちの言動や感情は何に縛られることなく、その意志が反映される。

それでも愛されなかったなら、私はあの人たちにとって結局その程度の存在だったということになる。


……もう新しい居場所を見つけたから、そうなったとしても前ほど大きな悲壮感はないだろうし、そうなったらそうなったで仕方がないと諦められるとは思う。

それでも、ずっと願ってきたものだから多少なりと落胆はするだろうな……



でも、今それ以上に気になるのは賀茂先生のこと。


──……さっきまで、夢を見てた。


懐かしくて暖かい、夢。記憶の片隅に残っていた、幼少期の記憶。


昨日の意識のない美緒を見つめる賀茂先生を見たからかもしれない。私が奥にしまい込んでしまった記憶とあまりにもそっくりだったから。

忘れてしまっていた過去が鮮やかに蘇った。


きっと、『そんなはずがない』って無意識にその可能性を弾いてしまっていたんだと思う。あり得ないことだと思い込んで、記憶に蓋をしてしまった。


少し前に麗叶さんが言っていた通り、私と賀茂先生の間には“浅からぬ縁”があった。

今までに覚えた既視感の正体もはっきりとわかった。


……昔と何にも変わってなかった。


次に会った時には先生と生徒じゃあない、もう一つの繋がりを表す呼び名で呼びたい。


ふふっ、私が昔みたいに呼んだらどんな顔をするだろう……?





* * *





「──もう起きたのか? まだ早い、もう少し寝ていてはどうだ?」


「麗叶さん。……昨日早くに寝てしまったからか目が覚めてしまって」


「そうか。体調はどうだ?疲れはないか?」


「私はたくさん寝たので大丈夫です」


思うところはあるけど体調に問題はない。

……それに、私なんかよりも麗叶さんの方が疲れている感じがする。見た感じはいつもと変わらないから上手く説明できないけど……


「……麗叶さんは大丈夫ですか?」


「あぁ、大事ない」


麗叶さんが嘘をつくことはないから、麗叶さんとしては大したことではなかったのかもしれないけど、いつもよりも疲れていると思う。昨日、私は見ていることしかできなかったけど、麗叶さんはたくさん神力を使っていたし、私が眠ってしまったあとにもいろいろしていたのだと思う。

……私が頼りないから仕方がないのかもしれないけど、頼ってもらえないのは寂しいな……


「……」


「そんな顔をするな。……少し、後始末をしてきただけだ」


私が静かに落ち込んでいると、麗叶さんは少し苦笑した後で観念したように何があったのか教えてくれた。


「後始末?」


「あぁ。朋夜を呼び出し沙汰を下してきた」


「そうだったんですね……」


「あの者はすでに孤島に隔離したが、そなたの意見を聞かずに事を進めてしまってすまない」


「い、いえ……!」


そっか……あのヒトはもう隔離されたんだ。

会いたくないと思っていたから、ほっとしてしまっている自分がいる。

私にとっては、黒邪の代となっていた美緒以上に恐ろしい存在だったから。


「……我としては一言謝罪をさせたかったが、反省の色があまり見受けられなくてな。そのような状態の者に謝罪をさせたところで意味もあるまい」


……朋夜に下った罰は十年間の隔離と転生の途絶。

法律には詳しくないけど懲役や禁錮の実刑判決だと考えれば十年というのは重い部類に入ると思うし、全ての生命が死後に別の存在に生まれ変わるのにそれが禁じられるというのは、人間の私が考えている以上に厳しい罰だと思う。


「今日はどうする?」


今日は金曜日。

学校はあるけど、色々なことがありすぎたからか今日は学校に行こうという気持ちになれない。


「……学校は休ませてもらいたいです」


「わかった。一日この邸で休養するか?」


「……、賀茂先生はどうしていますか?」


「……あやつも今日は休むようだ。休むとはいっても教員としては休むというだけで、陰陽師としては後始末に追われているようだがな」


やっぱり忙しいんだ……

会いに行ったら迷惑かもしれない。


「……会いに行くか?」


「迷惑じゃありませんか?」


「そんな事はない。きっと喜んでそなたを迎えよう」


「……会いに、行きたいです」


「わかった。先触れを出しておこう」


「ありがとうございます」




「……思い出したようだな」


「はい──」
















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