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2.過ち①


(朋夜視点)



突然、美緒がいなくなった。

気配を感じることもできない。


出会ってから4年……こんなことは初めてだ。こんなことは今までになかったというのに、何が起きているのだ?


美緒とはほとんどの時間を共にしているが、『四六時中一緒にいては緊張してしまう』という美緒の言により、夜間と美緒が学校にいる間は別に行動をしている。

別に行動しているとは言っても、一度結ばれた半身の糸は常に美緒の存在を感じさせていた。


それが今朝、いつものように美緒を美緒の家に迎えに行き、己の到着を告げようとしたとき、美緒の気配が消えたのだ。

慌てて玄関の戸を開けて、母親に美緒の所在を尋ねると、美緒の部屋を確認しに行った母親は『美緒がいない』と慌てふためきながら戻ってきた。


神族に仇成す何者かが美緒を拐かしたのだろうが、命知らずなことだ。


そして、心当たりのある場所を飛び回っているところに、天代宮様よりの召集がかかった。


そんなものに応じる余裕などなかったが、仕方がない。それに、完璧でないとはいえ特別な()をお持ちの天代宮様ならば美緒を見つけることが出来るかもしれないと、召集に応じた。






* * *






「──は?」


「理解できぬか?」


天代宮様は何を仰っている?


美緒に妖の王が憑いていた?

では俺が今まで話してきた美緒は何だったのだ?


今しがた成された会話をもう一度思い返す。



『天代宮様、神狐族三位が朋夜、お呼びにより参上いたしました』


『うむ』


『して、何用でございましょう? 失礼は承知の上でこちらからもお願いしたいことがございまして……御用の後にお時間をいただけませぬか?』


『……お前の願いというのを先に聞こう』


『はっ、ありがたく存じます! 数刻前より、我が半身である姫野美緒が姿を消し、気配も感じられず……天代宮様ならば何か分かるのではと思いまして……ご助力を頂ければと……』


『……ちょうど良い。こちらの用も一つはその半身についてだ』


『……?』


『そなたの半身だが、妖の王である黒邪の代となっていた』


『っ、 美緒はそのために姿を消したのですか!?』


『違う。そなたの半身は生まれてより……いや、母親の胎にいた頃より黒邪に憑かれていた』


理解が出来るはずもない。

妖の専任ではないとはいえ神族である俺が、妖の存在に気が付かないなど……


「み、美緒は今どこに?」


「安全な場所にて保護しているとだけ言っておこう」


「なっ……!」


その居場所を教えてはくださらないのか?

無事でいるというのには安心したが、結局の問題は解決していない。


「っ、その居場所とは──」


「そしてもう一つ。朋夜よ……お前は我の眼を盗んで随分と悪どいことをしていたようだな?」


「っそのようなことは……」


「永遠に露見しないとでも思ったか? 確かに我だけでは気が付かなかったかもしれぬが……地に住まう者達に害を成すことが何を意味しているのか知らぬはずはあるまい?」


部屋が重苦しい空気に変わり、天代宮様の冷えきった目が向けられて耐えきれずに頭を下げる。


っ、どこまでバレている?

天代宮様の()は完璧ではない。上手く掻い潜っていたはずだっ……


「──麗叶、代わろう」


「……よろしくお願いいたします」


俺と天代宮様しかいなかったはずの空間に突如響いたもう一つの声。


「あ、貴方はっ……」


怪訝に思って頭を上げた俺の目に映ったのは、俺達神族の主である存在。すぐに再び頭を下げる。


「ふむ。さすがに私が何者であるかは分かるな?」


「……勿論でございます」


分からないはずがない。

会ったことはなくとも我ら神族の主にあたる存在だ。本能がそう告げている。

しかし──


──どうして……何故、ここに神がおられる?


「そなたには罰を与えよう。それが世の定め」


「お、お待ちくださいっ……!」


「時に、そなたは半身が傷つけられたら何を思う?」


「は?」


神は無情にも待つことなく口を開く。こうなってはもう隠しようもあるまい。

しかし、こんな時に何を……?

半身を傷つけられたら何を思うかなど、決まっているではないか。


「……赦しがたいことと存じます」


「ふむ……そなたはその赦しがたいと思われることを成したのだ」


「どういうことで……」


「そなたが害を成した人間の中には、神族の半身である者達がいたのだが……知っているか?」


「っ……!」


そんな事は知らない。

半身でない人間は神族にとって等しく人間でしかないのだから。

……待て。神は『者達』と仰った。


「──さよう。そなたがあわや命を奪わんとした半身は判っているだけで二人だ」


「っど、どなたの半身で……?」


「水神族一位の清香の半身と、ここにいる麗叶の半身だ」


「……!」


天代宮様に視線を移すと、身がすくむような凍てつく視線でこちらを見据えていた。

そんな……いや、美緒の害となる人間を何人か断罪したが多くはなかったはずだ。……まさか、その中の天代宮様の半身がいるなんて……


清香殿はまだいい。問題であるとはいえ、神狐族である俺の方が優位にある。しかし、天代宮様は絶対的な高位に立っている。弁明などを聞き入れてくれるはずもない。

どうする……


「悲しいことだ。この状況において、未だにそのようなことを考えているとは……神族は正しくあらねばならぬというに、半身によって得た心は歪んでしまったようだな」


「……!」


っ、思考を読まれているのか。


「これは妖王の存在に気付かなかった(我等)の責でもあるのか……──」


神は一瞬の哀愁を感じさせたが、すぐにその威厳に満ちた風格を取り戻し、これまでにない強い神気を放つ。


「──処罰を言い渡す。神狐族五位が朋夜よ、禁忌を犯しそれを悔いることもない神族にあるまじきその悪辣さ。よって、罰として雲上眩界の孤島への十年の隔離と、その階位を次代へ継承した後の魂の消滅を科す──」












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