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28.禁忌の代償


愛する人を殺された……確かに、物語としてはよくある話かもしれない。……そうした物語の中では残された人が苦悩し、それでも未来に向かっていくという美談になるような話だと思う。

でも、それが現実として起こったらどうだろう? 愛する人の無念の死を乗り越えることなんて……

それも、()に殺されたというのなら、荒れ狂う感情をどこに向ければいいのだろう……?

憐んで手を差し伸べてくれる人がいなかったらどうやって立ち直ればいいのだろう?


《殺された者は(我ら)の愛し子であった。……自然が溢れ、愛し子の力が村々の発展に直結した時分、愛し子がもたらす豊かな実りは時の権力者共の欲望の対象となってしまっていた。……そして、最後にはその力を恐れた愚か者の手により命を落とした》


「……それが愛する者と同じ立場にある愛し子を殺害していたのは何故に?」


《黒邪は己の恋人に起こった悲劇を繰り返すことを厭い、現在に続く暴挙ともいえる行動を起こしたのだ。悲劇が起こる前にその生を終わらせるというな》


「なるほど……」


「……」


なんて悲しい話なんだろう……

何百年、千年を超えるような凡人には想像できない長い時を、何を思って過ごしてきたのだろう?


──……でも、本当に起きるのかわからない悲劇のために人を殺すというのは理解しがたいし、赦すことはできない。私たち家族は引き裂かれ、私は辛くて苦しくい時を生きてきた。それをなかったことにするというのは……私にはできそうにない。


「……神様の手で救うことはできなかったのですか?」


神様が手を差しのべれば何か変わっていたと思う。


《……愛し子とはいえ、その魂が地に降りれば理の縛りの内に入る。他の命と同様にな。理を歪め、世を混乱に陥れることとなる特定の者に干渉はできない。……何より、我らは一連の悲劇に気が付かなかった。それが一番の罪業であろう》


「……」


《咲空、そなたにこうして干渉できているのはそなたが麗叶─神族の半身故なのだ。そなたやそなたの妹などは地上での理の縛りが弱い。そうでもなければ此度も何もできなかった》


神様も出来ないことがあるんだ……

ううん、全能だからこそ、その力が世に及ぼす影響も絶大だし、神様達が好き勝手に振る舞っていたら、混沌とした日々を過ごすことになってしまうと思う。

きっと、理というのは神様達が世界を護るためにお互いに課した枷なんだ。


《……可哀想なことをした。異変を感知したところで出来ることがないとはいえ、出来ぬのと知りもせぬというのでは天と地ほどに話が異なる》


「……その業を背負うべきは我ら神族でしょう。あなた方はこの世界の外におられました」



《……過去を悔いても仕方がない。黒邪、そして朋夜の処遇の話をしよう》







* * *






(麗叶視点)



「朋夜の処遇については、天照様より少しうかがっておりますが、黒邪にはどのような処遇をお考えで?」


《まず、黒邪であるが、黒邪は妖の王と人の魂を分離し、妖の王は完全に祓い消滅させる。そして人の方は……一つ確認が終わった後で断ずる》


封印するにとどめた理由は、黒邪に堕ちた男は魂となり黒邪の一端となってはいても先程のような事情があり、温情をかける余地があるということであろう。

何を確認するのかはわからぬが……


「承知いたしました」


《うむ。続いて朋夜であるが、もう一度奴の罪の確認をしよう》


「朋夜については以前報告した通りです。……咲空や水神族第2位の清香の半身たる水上奏斗を含む守護対象への過干渉、並びに度重なる暴行。そして、与えられた役目を式神に投げ自身は報告を聴くのみという怠慢》


《うむ。それらに対する罰はおおよそは以前に姉者が通達した通りである》


「雲上眩界の孤島への隔離でしたか?」


それに加え、『今はまだ明かせぬ』と言っていた罰。


《……そなたはどう考える?》


「……半身の存在を知りながら会うことができないというのは半身を得た神族にとって何よりの罰かと」


《理解を感謝する。しかし、隔離期間は十年とする》


「それは……」


犯した罪を償うには短過ぎる。

限りのない命をもつ神族にとって、十年など一瞬だ。半身に会えぬ期間としては長くとも、十年程度なら再び会うということも叶い、罰にはなり得ない。

もう一つの罰がよほどのものなのか……


「……」


《当然、これだけでは不満であろうな?》


「……申し訳ございません」


《よい。……私自身は朋夜に罰を与えること自体、気が進まなかった。同胞である者に罰をあたえるのは心苦してな。そなたらは我らの不在を補う兄弟姉妹のような存在》


「……」


……天照様が仰っていた。神の中でも朋夜の処遇についての考えは割れており、擁護する者が少なくないと。そして、擁護派の筆頭は月読様であると。


《しかし……》


慈愛の表情は厳然たるものへと一変し、纏う空気も冷たく重いものとなった。


《禁忌に対する罰を軽いもので済ますことはできない。朋夜は年若くして半身に出会ってしまったとはいえ、神族としての任を放置し、禁忌をおかした。理を歪め、多くの者の生を混乱に陥れたのだ。同情心や憐憫で赦されることではない》


「では……」


《朋夜は……力の継承後にその存在を消滅させる》


「っ!」


存在の消滅……

……我ら神族は次代に力を継承したら自ら世との繋がりを絶って神の元へと向かうのだ。

どのような存在となるかはわからぬが、人の命が輪廻の輪によって廻っているように、神族もその姿形を変えながら存在し続ける。

それが赦されないということは……──



《どうだ? 禁忌を犯した代償として十分過ぎよう?》


「……はい」


《半身に会えぬというのは、神族のみならず人にとっても辛いものだ。よって、隔離は十年とし、その後には最期の時を過ごす時間を与える。ただし、それも二百年までだ》

















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