25.開戦
「では行こう」
「はい」
次の日、いつものように空き教室に登校したけど、いつもだったら私を送ったあとすぐに雲上眩界に戻ってしまう麗叶さんも今日は一緒に教室に向かう。
……姿は見えないけど麗叶さんの存在確かに感じる。なんだろう?いつもと変わらない廊下のはずなのに、フワフワするというか……変な感じがしてしまう。
……私は地上にいる間に学校以外の場所に行くことがない。だから、黒邪が来るのはどうしても学校になってしまう。黒邪は私の気配をたどってくるから、私がいる場所、学校に。
話を聞いたときに『私が最初から誰もいない場所にいれば良いのでは?』と思ったけど、いつもと違う動きをすると黒邪が警戒を強めてしまう。それに、神様の加護を受けた私が3年間通ったこの学校は陽の気という妖の力を抑える力が満ちた神聖な空間になっていて、突発の神術をかけて力を弱めるよりも効果的に黒邪を弱体化させられるらしい。
だから本当はこの学校で黒邪と戦うことができるのが一番確実だけど、学校の教室という狭い空間ではこちらにも色々な制限がかかってしまうから、結界の力が弱まって最悪の場合には取り逃がしてしまう。だから、この学校に来て黒邪の力が弱まったところを絶対に逃げられない強力な結界の中に飛ばして祓うみたい。
そして黒邪を飛ばすときには私も一緒に飛ばすみたい。黒邪は結界の中に、私は結界の外に移動すれば大きな危険はないし、私が学校に残って、黒邪が他の妖を引き連れていたとなったときに学校にいる人たちを危険に晒すことになってしまうから。
黒邪が妖を連れてくるとしたら、その妖には私を攻撃するように命じているはず。なら、攻撃対象である私がいなければ知性を持たない妖は目的を失い、自分たちを弱体化させる空間に留まる理由はないからどこかに行くはず。
万が一にも学校に被害を出さないように桃さんと葵さんは残って対処にあたってくれる。
……麗叶さんが教えてくれた作戦では、可能であれば黒邪が接近してきたら教室や人のいる場所から離れるということになっているけど、黒邪が人間に化けている間は使っていなかった術を解放してくる可能性が高いらしくて、その場合には教室から移動する余裕がないかもしれないみたい。
黒邪は美緒の体に入っているから実体があるから、壁や床をすり抜けて現れるということはないだろうけど、瞬間移動のような能力を持っているらしいから、突然目の前に現れるということはあり得る。
私の移動が間に合わなくて、急に私の妹が入ってきてその次の瞬間には消えたなんてことになったら、みんなになんて説明すればいいんだろう……私たちの世代は生まれた時から神族という人間の理を外れた存在を知っている社会で生きてきたとはいえ、普通に生活していて超自然的な事象を目にするなんてことはない。
せめて廊下まで移動できていたらまだ人目は少ないと思うんけど……
……ううん、まずは作戦を成功させなくちゃ。みんなに説明しなきゃいけない事態が起こったらその時に考えればいい。
今は自分にできること、普段と変わらない生活を。
* * *
いつものように加奈ちゃん達と話をして、チャイムが鳴ったら早川先生が来てホームルームが始まった。
「──おはようございます。クラス委員・保健委員の4人は13:15から集まりがあるので、お昼を食べた後に指定された教室に向かってください。それと、今日は賀茂先生が体調不良でお休みされていますが、日本史選択の皆さんはいつものように過去問に取り組んで自己採点をしておいてください。今日解いた部分についての解説は次回の授業で行うそうです。最近はインフルエンザや風邪が流行っているので各自予防してくださいね」
ホームルームの終わりに先生からの連絡があって、1限の準備をしたらまたみんなでまで集まって授業が始まるまで話をする。……本当にいつもと変わらない普通の生活だけど、今この瞬間にも黒邪が来るかもしれないと考えると何とも言えない緊張感があっていつものような自然な開始をするのが難しい。
「賀茂先生が風邪かぁ……」
「昨日は普通に元気そうだったのにね」
「そうだね」
「2年生でインフルやばいらしいから気を付けないとだね」
「うん」
……普通にするのって思ってた以上に難しい。麗叶さんもいるから大丈夫だとわかっているのに……
「……咲空ちゃんも今日体調悪かったりする?」
「……何ともないよ。もしかして声枯れてたりする?」
「ううん、なんとなく元気ないように見えただけなんだけど……大丈夫ならよかった」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
……指摘してきたのは結華ちゃんだけだけど、反応を見る感じだと加奈ちゃんと晴海ちゃんも違和感を感じてしまっていたみたい。……難しいなりに普段通りに話していたつもりだったけど、普段から話しているみんなにはわかっちゃったみたい……気を付けないと。
《──咲空、奴が来た!》
「っ……!」
その時はすぐに、でも突然にやってきた。それまで見守りに徹していた麗叶さんの鋭い声が突然、頭の中に響く。
まずい……今は休み時間の最中だから廊下にも教室にも人がいる。
「みんな、ちょっとごめんっ!」
「えっ?」
「咲空ちゃん!?」
麗叶さんの声から察するに時間に余裕はない、空き教室に移動はできない、廊下にも人が大勢いるっ。
「っ!」
私が最終的に選んだのはベランダ。ベランダは教室からすぐに出られるし、太い柱の陰なら校舎内からは死角になっている。
「久しぶりだね、お姉ちゃん」
「……」
「会えて嬉しい……でも──「よくやった。あとは任せろ」
「はい!」
麗叶さんの声と共に光に包まれた。




