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24.覚悟


学校から帰ると、いつもと違う重い空気を纏ってその顔に剣呑な表情を浮かべた麗叶さんが、大切な話があると切り出した。


静かに深呼吸をした様子の麗叶さんがゆっくりと口を開く。


「黒邪が、そなたが生きているということに気が付いたようだ」


「──っ!」


ついに……

いつかは気が付かれる日が来ると思っていたし、私だけがこの平穏な日々を享受し続けるわけにはいかないというふうにも考えていたけどついに……


「大丈夫か?」


「……大丈夫です。不安がないと言ったら嘘になりますけど」


「そうか……そなたは強いな」


「そんなことはないです」


麗叶さんから伝わってくる感情は“不安”。

絶対的な力を誇る麗叶さんが感じるにはあまりに不似合いな感情。


「……私は、どうすればいいですか?」


麗叶さんにそんな感情を浮かべさせる何かがあるとしたら、それは私としか考えられない。


……麗叶さんと出会ってすぐの頃にはこんなこと考えもしなかっただろうな。


でも今は──麗叶さんと一年近くの時を一緒に過ごしてきた今は、自惚れのように思えるこの考えをただの自惚れではなく、確かな自信と共に受け止めることができる。

それどころか、私を勇気づける糧になっているとすら感じる。……まったく、麗叶さんに不安を感じさせているというのにそんなことを思っているなんて、性格が悪いな。


……私が生きているということに気が付かれたからには、麗叶さん達神族も黒邪を倒すために動き出すはず。そして、黒邪が狙っているのは神様の加護を持っている私だというのだから、麗叶さんが心配するだけの何かがあるのだろう。


ならば、私も私に出来ることをしたい。

そんな思いで、麗叶さんの瞳を見つめていると、麗叶さんが少し表情を緩めた。


「そなたに頼みたいのは特段、常時と違った何かではない」


「そなたに頼みたいのは特段、常時と違った何かではない」


「……いつもと同じように生活していればいいんですか?」


「そうだ。……しかし、いつ黒邪が襲ってくるともわからぬ状況で、常時と何ら変わらぬ生活を送るというのは簡単なことではなかろう」


「そう、ですね……でも──」


確かに簡単なことではないと思う。だけど、私は一人じゃない、護ってくれる人達がいる。


「──皆がいますから」



「……そうだな。事が済むまでは我もそなたの傍にいたいのだが、良いだろうか?」


「ふふっ、もちろんです。お願いします」


「あぁ」


麗叶さんが傍で守ってくれるなんて心強い。

……ちょっと恥ずかしいけど……


「ありがとうございます。ただ……黒邪が襲ってきたときに私の周りに人がいたら、その人たちは大丈夫ですか?」


「それは大丈夫だ。通常の人間にも見える姿であるためそなたの妹が突如現れたこと、その後の展開に関して何らかの言い訳を考える必要はあるが、危害が及ぶことがないよう万全を期している」


「そうですか」


みんなに危害が及ばないならよかった。……もし、授業中に襲われたりしたらって思っていたから。


「……我らの策を話しておこう」


「はい、お願いします」


「……まず、これから話すのは鬼神族と我で討議した結果、方針として立てたものだが、現時点のものだと理解して欲しい」


「?」


「相手を考えるに、策の通りに事が進むということはないだろう。よって、作戦に関わる者達に、状況によっては各々でその状況を断じて行動するようとに言ってあるのだ」


なるほど……確かに、作戦を立てたとしても不測の事態は起こりうるものだし、相手が相手だ。それなら、最初から作戦は大筋程度で捉えておいた方がいいかもしれない。


「わかりました。臨機応変に動けるようにしておきます」


「頼む。そして、今回の作戦は簡単に言ってしまえば、黒邪が現れたら人気のない山中に飛ばし、そこで結界に閉じ込めるというものだ」


「山中に飛ばして結界に?」


「……黒邪を雲上眩界(この界)に飛ばすことができれば結界など張る必要はないのだが、この界は陰者である妖は不可侵の領域であるため、こちらの思惑といえどもそれが叶わないのだ」


「そうなんですね……」


こちらの土俵に引き込んでしまえばと思っても、簡単にはいかないのか……


「よって、地上にて事を進める必要があるのだが、黒邪の本体は実体をもっていないために地中であれ、壁であれすり抜けてしまうのだ。……先代が黒邪の討伐に打って出たときもそうだったのだろう」


「……」


「逃げ道を全て絶たねば、奴は僅かな穴をも見つけて我らの目を掻い潜り、姿をくらましてしまう……」


苦々しい表情で、手に力を込めた麗叶さんから伝わってくるは『今度は僅かな隙も与えまい』という決意。

……麗叶さんは先代の天代宮様が黒邪を完全に討伐できなかったという話をしてくれた時にも、深い後悔と決意を滲ませていた。

きっと、人間の私が思っている以上に、深い因縁があるのだと思う。


だけど、一つ息をついて手の力を弛めた麗叶さんは、私の方に視線を向けて眉を下げる。


「……残念なことに、我ら神族が用いる結界術は奴を弱めることはできど長く閉じ込めておくのが難しいようなのだ」


「えっ……? 結界が効かないんですか?」


「あぁ……他の妖は問題なく閉じ込めておくことができ、強力といえども本質が同じはずであるのに、妖の内で奴だけには神族の結界が薄いのだ。……それが何故かは追及していかねばならぬが……」


「じゃあ……」


「そこで、結界は人間によるものを用いる」


「人間の……?」


結界が効かないなら本末転倒ではと思ってしまったけど、そんな事はなかったみたい。

でも、人間……?


「陰陽道を継いでいる者達だ。古くより、我ら神族と共に妖を祓っていてな」


陰陽師っていうことか……

昔の記録を見させてもらったから実在していたということは知っていたけど、今でもいたなんて……


「人間だけでは打ち破られる恐れがあれど、その者達が展開した結界を神族で維持すれば、黒邪がすり抜けることも打ち破ることもできない結界となる」






* * *





(麗叶視点)




人間と神族の共闘など、咲空と出会っていなければ思いつかなかったであろう。そもそも我らの結界の欠陥に気が付けなかったはずだ。



『……私は、どうすればいいですか?』


決意の宿った澄んだ瞳でまっすぐに私を見つめてきた咲空。

咲空は本当に強くなった。不安を感じないなどあるはずがないのに、確かな自信をもって我を見据えていた。


……颯斗にあんなことを言っておいて、我も咲空を危険に晒すという不安を隠せていなかったらしい。


まったく、弱気になるなど我らしくもない。以前には考えられなかったことだ。

……しかし、こうして不安を感じてきたということに悪い気はしない。……良い感情ではないというのに不思議なものだ。


……咲空は我を信じてくれている。ならば我も咲空を信じないでどうする?


咲空と出会って学んだことの一つだ。

信じる心は己を強くする。


我に大切なことを教えてくれた咲空に安寧が訪れるよう、全力を尽くそう。

















明けましておめでとうございます(*^^*)

初っ端から遅刻してしまい申し訳ありません_(..)_


最近は安定した投稿ができておりませんが、楽しんでいただけるよう頑張ってまいります!

今年も、よろしくお願いいたします_(..)_





能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

災害発生時には被災地から離れた場所にいた私も大きな不安を感じました。現地にいらした方々が感じた不安はどれ程のものだっただろうと考えると胸が痛み、当たり前の日常がどれ程尊いものなのかと考えさせられております。


その後も度重なる余震、寒さ、支援の不足等、心休まらぬ日々をお過ごしかと思いますが、皆様のご無事と一日も早い復興をお祈りしております。








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