23.決戦への備え
(麗叶視点)
咲空を学校に送り届けた後、雲上眩界に戻り牡丹の殿で記録の整理をしていると、我のいた近くの空が歪み、黒邪を見張らせていた式神─和泉が現れた。
「──主様、緊急のご報告により参りました」
「……黒邪に動きがあったか?」
咲空に出会って黒邪の存在を確認してより、常時黒邪の動向を監視していた和泉が来たということは、咲空が生きていることが何らかの形で黒邪に知られてしまったのだろう。
「はい、姫君の生存が黒邪に露呈しました。……私の監視も悟られているかと」
「あぁ、我らの存在も悟られていると見てまず間違いなかろう」
そして、我の存在に気が付いた黒邪はなりふり構わず動き出すであろうな。今日すぐにということはなくても明日、明後日には接触してこよう。
咲空は今学校に行っている……葵と桃が付いているとはいえ相手が黒邪となると少々戦力不足だ。早急に増援の式神を向かわせ、鬼神族にも協力を仰ごう。……我もいつでも向かえるようにせねば。
……本音を言ってしまえば我が近くにいて護ってやりたいが、天代宮である我には縛りがあり、すぐに向かうことができない。神に報告し、我が直接動く許可を得ねばならぬ。事前に、『報を入れれば動いて良い』という確約は頂いているが……すぐにでも行きたいというのに歯がゆいものだ……
「……和泉、お前は再びあちらに戻り、黒邪の監視を続けよ。長門も向かわせる故、共に監視を行い、連絡がある際も片方は監視を続けろ」
「はっ」
「今すぐに動くというのは考えづらいが、油断することなく任にあたれ。奴は三日のうちに動くはずだ」
和泉は深く礼をし、界を越えて戻っていった。
……天照様より啓示を受けてより四ヶ月程か……一つの季節が過ぎ去った。
「『近く黒邪が動く』……神の予見通りであったな」
まずは各所に連絡をし、対策を講じよう。
* * *
最初に天照様に念を飛ばすと、我が動く許可と共に『此方でも手を打った』という言葉をいただいた。神々が何をなさったのかは分からぬが、神々も動いてくださるというのなら心強い。
そして、鬼神族に『黒邪に動きあり』という念を送り、すぐに動ける状態で待機するようにという命を出した。
元より黒邪を打つ準備は整っていたようであるし、いざ動くときにも心配はなかろう。
桃や葵を含む我の式にも通達が済んだ……あとは陰陽道を生業としている人間への連絡か……協力体制にある鬼神族からも報がいくとは思うが、我の方からも連絡を入れておこう。
『──颯斗、聞こえるか?』
『……聞こえています。この時間帯に連絡をなさったということは、何かありましたか?』
『あぁ、黒邪が咲空の生存に気が付いた』
『っ、奴は今どこに?』
『まだ動いてはいない。が、明日や明後日には動くだろう』
『……咲空を登校させるんですか?』
『……あぁ』
『咲空が狙われているとわかっているのにっ』
颯斗にしては珍しく、冷静さを失ったような悲痛な叫び。……心に負った傷は未だ癒えておらぬか……いや、癒えることなどないのかもしれぬな。
『我が望んで咲空を危険に晒そうとしていると思うか?』
『っ、いえ……』
『奴は咲空を諦めない。今このタイミングで咲空を雲上眩界に匿ったとしても、虎視眈々と狙い続けよう。そうなれば咲空の平穏はいつ訪れる?』
『っ……』
『今、黒邪は犯したことがなかった失態により浅慮になっているが、今咲空を殺すのが無理だと気が付けば冷静さを取り戻し、力を強めて咲空を狙ってくる』
『……咲空が平穏に生きることがより難しくなってしまう……』
『そうだ』
『すみません、俺の視野が狭まっていたようです』
『よい。それだけ咲空を思っているということだ』
『俺の方もいつでも動けるようにしておきます』
『仕事はよいのか?』
『もともと俺の仕事はこっちです。事態が落ち着くまで、先生はお休みします』
『……校長には我からも上手く話を通しておこう』
『助かります』
『我からは以上だ。仕事中にすまなかった』
『いえ、知らせてくださりありがとうございました』
颯斗は人とはいえ鬼神族にも認められる力の持ち主。単身では黒邪に勝つことはできずとも、心強い護りとなってくれよう。
しかし……──
我が咲空と出会って一年か……短くはあるが、愛し子に異様な執着を見せる黒邪が何もせずに過ごすというには長い時。黒邪の力がかつてよりは衰えており、我が咲空に護りの術を施していたとしても。
……推測でしかないが、黒邪に肉体を奪われた咲空の妹の意識が黒邪の動きを阻害していたのであろう。あの妹が生まれた当初、いや、母親の腹に宿ったと思われる時期からの母親や父親の様子を聞いた限り、そう考えるのが最も合点がいく。
とはいえ、普通の人間にそこまでの精神の気丈さがあろうか?
己に与えられた体でありながら、その体を己の意志によって動かすことはできず、邪悪な意志によって支配されている。
そんな状況でも自我を保って、人間の力など到底及ばない存在の行動を阻んでいたなど、並大抵の者では為し得ない。
それを為したあの者は本来、家族思いで優しい気質の持ち主であったことだろう。そんな者が、自分が姉を傷付けているなど……そんな眼をそむけたくなるような悪夢の中を十七年間ずっと生きてきたことになる。
どのような思いで人にとっては長すぎる時を過ごしてきたことか……
……咲空を含め、あの一家に何らかの──神の意志が働いているようにしか思えない。
姉妹が揃って神族の半身であり、颯斗は人として極めて特別な才も持っておる。そして、家族皆が黒邪の術に抗う強さを有しているなど……
……これは神に尋ねてみる必要がありそうだな。
読んでくださりありがとうございます(*^^*)
大分遅れてしまいましたが、年内最後の投稿という事であげさせていただきました。
最近は投稿できないことが増えてしまっておりますが、今後も皆様に楽しんでいただける作品を目指して頑張ってまいりますので、来年もよろしくお願いいたします__




