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19.誕生日④


麗叶さんに促されて、ご馳走の並んだテーブルに着く。


ロールチキンや、カプレーゼ、サラダ……そうした料理に添えられた花のように巻かれたローストビーフとサーモン。いつもとは違った料理がパーティーらしい華やかさを醸し出している。


「どれも美味しそうです」


「そう言っていただけて安心いたしました。食後にはケーキもございますので、食べすぎないでくださいませ」


こういう複数人で食べるために作られたようなパーティー料理に憧れがあったから、こうして自分のお祝いとして用意してもらえて嬉しい。


桃さんと葵さんは普段は一緒に食事の席には着かないけど、今日は一緒にテーブルを囲んでくれるみたい。

神族である麗叶さんはもちろん、その式神である二人も食事は必要としないから、三人がこうして一緒に食事をしてくれるのは私のため。

……式神の二人は食事をしないというよりも、出来ないという方が正しいかもしれない。見た目こそ普通の人のように見えるけど、式神の本質は式札という特別な和紙だから、身体の構造は人のそれとは異なっているらしい。


みんなで『いただきます』と手を合わせた後、目についた料理を自分のお皿にとっていく。


全部美味しそうだから、何から食べようか迷ってしまうけど、最初はスープかな?

今日のスープはオニオングラタンスープ。スプーンですくうと、とろとろののチーズが伸びる。


ふーっと少し冷ましてから口のなかに入れると、玉ねぎの優しい甘味とチーズのまろやかな風味が口に広がった。



──あぁ、なんて温かいんだろう……






* * *






談笑をしながら色々な料理を味わって、空いたお皿が多くなってきた。私のお腹もそろそろ食べるのを止めないとデザートが入らなくなってしまうかなという感じだけど……


「──姫様、今お出ししているお料理はそろそろお下げしてもよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます。でも、まだ残っていますし……」


「はい、残りは後程私と葵でいただきたく存じます」


「えっ?」


二人は食べられないんじゃ……

今日も、一緒にテーブルを囲んではいるけど、会話に混ざりながら給仕をしてくれるという感じで料理を口にしてはいなかった。


「普通に食すことはできませんが、自然から生じた食材などは神力に転じさせて吸収することが出来るのです」


そうなんだ……自然物を神力に変えるなんてことができるなんて、結構長く一緒に生活してるけど、まだ知らないこともいっぱいあるみたい。


「味を感じることはできませんが、お祝いのお料理を食した気分にさせてくださいませ」


「はい」


どんな形であれ、同じものを味わえるというのは嬉しい。




「さて、デザートの前に我からの贈り物を渡しておこう」


麗叶さんから渡されたのは漆細工が施された綺麗な木箱。開けてみると、部屋の照明を受けてキラキラと輝くトンボ玉が入っていた。

その銀河を閉じ込めたかのような光に目を奪われる。


紺色のガラスの中で白銀に煌めく銀河の星々は渦を巻き、神聖な気配を感じさせる。大きさはビー玉よりも一回り小さいくらいだというのに、気配というか……存在感のようなものが圧倒的。


「原始の雫というもので、神々が不安定だった地を平定させ豊かにするために、その気を凝縮して地に落としたものだ。しかし、その昔この宝玉の力に目がくらんだ人間の私欲のために利用し、他の人間を支配しようとしたのだ。そのためにこうして神族、天代宮が管理することとなったのだ」


「そんな貴重なものを……」


神様が創り出したものなんて、私の手にはあまる、不相応なものなのでは……

麗叶さんは私のそんな思考を読み取ったっかのように言葉を続けた。


「この宝玉に込められた力が弱まっているということはないが、地が安定した今となっては過去の遺物。さらに言えば、時が流れて地が安定した現在では当時ほど大きな効力を発するということもないであろう」


「本当にいただいてしまってもいいんですか?」


「もちろんだ。神々も本来の願いと外れて屋敷の奥深くで眠っているよりも、愛し子であるそなたが身に付けた方が喜ぶ。……何より、欲深き人間に見つかってしまったためとはいえ、本来は地上にあるべきものだ。そなたがこの宝玉をもって地上に降りることで、宝玉の大願も果たされよう」


「……ありがとうございます。大切にします」


すごく貴重な宝玉。

麗叶さんの話だと、学校に行くとき身に付けていった方がいいみたいだけど、鞄に付けようかな?

……人目に付くところは避けた方がいいかな。見たら目を離せなくなるような不思議な力があるし、万が一にも何かあったら大変だから。

箱の中に入っている時には目を離せなくなるような存在感をあまり感じなかったから、視界にさえ入らなければ大丈夫だと思う。

そうすると、鞄の内側に付けるか、前にお祖母ちゃんからもらったネックレスのように身に付けてしまうかだけど……身に付けておいた方がいいかな。ううん、身に付けておきたい。


「──姫様、私共からはこちらを」


「これは……匂い袋ですか?」


「はい」


何の香りだろう……知っているようで知らない香り。アロマに詳しいわけじゃないから何とも言えないけど……

クラリセージって言うんだっけ?甘さのあるすっきりとした香りが近いかもしれない。甘やかな香りは金木犀が近いかもしれないけど、鼻の中に残る感じはなくて草原にいるような爽やかさを感じる。


心が安らぐ優しい香り。


雲上眩界(この界)に咲く花で作ったものになります」


「!雲上眩界の……」


「はい。虹幻晶華(こうげんしょうか)という花で、癒しの効果がございます」


なるほど……だから、落ち着く感じがするのかな。


「ありがとうございます。心が落ち着く優しい香りですね」


「喜んでいただけて安心いたしました」


「ぜひ使ってくださいませ」


ふふっ、枕元に置いたら素敵な夢が見られそう。




「──では、ケーキをお持ちいたします」






* * *






葵さんが暖かな炎が揺れ動く蝋燭が立てられたケーキを持ってきてくれたのと同時に、桃さんによって部屋の明かりが落とされた。


チョコクリームとイチゴでデコレーションされたケーキ。

ネームプレートに書かれているのは『Happy Birthday』という文字と私の名前。

……私の名前の書かれたネームプレートが乗った誕生日ケーキなんて始めて。



「……」



「……そなたが生まれてきてくれたことに心よりの感謝を」


「っ……」


頬を涙が伝う。



「さぁ咲空、願い事を」


「はい」


指を組んだ手を顔に近づけ、目を閉じる。

願い事──……うん、私の願いはこれ。


──黒邪を祓って、家族と新しい、温かな関係が築けますように。


……願い事を二つもするなるて欲深いことかもしれないけど、もう一つ──


──……これからもずっと……ずっと、麗叶さん達と一緒にいることができますように──



















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