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10.眠れる記憶


「──本当の本当に終ったぁぁぁあ!」


「お疲れ様。私も疲れたな……」


記憶は眠っている間に定着するというから、試験なんかの前日は夜更かしをしないようにしていて、昨日も麗叶さんの迎えで雲上眩界に帰ったあとは、軽く勉強をしてご飯を食べて遅くならないうちに布団に入ったんだけど……やっぱり精神的に疲れるいるみたい。


「いや~アタシも疲れたけど手応えあったわ」


「あとは自己採点だね」


模試2日目、無事に全ての教科の模試が終わって皆からやりきったようなホッとしたようなそんな空気が流れている。

後は自己採点をして自己採点シートに記入するだけ。あっ、それとシートの提出。ちなみに、今日の試験監督の先生は賀茂先生じゃなかったんだけど、自己採点シートを提出するのは副担任の賀茂先生。


自己採点の結果でどの大学に出願するのか決めるから自己採点は大切で、正確さが求められる。自己採点の結果があまりにも実際の点数から外れていると、それが出願する大学のレベル設定の誤判断を生む原因になってしまう。


「早く帰って寝たい…」


「私も~さっさと解答冊子とりに行って自己採点しちゃおっか」


「「うん」」




* * *





「完了っ! マークミスがなければ合計で前回より50点くらい伸びたかも!」


「ウチも100点くらい!」


加奈ちゃん100点も上がったんだ……

夏休みに一気に追い上げてくる人がいるらしいから、加奈ちゃんはそのタイプなのかも。


「私も全体的に少し上がったかな……? あんまり変わらないけど」


「みんなスゴい……私は世界史が伸びたけど化学基礎と数学が少し落ちちゃった……ひゃっ!」


結華ちゃんが理系科目の点数が落ちてしまったと残念そうにしていと、加奈ちゃんが後ろから飛びついた。


「ユイユイ! その点数で落ち込まないでよ! 共テ使わない予定のユイユイよりはるかに点数が低いのに、共テの比重が高いウチはどうなるの……」


「加奈ちゃんは今回100点も伸びたんでしょう? 本番までに私なんて追い越しちゃうよ」


「追い越すのは無理でも追いつきたいな……」


「それにユイユイと咲空ちゃんは元からいい点取ってたから、上げるの難しいんじゃない? ほら、加奈は伸び代しかなかったから」


「ハルミン、それって褒めてる??」


「ホメテルホメテル」


加奈ちゃんのジトーっとした視線に片言で返す晴海ちゃんだけど、次の瞬間には加奈ちゃんに自分に向けられた視線とそっくりなジトーっとした視線を加奈ちゃんに向けた。


「真面目にやれば伸びるのにやってなかった()はね~」


「うっ!」


攻撃を受けたような呻き声を上げた加奈ちゃんは、小さな声で「それを言っちゃあダメだよ……」と言っている。


「ふふっ。伸びてきたこと自体はいいことじゃない?」


「私もこれから頑張っていけば問題ないと思う」


「!そうだよね……! ユイユイ、咲空ちゃんありがとう。ハルミン、今まで迷惑かけたけどウチも頑張るよ!」


「あの鼻ったれな加奈が立派になって……」


「ハルミン~?」


「ははっ、ごめんって。うん、期待してるよ! ……さ、賀茂先生に自己採点シート出しに行こう。話してたら遅くなっちゃったみたいだしね。職員室だよね?」


「うん」


「よ~し、さっさと帰るぞぉ!」





* * *





「──お願いします」


「はい、4人ともお疲れ様でした。外はまだ明るいみたいだけど気を付けて帰ってね」


「はい……って、賀茂先生顔色悪くないですか?」


「えっ? そんなにかな……皆に言われるんだよね……」


困ったように頬をかく賀茂先生は本当に顔色が悪い。昨日は普通だったと思うんだけど……


「顔色もそうなんですけどクマが……」


「昨日はもっと元気そうだった気がするんだけど……」


「う~ん、仕事がたまってるからかなぁ」


「新学期の準備とかですか?」


「まぁ、そんな感じ」


先生はそう言いながら腕を組む。


先生は嘘をついてるみたい。

……何で嘘だと思ったんだろう……?


仮に嘘だとしたら、何が嘘だったんだろう……?

会話の流れ的には“新学期の準備”という部分だと思うんだけど……顔色や目の下のクマを見るに忙しいというのは本当だと思うから。


それに……──




『──俺は泣いてなんかないっ!』


『うそだ~! だって、※※※うそつくときてをバッテンにするんだもん! 今も!』




今、頭の中を流れていったこの会話(・・)は何……?

2人の幼い子供の声が聴こえた。真っ白な光の中にあるみたいな感じで子供達の姿は見えないけど、声だけはいやに鮮明に聴こえてくる。


「──ほら、遅くならないうちに帰った方がいいよ」


「は~い。先生も無理しないでくださいね? さようなら」


「「さようなら」」


みんなは賀茂先生に促されて職員室を出ていったけど、私の足は動かない。


「? 姫野さん?」


「……」


「姫野さん、どうかした?」



「──……私、賀茂先生に会ったことがある……?」


「っ!」


ぼーっとしてしまっていた私に、賀茂先生が息を飲む気配が伝わってきた。


「さ…姫野さん、会ったことがあるっていうのは……」


っ声に出てた……?


「っし、失礼しました。あ、あの、今のは忘れてくださいっ!失礼しますさようなら」


「あ、あぁ……気を付けて」
















「───…咲空……」



慌てて職員室を出ていく私の耳に、誰の耳にも届かないほど小さな賀茂先生の呟きは届くはずもなかった。





* * *





「咲空ちゃん、賀茂先生と何話してたの?」


「えっと……昨日提出した受験シートの志望校を間違えてないか不安になって確認してた」


「あーね! コードとか間違えると判定でないもんね。大丈夫だった?」


「う、うん」


「よかった」


良かったと言うべきか……賀茂先生のデスクは一番壁がわにあるから、廊下にいた加奈ちゃん達からは死角になって見えてなかったみたい。

3年生の先生達が席をはずしていて、いたのがまだシートを提出していない私達を待っていた賀茂先生だけだったというのも助かった。そのお陰で私が発してしまった変な言葉は誰にも聞かれなかったと思うから。


「さ、帰ろっか」


「うん」


「お腹空いたね~」


「ね」


あの会話は私の記憶なの?

……麗叶さんに聞いてみよう。きっと麗叶さんは何かを知っているからこそ、新任の賀茂先生を私のクラスの副担任にしたんだ。


──私は大切な何かを忘れてしまっている気がする……
















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