5.普通の神族
麗叶さんに連れられて入店したのは高級感漂う服飾店。洋服だけじゃなくて着物も扱っているみたい。……私が普段着ている服と似たようなデザインの服もあるけど、いつもここで買っているのかな?
「ここは神族が着物を仕立てるのに利用する店なのだ。もっとも、神族は式神を通して着物を用意する者がほとんどで、我自身ここに来るのは初めてだが……」
神族御用達の服飾店……!
そんなお店があったんだ……
私の心の中の疑問を読み取ったように、お店の説明をしてくれた麗叶さん。新しい服をもらう度に『どこで用意しているんだろう』って思ってたけど、ここだったんだ……
「──いらっしゃいませ。本日はどのようなお洋服をお求めでしょうか?」
「彼女に似合う服を選びたい。しばらく店内を見て回っても良いか?」
「かしこまりました。何かございましたらお近くのスタッフまでお声がけください」
お店に入ると、入り口の近くにいた店員さんが対応をしてくれた。
今は普通の人間みたいな姿形をしている麗叶さんが普段の言葉遣いをしていたら、他の人から変に感じられてしまうんじゃないかって思ってたけど、麗叶さんから隠しきれないオーラのようなものが放たれているから違和感はあまりないみたい。
……神族御用達のお店だから、神族ではなくとも式神──人外の覇気をもつ存在の対応をすることがあるから、お店の人も慣れているということかもしれないけど……
「さぁ、少し見て回ろう。我も今まで服のことなどわからぬからと、我の物もそなたの物も葵と桃に任せてしまっていたのだ。この機会に我もそなたに似合う物を見立てたい」
「ありがとうございます。……あの、私も麗叶さんのお着物を選んでもいい、ですか……?」
「真か……!? 願ってもない」
せっかく来たのに、私の物だけというのもと思って聞いてみたけど、麗叶さんはすごく嬉しそうな反応を返してくれた。なんだか周りの空気がキラキラしているように見える。
……私は選ぶだけで、お会計は全て麗叶さん持ちになってしまうというのが心苦しいけど……
「しかし、まずはそなたの物を見よう。……ん?」
「? どうかしましたか?」
急に口を閉じてお店の奥の方に視線を向ける麗叶さん。私も同じ方向を見るけど、麗叶さんが何を見ているのかは分からない。
「いや、どうやら今日ここに来ている神族は我だけではなかったようだ」
「そ、それって……」
「案ずることはない。いずれ会わせたいと思っていた者だ」
「……?」
店内に麗叶さん以外の神族がいると聞いて、朋夜かもしれないと不安になったけど、違うみたい。
* * *
「天代宮様にご挨拶申し上げます」
麗叶さんと私に対して綺麗な礼をする少女。
伏せる前に見えた顔にはルビーのような赤い瞳が輝いていた。少女のような見た目の方に対して言うには変な言葉かもしれないけど、“美しい”という表現がピッタリだと思う。以前会った水神族の清香さんとはまた違った美しさ。
ううん、同じく美しい2人の神族だけど、決定的に違うことがあるみたい。
──感情の有無
私が今まで会ってきた神族は麗叶さんはもちろん、清香さんも龍神族の悠さんも……朋夜も。みんな半身を得ている神族だった。
だから、“神族には感情がない”と言われても、『本当にそうなの?』といまいち理解できなかった。
麗叶さんが私に出会う前に生み出した式神の大和さんには会ったことがあったから、こんな感じなんだというものはあったけど……
……でも、この方は大和さんとも違っている。大和さんは表情にも何の感情も表出していなかった。だけど、この方の顔には笑顔がある。……口元には笑みを浮かべているけど、ルビーのような瞳からは何の感情も伝わってこないという、世間一般で神族らしいと言われているだろう笑顔。
そっか……ほとんどの神族の方にとってはこれが普通なんだ……
……神様達が神族に半身を見つけてほしいと、地上に顕現するように命じた理由が少し分かったかもしれない。ただの人間である私がこんなふうに考えるのは失礼だと思うけど……
「ここは地上だ。楽にしてくれ」
「ありがとうございます。……まさか、地上で天代宮様にお会いできるとは思っておりませんでしたわ」
「我も驚いた。何故この店に?」
「視察で地上を訪れたのですが、私の神力量では界を繋ぐ扉を開くのは3日に2回が限界でございましょう? 故に神力が回復するのを待つ間に新しい着物を見立てようかと思いまして。……無礼を承知でお尋ね致しますが、そちらの方は天代宮様の半身様でいらっしゃいますか?」
「あぁ。……咲空、この者が土神族一位の珠稀だ」
珠稀さん……!
この方が……
「半身様、お目にかかれて光栄に存じますわ。土神族一位の珠稀と申します」
「初めまして。姫野咲空と申します。……割れてしまったエメラルドを直してくださりありがとうございました。お礼を伝えるのが遅れてしまって申し訳ありません」
「いえ。お役に立てたようでよかったですわ。……今日も身に付けていらっしゃるのですね?」
「はい」
返事をして、首元にあるネックレスに触れる。
一度は朋夜に砕かれてしまったお祖母ちゃんの形見のエメラルド。麗叶さんから珠稀さんという方が直してくれたと聞いて、ずっとお礼を言いたいと思っていた。
前は、学校に行っている間に美緒に見つかってしまうのが怖くて、内緒で学校にも持ってっていたけど、今は普段は大切に保管している。
今日は出掛ける準備をしていた時に桃さんから『久しぶりに付けられてはいかがですか?』と言われて付けてきた。
「半身様が安寧な日々を過ごされていることを、その子も喜んでおりますわ」
「本当ですか? ……よかった」
私には鉱物が喜ぶというのはよくわからないけど、お祖母ちゃんが喜んでくれているように思えて嬉しくなる。
「それにしても……半身様は、天代宮様の半身である他にも特別なものをお持ちのようですわね?」
「お前も気が付いたか」
「神族ならば誰でも気が付くことかと存じますが……」
「……気が付かぬ者もいたのだ」
「まぁ……その者は視野が狭まってしまっているのでしょうね」
……神様の加護というのはそんなに分かりやすいものなのかな……?
朋夜は何度顔を会わせても気が付いていなかったから、注意しないとわからないようなものだと思ってたんだけど……
半身という存在がいかに神族に与える影響の強さを感じる。
「では、私はそろそろ失礼させていただきますわ。また何かございましたらお声がけくださいませ」
「あぁ」




