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22.二章エピローグ


(朋夜視点)



「──朋夜! お姉ちゃんのことなんだけど、探すのを手伝ってくれないかな?」


「……美緒、まだあの者のことを気にしているのか?」


「ふふっ、当然でしょう? どんな人でも私のお姉ちゃんなことに変わりないんだから」


「あぁ、私の半身は本当に優しいな……。しかし、もはや生きているとは思えないが……」


「そうだとしても、お姉ちゃんをいつまでも野ざらしにしておくわけにはいかないじゃん? それに万が一にも死んでなかったりしたらなんとかしなきゃ(・・・・・・・・)でしょ?」


私にとってこの世界の何よりも大切な半身、美緒。美緒の優しさと慈悲は本当に人の娘かと思われるほどだ。その慈悲が自身に害をなした姉にまで及んでいるのだから。

自分に害あるものに慈悲をかけるなど、感情(・・)を得てよりの私には大変に難しく、日々難儀しているというのに……


しかし、この感情(・・)というのは素晴らしいものなのだ。もはや美緒と出会う前に戻りたいとは思わない。


……今でも、あの日のことを鮮明に覚えている。

地上の視察のために姿を隠しながら街を回っていた時、何も感じることがない神族であるはずの私の胸がざわついたのだ。どうしたことかと考えながら、私を導く声に従って空へと飛び上がった。そして、声のする方向に視線を落とした先……そこにいたのが美緒だった。


美緒を見た時の衝撃はこの先も忘れることなどできないだろう。まさに生まれ変わったような気分だった。

美緒を見て『なんと愛らしい少女だ』と思うとともに、大変な混乱に陥ったのだ。“愛らしい”と感じることや、混乱するということ自体が初めての経験だった。しかし、彼女が私の半身であり、今自分をざわつかせているものが“感情”なのだということは確かにわかった。


そして出会った瞬間、己の内に起こった変化に戸惑いつつも、世の宝とも言えるこの存在を護らねばと己に強く誓ったのだ。


──だというのに、得がたき私の半身を傷付ける者がいた。あろうことか、私の半身である美緒の姉たる女である。


感情というものに慣れぬ故、激情のままに焔を放ってしまったこともあった。……神族でありながら地上に住まう者に焔を放ってしまったため、少し経ってから禁忌に触れたのではと恐れたが、神々からはなんの沙汰もなかった。

天代宮の目は掻い潜ることができていたとしても、神々が気がつかれていないなんてことはあり得ない。おそらく、目こぼしをくださったのだろう。

私達神族に半身と出会ってほしいと申された神々は、半身に出会うことで感情を得た神族が上手く自己を律することができなくなるということを当然わかっておられたはずであるのだから、目こぼしをくださってもおかしくはない。


……あるいは、あの者の行いは神でさえ許し難いと思われる程であったのか……


「──朋夜! もう、 黙り込んでどうしたの??」


「あぁ、美緒。すまない……お前と出会った日のことを思い出していたのだ」


「あっ、そうだったの? ふふっ、恥ずかしいなぁ……」


「何を恥ずかしがることがある。……お前に出会うことができて本当によかった」


「そう言ってもらえて嬉しい! 私も……私も、よかったって思ってるよ。朋夜に出会えて」


「そうか……!それならよかった」


笑顔で私に抱きつく美緒を優しく抱き止める。


ふっ、どちらにせよ、神々は私の味方のようだな。二度も禁忌とされかねない行動をとった私がこのように幸せに過ごしているのだから。

……地に住まう者でありながら、神から見放されたとは憐れなことだ。


「それで……お姉ちゃんを探すの手伝ってくれる?」


「……あぁ。他でもない美緒の頼みだ。全力を尽くそう」


「ホント……!? とっても助かる!」


「造作もない。早い方がいいか?」


「うん、できれば」


「では今、あの者についているであろう私の神力を探ってみよう」


「ありがとう……!」





* * *





これはどういうことか……あの者の気配がまったくもって感じられぬ。


……あの者は私の神力によって造り出した焔を受けている。よって、私の神力の残滓がついており、それを辿ればすぐに見つかるはずなのだ。だというのに、私の神力の残滓をまったく感じられない。


……まるで、骸さえ残らずこの地から消え去ってしまったかのようだ。


いなくなって半年以上が経ったとはいえ、一度ついた神力の残滓は普通ならば消えることなどないはずだ。

それが消えているということは、すでに体が消滅しているのか、はたまたこの世界ではない場所にいるのか……


途端にに感じたことのないものが込み上げてくる。これは怒り? いや、怒りとは違う。……焦りというものであろうか………?

だとして、私は何に焦っているのだ?


あの者が見つからなかったとすれば、美緒は悲しむであろうが、何か問題が起こるというわけでもないのに……


「美緒……あの者はこの世界にいない……」


「えっ………? どういうこと?」


「あの者についているはずの私の神力が感じられないのだ」


「……つまり、お姉ちゃんは死んじゃってるってこと?」


「いや、死んでいたとしても、神力の残滓が消えるということはない。その神力を感じられないということは、体が消滅してしまったか、この世界ではない場所にいるのかのどちらかだ」


「……体が消滅するっていうのは?」


姉が心配なのか俯いてしまった美緒の顔は見えない。


「何と説明したらよいか……肉体が朽ち果てたとしても、神力の残滓が消えるということはないのだ。消滅というのは、この世界に塵一つ残していない状態であるが……現実的にはあり得ない」


「ということは、この世界じゃない場所にいるってこと?」


「そちらも可能性は限りなく低いが……なにせ、別の世界というのは私達神族が住む雲上眩界のことなのだから。唯人が行くなど叶わない」


「もうっ、それじゃあどういうことなの!?」


パッと顔を上げた美緒は、耐えかねたといった様子である。


「……わからない」


「……」


「美緒……?」


私のあまりの不甲斐なさに怒らせてしまったであろうか?


「……まぁ、仕方ないか。朋夜、確認してくれてありがとう」


「あぁ、力になれなくてすまない……」


「気にしないで。さっきは大きな声を出しちゃってごめんね?」


怒らせてしまったかと思ったが、美緒はすぐにいつもの笑顔に戻った。

そのことに安堵しているはずなのに、己の内に生じた焦りは消えることがない。


それに………



何か大変なことになってしまっている、そのように感じて(・・・)いる自分がいる。



















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