21.啓示
(麗叶視点)
“記録”の整理をしていると、咲空の物を用意する時に一緒に用意させたスマホが鳴った。
──……咲空からの連絡であったが、何か問題が起きたわけではないようだ。
『こんにちは、お忙しいところすみません。
今日の放課後に木村さん、河野さん、鈴木さんと4人で一緒に、再来週の期末テストに向けた勉強をしたいという話になったのですが、迎えに来ていただく時間を1時間程遅らせていただくことはできますか?』
しかし、こうして咲空から連絡をもらうのは初めてのなとだ。
お互い、何か伝えたいことがある時には顔を合わせて直接伝えてしまうことが多く、咲空が学校にいる時には葵か桃に言伝てを任せているため、文字でのやり取りというのはする機会がほとんどない。
……咲空は楽しく生活できているようだ。
友との関わりが確実に咲空の心を癒してくれている様子に頬が緩む。
残念なことではあるが、我では与えられぬ感情があるからな……
『もちろん大丈夫だ。大変であろうが、試験に向けて励んでほしい』という返信をし一息つく。
……咲空は出会った頃からすれば、考えられない程に変わった。もちろん、よい方向に。
しかし、その変化を寂しく感じてしまう我がいる。半身としての感覚や、人としての感情を取り戻してきたというのは喜ばしいことのはずなのに……まったく、感情というのは難儀なものだ。
咲空が我のもとから離れていってしまっているように感じてしまうのだ。そのようなことは起こり得ないとわかっているはずであるのに……いや、これは我の願望なのかもしれぬな。
とはいえ、最近は咲空も我を意識してくれているようである。時折こちらを見て頬を赤く染めている様子は大変に愛らしい。
悪いことだとは思いつつも“遠見”で咲空の姿を探す。咲空の席は窓側であるため、何かに阻まれることなく姿を捉えることができた。
我が今さっき返信したものを確認し、そのことを友人達に伝えているようだ。
健やかに過ごせているようだな……
……このまま我が半身の安寧が脅かされることなどなければ良いものを……
責務に戻るとしよう。……あまり覗きすぎると、また葵と桃に小言を言われてしまうからな。
などと思いつつ、“記録”の整理を再開しようとすると、念が飛んできた。
《──麗叶よ、聞こえるか》
《……聞こえております》
《毎度のことながらそう畏まらずともよい》
《なりませぬ。我ら神族は大八島国を守護し、御身をはじめとする神々の不在を補う者であります。ご容赦を》
《ふっ。其方ら神族は吾の臣であはあるものの、兄弟姉妹であり、同胞ぞ? 吾は其方らを創造した伊邪那岐の左目から化生したのだから。世に誕生した時期を考えれば其方らの方が早い》
《我らの祖先がそうであっても、この身はまだ若輩です故》
《ほんに融通の効かないことよ》
念を飛ばしてきたのは天照大御神。
神々の加護を受けた人間を発見したことや、それが我の半身であったこと、妖の祖である黒邪が家族を代とし、精神を衰弱させていたことなどはすでに報告してある。
が、あちらから連絡がくるとは珍しい。定期的に地上の様子を報告してはいるが、基本的にはこちらから連絡をしているのに……
《して、如何されました》
《朋夜の処遇が決まった》
《それは……どのようになりました?》
《雲上眩界に使われていない孤島があろう? そこに隔離せよ》
《……御意に》
鬼灯の殿に幽閉ではなく、孤島への隔離……我ら神族が何か罪を犯した時には普通、鬼灯の殿に幽閉されるものだが……。
咲空に屋敷の案内をしたときに唯一案内をしなかった鬼灯の殿。
鬼灯の殿は、輪廻の輪に乗ることを許されぬ程の大罪を犯した生き物の魂や、禁忌を犯した神族を幽閉し、天代宮の管理下におくための場所である。……禁忌を犯す神族などまずいないため、罪人の魂の管理が主であるが……
我ら神族にとって、地上に住まう者達を傷付けるのは禁忌の一つであり、朋夜はそれを犯している。さらに言えば、奴が手を上げた咲空は神の加護を受けた者であり、罰としては甘いように思えるが……
《其方からしたら罰が手ぬるいと不服であろうな》
《そのようことは……》
《よい。其方がそのように思うことを吾は嬉しく思う。そもそも地上への顕現するように命じたのは、同胞である其方らに“感情”を知って欲しかった故ぞ? それが叶ったに、何を言う必要があろうか。加えて其方は最も忠実に支えてくれている天代宮であるのだから》
《……寛大な言葉に感謝します》
《うむ。しかし、朋夜もまた吾の同胞。また年若くして半身を得てしまったが故に不安定であると理解せよ》
《は……》
《理解してくれて嬉しく思う。しかし……其方ならばもうわかるであろう? 半身の存在を知りながら会うこと能わぬという辛さを》
《……》
確かに、その存在を知りながら側にいることができないというのは、身を引き裂かれるような苦痛であろう。……半身を得ている神族には、半身と引き離すというのが、十分な罰となりうるか……しかし……
《もちろん、それだけではない。朋夜が危害を加えたは吾の愛し子。同胞と言えど許し難い》
《では、どうされるので?》
《今はまだ明かせぬ。生き物の管理を司る神狐の一柱を欠くわけにもいかぬしな》
確かにその通りである。
そして天照様は『最後に』と一度言葉を切った。
《──近く、黒邪が動くであろう。心せよ》
《!承知しました》




