4.半身
我が名は天代宮麗叶。今代、神族の統括や日本列島の守護を一任されている者だ。
天照様をはじめとし、神々は姿を隠されてしまったが、我ら天代宮の者は神々と通ずることが出来る。
五十余年前にも神々の声を受け、地に住まう者達に我ら神族の存在と地上に顕現することを宣告した。
神々は何を期待するでもなく己の任に取り組むのみの我ら神族を憐れに思われていたのだと言う。
半身を得ることで“生”というものを知ってほしいと仰っておられた。
……神々がそうお考えになるのならそうなのだろう。
我個人の意見としては“生”など知らずとも大八島の国の守護の任は全うできると思うのだが……親の任を引き継ぎ、適当な時期に次代へと引き継ぐ。
永き年月、そう続いてきたのだ。
我は先代の天代宮である母から力を継いで二百年余り。そろそろ後任を作らねばならぬな……どの一族の者と契るか、そろそろ考え始めねば。
神族は位が上の一族から順番に天代宮、龍神族、鬼神族、神狐族、蛇神族、水神族、土神族、火神族、風神族となっている。
我が天代宮は他の神族と違い、一族というくくりがない。対して他の八の神族は各一族の中に一位から五位という級があり、五柱の神族で構成されている。
天代宮は統括する者、複数は必要ないのだ。
つまり、神族は引き継ぎの最中の者を除けば、我を含めて四十一いることになる。
まだ契っていない女形の者も多数いるだろう。誰でもよい。次代を創ることさえ出来れば。
神族に寿命はなく、次代に力を引き継ぐまでは永遠と存在を保つ。
神族は次代に力を引き継ぐと、人間で言うところの老化が始まるのだ。
もっとも、年や容姿などいくらでも変えられるために見た目に変化はなく、老化というのは例えに過ぎない。ただ、少しずつ力が弱まっていくだけだ。
そして、次代に力を引き継いだら適当な時に自分で界との繋がりを断ち、終わりを迎える。
人間の半身と契った者は“半身と共に生きたい”と願い、契ったことで寿命の制限が断たれた半身と共に長く生きるというが、多くの神族同士で契った者達はそれぞれの後任となる次代を得たら五年程で力の引き継ぎを終えて自身は界との繋がりを断ち、何処かにおわす神の御元へと向かう。
神族同士での契りはまさに契約。
人間が子をなすのと同じように次代を創ることも出来るらしいが、大抵の神族は泉で次代を生み出す。
男形の神族と女形の神族で互いの神力を混ぜ、その二神族の力が交ざったものを雲上眩界にある聖泉に沈めると次代が創られるのだ。
二者の神力を混ぜ合わせるだけなのに、男形と女形の神族が必要なのは、理を外れた力を有する我ら神族も神々の創造物たる生き物であるからであろう。
しかし、神族は生き物であって生き物ではない。次代へと継承せぬ限りは終わらぬ、終われぬ存在。死なくして生きているなどと言えようか。
我もこれ以上終わりのない生を続ける必要はない、そろそろ次代に引き継ぎ、神の御元へ行こう。
……さて、その前に久しぶりに地上に赴いておくか、、直接下りたのは十五年程前になる。我が創った式神共が日々地上を回り、報告をあげているが、流石の我でも自然を癒すことなどは直接赴かないと難しい。
* * *
──……これはまた、随分と荒れたものだな。木々の悲鳴が聞こえる。
もっと頻繁に下りるべきであったか……式神共から地が尋常ならぬ早さで荒れていっていると聞き、我自身“遠見”で見ていたが、木々の叫びがここまでとは思いもせなんだ。
今は宵の口か、……ん?
「この感覚は、もしや……」
二百年を超える時の中でも、感じたことのない感覚。
……半身を得た者達は口を揃えて“己の半身との出会いは何かに引き寄せられるような感覚であった”と笑顔を浮かべながら語っていた。
「……もしや、我の半身が近くにいるのか?」
空から月光に照らされた街を見渡していると、橋の欄干にの上に立つ一人の少女で自然と視線が止まった。
「あの娘が我の……──っつ」
暗い水面へと落ちていく少女を見て、何かがひどく揺さぶられる。
何としてでも、あの少女を助けねば……と何かかが騒ぐ。
あの少女を失うことになったら、虚無に襲われることになると何かが告げている。
知らない何かに突き動かされ、闇へと落ちていく少女のを救うため、空を駆ける。
風で少女を包み込み、自分の方へと引き寄せると……少女の魂は傷付き、清らかな光を放っていたであろうそれは、その光を失いかけていた。
「……そなたに何があったというのか、、何故そなたがこうも傷付かねばならなかったのだ」
我がもっと地上に赴いていたら、この少女……我が半身はかように傷付くことはなかったのだろうか……
心だけではない。体は冷えきり、腕と顔には火傷がある。顔の方は古いもののようだが、どちらも事故によるものには見えぬ。
それに加え、邪悪な気が取り付いているが……
「……火傷は神狐族の焔によるものか、、清らかな魂を持つ娘を焼くとは何と愚かなっ」
……我が天代宮でよかった。この力があれば神狐によるものであろうと癒せる。
先程も我が天代宮だったから風を操り、そなたが水面触れる前にこの腕へと引き寄せることが出来たのだ。
……この“生”に感謝したのは始めてだ。
我が全神族の力を有し、“癒し”を得意とする天代宮でなければ半身たるこの少女を救うことは出来なかったであろう。
「もう、そなたに辛い思いはさせまい。…… 許可を得ずに雲上眩界に連れていくことを赦せよ」
人間は家族や友を慈しみ、半身なれども我らの雲上眩界へと来たがらぬ者が多いと聞いていたが、偽りであったか……。
読んでくださりありがとうございます(^^)
〈補足〉
・神族で一番強い力を持つ天代宮の人(?)は、人間界と雲上眩界の往来を自由に出来ます!(正確には何往復しても有り余る程の力(神力)を持っています)
・天代宮特有の力は“癒し”ですが、他の全神族と同じ力も使うことが出来ます(一つ一つの力で見ると、その力を十八番としている神族の方が優れています)
・天代宮は地上で自然の再生をしています。人間を含む動物を癒すこともできますが、そこまでやっていてはキリがなく、傷付くのも自然の摂理なので動物には基本的には手を出しません。
以上、ヒーローのチート解説でした!