8.ポルターガイスト?
大きな問題が起こることもなく、季節は夏を迎えた。
「あつい~~~」
「加奈ちゃん大丈夫?」
「ムリ~~」
今は体育の授業の休憩中。女子はバレーをやっているから、体育館なんだけど……
「体育館とかサウナじゃん~」
加奈ちゃんは暑さに弱いらしく、ぐったりしている。
もちろん、適宜休憩が入れられているし、水分補給は好きなタイミングで出来る。けど、暑いことには変わりない。
「咲空ちゃんは何で平気そうなの~!?」
「わ、私暑さに強いから……」
……ごめんなさい、嘘です。私が熱中症になることを心配した麗叶さんが、神術をかけてくれました。
麗叶さんと一緒に暮らしていて思うのは、天代宮が神族の中でも本当に特別なんだということ。
水上先生と琴さんとはあれから月に一、二回くらい会っているんだけど、二人の話から麗叶さんのすごさを思いしらされた。
今、私の周りには水の膜が張られていて、水がお湯にならないように状態維持がなされている。さらにそれは見えなくされている。
水の生成を出来る神族なら出来ることではあるけど、自分から離れた状況で術を維持するのは簡単なことではないらしい。界を跨いでいるとなればなおさら。
「加奈は大げさだけど、咲空ちゃんすごいわ……」
「うん……私も汗がすごいけど、咲空ちゃんそんなにかいてないよね?」
「そ、そうだね……あっ、授業再開するみたい」
「えぇ~もお?」
「加奈、あと十五分だから頑張ろ」
「うぅ……」
……一人だけずるしてるみたいで居たたまれない。
* * *
「──咲空ちゃんナイスレシーブ!」
「う、うん!」
休憩中はぐったりしていた加奈ちゃんだけど、試合が始まると別人みたいにキラキラプレーしている。
私は同じチームなんだけど、すごく頼りになるし格好良い。
私がレシーブで上げたボールは加奈ちゃんにまで繋がって、加奈ちゃんの力強いアタックで相手のコートに落ちた。
「っしゃあ!」
「加奈ちゃんすごいね!」
「えへへ、ありがとう──っ咲空ちゃん、危ない!!」
「えっ?──っ!」
加奈ちゃんに『危ない』という言葉で、加奈ちゃんの視線を追って振り向くと隣のコートで高く上げられたボールが私に向かって落ちてきていた。
──トンットンットト……
突然のことに何も出来ずに身構えたけど、予想していた衝撃はいつまで経っても訪れず、そろそろと顔を上げると、私に向かってきていたであろうボールは私から離れた誰もいない所を転がっていた。何が起こったのか分からずに首を傾げる。
「?」
「へっ……? っじゃない、咲空ちゃん大丈夫!?」
「う、うん……何があったの?」
「私にもさっぱり……何かボールが急に向きを変えてあっちに飛んでって……何かに弾かれたみたいに…」
弾かれたみたいに?……あっ、もしかして──
「──姫野さん、ごめんね!大丈夫だった!?」
「あっ、山瀬さん?うん、大丈夫だよ」
隣のコートから走ってきたのは山瀬#愛莉__あいり__#ちゃん。私の斜め前の席で、グループ活動の時にいつも同じ班だから結構よく話す。
山瀬さんは自分が上げたボールがこっちのコートまで飛んでしまったのだと謝りに来てくれたみたい。
「当たらなくてよかった~……ボール上げようとしたらめっちゃ高く上がっちゃって……本当にごめんね」
「気にしないで大丈夫だよ。わざわざありがとう」
「姫野、大丈夫だったか?」
「相田先生、大丈夫です」
「そうか……」
みんなの試合を監督していた相田先生も心配して来てくれたので、大丈夫だと答える。私の言葉を聞いた先生はホッとした様子だ。
……先生方は麗叶さんのことを知っているけど、必要以上に気を遣わずに接してくれているからありがたい。
「よしっ、じゃあ気を付けてプレー再開しろー」
『はいっ!』
* * *
「はぁ~疲れた~」
チャイムが鳴って授業が終わったので更衣室に向かう。
「お疲れ様。加奈ちゃん格好良かったよ」
「ホント!? 照れる~……そういえば、何だったんだろうね、あれ。ポルターガイスト?」
「不思議な動きしてたよね」
「あっ、ユイユイも見てた?」
「うん。晴海ちゃんも見たよね?」
「見た見た。半分くらいの人は見てたんじゃない?」
なんとなく予想はしていたけど、この話になってしまった。……会話に入りづらい。幸いなことに私は見ていなかったから何か聞かれても『わからない』で大丈夫だと思うんだけど……
「七不思議ってやつ?」
「“体育館で奇妙な動きをするボール”とか? 聞いたことないけどな~」
あれはたぶん、桃さんか葵さんがやってくれたのだと思う。私にボールが当たらないように。
「ポルターガイストってあるんだね~」
「ウチも初めて見た」
「でも、いいポルターガイストだよね?」
「?……あ~確かに!」
「言われてみればユイユイの言う通りだわ!」
三人の中ではあの現象は“いいポルターガイスト”によるものだという結論が出たみたい。だけど……
「どういうこと?」
「ん? だって、結果的に咲空ちゃん守ってくれてるじゃん」
「そうそう、ボールのコース考えると結構危なかったでしょ?」
「成る程……」
実際、桃さんと葵さんは私を守ってくれたわけだから当たってるし、それを知らない三人からしたら“いいポルターガイスト”なのかもしれない。
「……怖い、とかはないの?」
ポルターガイストも、そんな現象に守られた私も。
「えっ? 全然」
「私も怖くはないかな~」
「うん、不思議だとは思うけどね」
三人とも全く恐怖はない様子だ。……私が三人と同じ立場だったら、同じようには振る舞えないかもしれない。
「何で怖くないの?」
「う~ん……実はウチ、霊感っていうか、何か感じることがあるのね。あっ、幽霊は見えないんだけど。不審な事故が多い交差点はゾクゾクするし、ここなんかヤダな~って思った場所で事故が起こったり」
「そ、そうなんだ……」
「私も初耳……」
私と結華ちゃんは初耳だけど、晴海ちゃんは知ってたみたい。前に聞いたんだけど、加奈ちゃんと晴海ちゃんは小学生の頃から仲が良いんだって。結華ちゃんは高校に入学してから二人に会ったらしい。
「加奈の霊感は結構すごいんだよ」
「ま、そんな訳なんだけど、さっきのはヤな感じとか何も感じなかったんだ!」
「そうなんだ……」
加奈ちゃんに霊感があるっていうのには驚いたけど、友達である三人に怖がられなくて素直に嬉しい。
「ってワケで、ウチは怖いよりも会ってみたいが強いかな~」
「さすが加奈、心臓強いね。……って言いたいところだけど私も会ってみたいかも」
「私も~」
「会ってみたいって、ポルターガイストに?」
「だって、興味あるじゃん! いい霊っぽいし!」
「……そう、だね。うん、私もいつか会ってみたい!」
いつか……いつか会ってほしい。桃さんと葵さんに、今は秘密の私の大切な人達に。
複数コートがある体育館でバレーをする時は注意が必要ですよね……ガチで。
【オマケ】
~咲空防衛直後の桃と葵の念話~
『私達がもっと上手くお護りできればよかったのに……』
『えぇ、姫様にいらぬ心労を与えてしまいました』
『大丈夫でしょうか?』
『姫様のご友人方が姫様に不信感を抱かれなかったのが幸いでした』
『本当に。次はもっと注意しなければ』
『えぇ……』
『もし同じような状況が訪れたら、その場にいる方々の意識を逸らすようにせねばなりませんね』
『思考力を低下させるのが早いでしょうね』
『……できれば使いたくない方法ですね』
『……ならば不測の事態を起こさない、未然に防いでいくのみです』
『そうですね』




