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17.進路

三人と話し始めてしばらくすると予鈴が鳴り、それから少しして早川先生が入ってきた。

先生が来たから皆それぞれの席に着く。ちなみに、席は名簿順で私の席は窓側から二列目の一番後ろ。結華ちゃんは右隣の席で、加奈ちゃんはその右斜め前、晴海ちゃんは一番前の席。


「──今日の7限は大学調べをしてもらいます。まだ志望校が決まっていない人もいると思うけど、自分の将来の夢とかやりたいことを実現するにはどんな大学がいいか、7限までに考えてみておいてください」


本鈴とともにHR(ホームルーム)が始まって、早川先生が出欠確認と今日の予定の伝達をする。……大学調べか、、

私の高校は進学校だから就職する子はほとんどいなくて、六割の生徒が四年生大学に進学する。

それ以外の生徒も専門学校とか短期大学に進学する子が多いから、就職するのは一学年に一人いるかどうかというくらいにしかいない。

麗叶さんに会う前の私は進学を諦めて就職しようと思っていた。高校の学費は両親に出してもらえたけど、大学までというのは難しかったから。奨学金制度を使うのも考えたけど、そもそも受験料を出してもらえない。


国公立大学を受験するだけでも二万円以上かかるし、滑り止めを考えたら五万円は必要になる。

貯金でもあれば良かったけど、お小遣いもなく、バイトもさせてもらえない状況の私には……


両親の考えとしては、『顔に火傷のある(咲空)はただでさえ大きなハンデを抱えているのだから、大学を出ていようと一流企業に就くことは出来ない。となると、大学で学ぶようなレベルの高い教養は必要ない』ということだった。

……確かに日常生活で必要となる知識は中学校までに学ぶことで事足りるし、義務教育ではない高校まで通えていること自体ありがたいことだと思う。

美緒も朋夜の半身だから大学には進学しないみたい。


どうしようかな……



「──咲空ちゃんは大学決まってる?」


「えっと、まだ決まってなくて……結華ちゃんは?」


「私は音大目指してるんだ」


「えっ? そうだったんだ」


「うん。私、小さい頃から声楽やってて、将来もそっちの道に進みたいなぁって思ってるんだ。歌うの好きだしね」


HRが終わると結華ちゃんとさっそく、進路の話題になる。

私は結華ちゃんの歌を聞いたことがないけど、小さな頃から続けていると言うことはそれだけ好きなのだと伝わる。


「どういう音楽が好きなの?」


「ポップス曲も好きだけど、実は童謡とかが好きなんだ。将来も子供達に向けた曲を歌いたいと思ってて……なんでだか童謡とか民謡が好きなんだよね。それだけじゃ難しいと思うから、合唱団とかも入りたいって思ってるけど」


「そうなんだ」


「ウチは、文学部のある大学目指してるよ!」


「私は教育学部」


加奈ちゃんと晴海ちゃんも来て、自分の目指している進路を教えてくれた。

皆ある程度の進路が決まってるんだ……


「……私は、進学しないかも」


「えっ!? 咲空ちゃんメチャ頭イイよね?」


「それは分からないけど……まぁ、勉強は嫌いじゃないかな?」


「そう思えるのがスゴいよ……ウチは勉強苦手だから。でも、まずは自分が何をしたいか考えてみるのがいいんじゃない? 進学にせよ就職にせよ、そこが大事でしょ?」


“自分が何をしたいか”か……きっと麗叶さんは私がやりたいと言った事を否定しないと思う。

かと言って、私が本当に麗叶さんの半身という立場にあるのなら大学進学は以前とは別の意味で難しいだろう。


「高校卒業後の進路で人生が決まるんだもん。悩むよね……」


「うん……」


「ま、ウチは単純に文学部に興味があるだけだけどね~」


「はぁ、加奈は楽観的すぎ……」


こんな何気ない会話が楽しい。

進路、麗叶さんにも相談してみよう。今日の7限はとりあえず自分の学力に合った大学を調べて……帰ったら話してみよう。


……ふふっ、いつの間にかあの屋敷が自分の帰る場所になってたんだ。






* * *






(葵視点)


姫様から少し離れた教室の隅からも見えた姫様の自然な笑顔……主様と生活する中で時折笑顔を見せてくれるようになりましたが、主様は自分の半身であっても雲の上の存在のように感じてしまっていたのでしょう。

ご学友との交流は、主様や私共では引き出せないもの引き出してくれました。




『──姫野さんのご両親から休学届けが提出されました』


『休学届け……理由はなんと?』


『“病状が改善しないため、しばらく休学扱いにしてほしい。どれ程の期間になるのか分からないが、今学期中の復学は難しいだろう”と医師の診断書付きで提出されまして……』


『明らかな偽装ですね。……あちらにも神族がいるので、偽装すること自体は難しいことではないでしょう』


『えぇ、それとお見舞いを申し出たのですが断られました』


『姫様はいませんもの、そうせざるをえないでしょう。……しかし、あちらの神族は姫様を疎んでいたはずなのに何故手を貸したのか、それが気になるところではございます。結局のところは、半身である妹君からそうするように頼まれたのでしょうが』


『そうですね……この届けは昨日事務室に提出されたのですが、受け取った事務員にその時の様子を聞くと、特に変な様子はなかったということでした。……事実を知る身としては失踪中の娘にする対応と思えない行動に憤りを感じています』


『……何故そのような対応をとったのか調べねばなりませんね』


『えぇ。……一応の確認ですが、姫野さんは通常通りに通学されるという事でよろしいですか?』


『もちろんでございます。主様にも報告して確認は致しますが、主様はおそらくその届けを表面上は受理するように仰ると思います。細かな点は主様のお考えを聞いた上で今後の対応をとっていただければと思います』


『承知しました』



姫様と分かれた後に向かった校長室で古澤様から聞かされたのは姫様のご両親の動向。

姫様を虐げていた者達は和泉(いずみ)という式神が常時監視していますが、まだ報告が上がっていないために知りませんでした。

普段人間界に降りている式神達は主様のように無尽蔵な神力はないため、数日に一度雲上眩界に戻って数日間の“記録”をまとめて水晶にを封じるのです。人間界に降りる時は主様が界を開いてくださるので神力を消費しないのですが、戻る時には自身の力を使わねばなりません。

和泉は今日か明日あたりに戻るでしょう。


古澤様の仰る通り、姫様に対してあまりに不誠実な行動。……私も憤りを感じます。

そろそろ何かしらの接触はしなければと思いますが、どうしたものか……



……姫様方は間もなく一時限目の授業が始まるという事で、各々準備を始められました。

『また後で』と言い合う様子は見ていて微笑ましく、少し羨ましい。

今この場で桃と私を認識できるのはお互いのみ。姫様をすぐ側に控える桃に目を向けると、桃も私と同じようなことを考えているようです。

姫様とあのように親しくお話しできるのは同級生という立場の強みでしょう。

桃と私は姫様を敬愛し、お仕えてしていますが、姫様は“仕えられる”ということに不慣れなため、私共に対してどこかよそよそしさが感じられるのです。

……私も姫様がもっと心を許せる存在になりたいものです。












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