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14.優しさ


麗叶さんは出かけてから一時間もしないうちに帰ってきた。


麗叶さんがいない間は桃さんが持ってきてくれた本……巻物を読んだけど、とても興味深かった。


神族が誕生した当時から記録(・・)の中で大きな出来事や、別で特筆すべきことは巻物や本としてまとめられているらしく、大量の蔵書があって瞠目した。

筆記体で繋げ字になってるからかなり読みづらかったけど、内容は古典が得意だからその知識でなんとか理解できた。……こういう時に勉強の大切さを実感する。

もちろん、旧字体で読めない字や意味が分からない部分もあったけど、桃さんが教えてくれた。


不思議なことに、石器時代やもっと前の日本に文字がなかった時代の記録でも、文字自体は今使われているものと変わらないみたいだった。

そうすると、漢字が伝わったり、仮名文字ができたりというのは必然の出来事だったのだろうか?と不思議に感じた。


……人間が書いた歴史書とかはどうしても、その時の時勢や権力者によって誇張されたり、歪められてしまうことがあるけど、ここにあるものは全て事実(・・)

今日は、私自身にある程度の理解がある安和(平安時代)頃の記録を読ませてもらったけど、どうして記録に残っていないんだろうと思うような出来事や、安和の変の裏話的なことを知ることも出来た。


……ちなみに、人間の記録に残っていない出来事の多くは(あやかし)という存在によるものらしい。

陰陽師とかそれにまつわる逸話も知ってるけど、科学技術が発達していなかった時代に起こった不可思議な現象を妖怪という存在で説明しようとしてただけだと思ってた。


………本当にいるのかな?

いや、ここにある記録に書かれているんだから事実なんだろうけど……


……今日は時間がなくて全然読めなかったけど、また読ませてもらいたいな。

桃さんが言うには、神族に関する書物もあるみたいだから、それらも読んでみたい。




「──そうか、記録書を読んでいたのか。ここには娯楽がないから、退屈ではないかと心配していたのだ」


「知らない事がたくさん書いてあって面白かったです」


麗叶さんに書物を読ませてもらったと言うと、そんな反応が帰ってきた。

……確かに、人間界と比べると娯楽は少ないかもしれない。

だけど、人間界に娯楽が溢れていようと私には娯楽に興じる時間も許しもなかった。

それに比べて、麗叶さんのお屋敷は探検できる程に屋敷が広くて、綺麗な花々が咲く庭園のある。何より、いつでも話相手になってくれる麗叶さんや桃さん、葵さんがいるから退屈なんてしない。


……今の生活の方が、前の生活よりも楽しいと感じ始めている自分がいる。



「そなたが楽しそうで何よりだ」


「はい、麗叶さんには本当に感謝しています」


「礼には及ばない。……最近は少しずつ、心のままを見せてくれるようになったな」


「?」


「今は気にしなくても良い」


……心のまま、か。

私は自分が感情表現が下手だと自覚している。いや、自覚させられた。

お母さんからがご近所さんに私のことを『いつも無表情で気味が悪い』と言っているのを聞いたこともある。

それでも、ここで生活していれば、昔みたいに戻れるのかな……




「咲空……葵を伴ってそなたの学校へ出向いていたのだが、皆そなたを心配している様子だった」


「えっ、学校に行ってたんですか?」


「あぁ、供を付けての通いとなるのだ。あちらへ確認をとった方が、そなたは気負わずに済むであろう?」


私を気遣ってわざわざ……

ほとんど一般の人間に関わることがない麗叶さんが、私のために地方の学校に行ってくれたのだ。

それに、『皆が心配していた』……学校で先生にとっても、生徒にとっても迷惑な存在であったはずの私を心配してくれた人がいたと分かっただけでとても嬉しい。


「……ありがとうございます。明後日から行っても大丈夫なんですよね?」


「うむ。古澤だったか? あちらの長もそなたが健やかに過ごしていると知って安堵しておった」


「校長先生が……あっ、私すっかり失念してたんですけど、一度家に帰ってもいいですか?」


「…………咲空が望むのならば構わないが、何用だ?」


「えっと、教科書と制服を取りに行きたくて……」


桃さんは心配することは何もないと言っていたけど、学校に行くなら絶対に必要だ。


「なんだ、その事か。ならば無理に行くことはないぞ? 今しがた用意してきた」


用意してきた?それって……

麗叶さんはそう言いながら、空中から取っ手のついたカバン型のダンボール箱を取り出した。


「今のは、神術ですか?」


「まぁ、そのようなものか?多くの神族は自分で創造した小空間を持っているのだ。……それよりもこれを」


麗叶さんから受け取ったダンボールを開けると、そこにはブレザー……私の高校の制服一式が入っていた。


「これ……」


「必要であろう? 教本の方は葵が受け取ってくるはずだ」


「わざわざ用意してくれたんですか?」


「そなたの物を持ってきてもよかったのだが、大分古くなってしまっているであろう? 使っていたものに愛着もあったとは思うが……」


愛着…確かに愛着はあった。

どちらも高校入試の合格通知が届いてすぐに私が自分で用意したものだったから。

麗叶さんがなんで知っているのか、どこまで知っているのかは分からないけど、私が使っているものは卒業した先輩に譲ってもらった物である。

自分で学校に電話して家庭の事情を話し、制服と教科書を譲ってくれる人はいないか尋ねた。……もしかしたら合格を取り消されてしまうのではないかと思ったけど、対応してくれた事務の先生はとても親切で『今年度卒業予定の生徒に声をかけ、見つかり次第連絡します』と言ってくれて、その一週間くらい後に本当に連絡をくれたのだ。

もちろん、教科書は旧版だから他の人が使っているのと違って困ることも多かったけど、譲ってくれた先輩にはとても感謝している。

受け取りに行った時にお礼を言ったけど、とても優しい先輩だった。陰気で顔に火傷まである私を見ても嫌な顔をせず『高校生活を楽しんで』と笑顔を向けてくれた。

……だから大切に使いたいと思っていたのに、すぐに汚れていってしまった。

私は存在自体が家族を不快にさせてたんだから仕方がない。私に直接何かしてこなかっただけありがたいと思わなきゃ。


「……まずはあの愚鈍な者達をどうにかせねばならぬな……」


……あれ? 麗叶さんが何か言った?

っ、考えにのめり込んでいて聞き取れなかった。大事なことを言っていたらっ……


「 す、すみません……考え事をしていてよく聞こえなかったんですけど、何と言いましたか?」


「いや、そなたは気にしなくて良い。服はそれで大丈夫そうか?」


「はい、ありがとうございます。でも、お金は……」


「本当にそなたが気にすることは全くないのだ。 実のところ、使い所のない金が貯まっておったのだ」


「えっ? 神族の方も人間のお金を持っているんですか?」


「あぁ、多かれ少なかれ持っている。我は上層部の人間達に助言をすることがあるであろう? 他にも人間では難しいことを代わりにやったりな。その度に謝礼としてもらうのだが、使う機会がないのだ」


「それで……」


「あぁ、だからそなたが気にすることは本当にないのだ」


……麗叶さんの気遣いを感じる。

私の気持ちを考えてくれているのだと思うと“心”がポカポカする。












読んでくださりありがとうございます(*^^*)


【補足】

咲空の親ですが、学費だけは払っていました。

理由は高校までは卒業させないと、顔に火傷がある咲空を仕事に就かせるのが難しくなり、家事を手伝わせるとなるとバイトをさせるのが難しいから、咲空自身に負担させるのが出来なかったみたいです。

一応、両親が朋夜を説得?して咲空の通学を許してもらえるよう頑張った結果、咲空は美緒の通う学校から遠く離れた高校に通えていました。


それと、麗叶の資産ですが、十億円くらいです(数字に深い意味はありません)。

謝礼を受け取りはするものの麗叶自身は使わないからと国に預けてあり、一度も使ったことがありませんでした。

口座が作られていて、今回は総理大臣(笠井さん)に引き出してもらったみたいです。



以上、補足でした!




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