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7.思いがけない……




美緒が落ち着いてからこれからのことについて聞いてみた。


「美緒、あなたはこれからどうしたい?」


「これから……」


「うん。ここは陰陽師達が住んでいる山の中の集落なんだけど、お母さんたちも美緒のこと心配してるし、家に帰りたかったらいつでも帰れるよ」


「お母さんたちも待っててくれてるの?」


「もちろん。美緒のこと、今は朋夜と雲上眩界に行ってるって言ってあるんだけど……」


「ともや……」


「……会いたい?」


美緒は半身である朋夜に会いたがるんじゃないかと思って名前を出してみたけど、固まったように名前をつぶやくだけ。

『会いたい?』という問いにも美緒は首を横に振った。


「あの人は今どうしているの?」


「……禁忌を侵したから、雲上眩界の孤島に隔離されて幽閉されてるの」


「そう、なんだ」


「でも、美緒が会いたいなら一度くらい会うことは出来ると思う。まだ罰は始まったばかりだし……」


「だいじょうぶ。会いたくないわけではないけど、今はいい。……朋夜が求めているのは半身であって()じゃないもの」


そう、悲しそうに言う美緒に心が痛む。


……私も悩んだ時期があった。

麗叶さんと出会って間もない頃、私にこんなに良くしてくれてるのは半身だからで、麗叶さんを半身だからという理由で縛ってしまっているんじゃないかって思っていた。


実際、きっかけは半身であったことだと思うし、半身出なかったら麗叶さんに認識されることすらなかったと思う。

でも一緒に過ごしている中で、麗叶さんが『私』と向き合ってくれて、『私』を助けようとしているということがわかった。……恥ずかしいけど、今では心を通わせることができていると思う。


……対して朋夜は、『半身』を見ていた。

神族であるにも関わらず黒邪の存在を見破ることができず、奥底に閉じ込められてしまっていた本当の美緒にも気付かなかった。

朋夜本人がどう思っていたのかは分からないけど、美緒が朋夜が愛していたのは自分じゃないって思ってしまうのも当然の状況だ。


……起きたばかりの美緒にはとても聞けないけど、美緒は朋夜のことをどう思ってるんだろう……?

朋夜に対する気持ちが 消えたわけではないみたいだけど……


朋夜は雲上眩界の孤島で十年の幽閉期間中。

美緒にも整理する時間が必要みたいだし……ある意味ちょうどよかったのかも。



「早くお母さんとお父さんに会いたいなぁ」


「うん。2人は黒邪のことは知らないんだけど、大丈夫?」


「こくじゃ? この身体に入っていた人だよね?」


「うん」


そうだ……


「美緒は『全部覚えてる』って言ってたけど、黒邪のことはどこまで知ってるの?」


「 ……大切な人が殺されちゃったってことだけ。この身体で経験したことは全部わかるんだけど、その前のことはあんまり知らないの。大切な人が殺されちゃってどん底にいた時に力をもらったっていうことと、神子?愛し子?を殺そうとしてたってことだけ」


「そっか……」


黒邪は清光さんと妖王が融合した状態だった。

だから清光さんとしての意識もそんなに濃くはなくて妖王の妖としての性質も強かったんだと思う。

美緒が知っているのは黒邪としての根幹、清光さんの強い思いに深く関係している記憶や感情だったんだと思う。



「お母さんたちは私のこと知らないんだね」


「……伝えておこうか? 黒邪のことはあまり話せないけど、悪いものに操られてたっていう風に」


「う~ん……でも平気。今までの私が私じゃなったなんて言っても意味が分からないだろうし、混乱させちゃうもん」


「美緒……」


「それに私はみんなに謝りたい。あの人(・・・)のことを知ったら逆に謝られちゃうかもしれないでしょ?」


「美緒が謝る必要なんてないのに……」


「ううん。私はみんなに酷いことしちゃったんだから」


美緒は本当に良い子だ。

まだ少ししか話していないけど、とても優しくて純粋な子。

……そして、自己犠牲が強い。


自分のことを軽視しているように見えて悲しい。

明るく振る舞っているけど、自分の幸せを諦めてしまっているように見えて……なんだか、麗叶さんに出会う前の全てを諦めていた自分を見ているみたい。


……美緒は自分のことを伝えなくていいと言っていたけど、私からそれとなく伝えておこう。

前にお父さんが美緒とちゃんと話をするっていう風に言ってたし、間違っても美緒が責められることがないように。



私はあの頃からは考えられないほどに幸せになれた。

この子も、幸せにならなきゃいけない。



「お母さんたちも美緒に会いたがってたから喜ぶと思う。お医者さんに診てもらって問題がなかったらすぐにでも会えるように用意しておくね」


「ありがとう、お姉ちゃん」




「どうかした?」


いったん話題が途切れたところで、美緒が何かをいいたそうにしていたから聞いてみると、おずおずと口を開いた。


「えっと、1つお願いしたいことがあるんだけどいい……?」


「! もちろん、何でも言って」


「あのね、ここには陰陽師の人が住んでるって言ってたでしょ?」


「うん。そっか、陰陽師のことは知ってるんだね」


あの人(・・・)が警戒してたから知ってるの。……それで、陰陽師って妖とか普通の人には見えない人たちも見えるんだよね?」


「? そうみたいだけど、どうしたの?」


「探してほしい人がいるの」


「探してほしい人?」


「うん。今どうしているかも、どこにいるのかも分からないけど、見つけなきゃいけないの」


ずっと操られていた美緒からのお願いが探し人なんて……でも、美緒からは切実なものを感じる。


「わかった、お願いしてみるね」


「どんな人なの?」


「えっと……最後に会った時は()が3歳になる少し前なんだけど、その時に小学生4年生だった子で、たぶん透明になっているから普通の人には見えないの」



「──」



美緒が3歳になる少し前。

それは、お兄ちゃんが家を出て行った時期と重なる。

『透明になっていて普通の人には見えない』それも、当時のお兄ちゃんの状態と同じ。


「ねぇ美緒、その人の名前は……?」


「えっと……」


「うん」


「──ひめの、はやと」


「!」



やっぱり……!



「あ、あのね、急にこんなこと言って変かもしれないけど、実はその人は私たちのお兄ちゃんでね、だから同じ苗字なんだけど……でも私のせいで呪いをかけられちゃって、みんなには忘れられちゃってて、それで、えっと、」


「美緒、落ち着いて。わかったから」


「っし、信じられないよね……?」


「ううん、信じるよ」


「……信じてくれるの?」


不安そうな美緒のの問いに頷く。

そっか。美緒が言い淀んでいたのは私も、黒邪の呪いでお兄ちゃんのことを忘れていると思っていたからなんだね。

私以外にもお兄ちゃんのことを覚えている人がいた……嬉しくて目が熱くなる。


「……美緒も、お兄ちゃんのこと覚えてくれてたんだね」


「……もしかして、お姉ちゃんも覚えてるの? ……あっ、お姉ちゃんは特別な力があったから?」


「うん。小さかったからしっかりとは覚えていないし断片的だけど、呪いは受けなかったの。美緒はすごく小さかったのによく覚えてたね?」


「私は、この身体の中からあの人(・・・)のやっていることを見ていたから……」


「美緒は赤ちゃんの頃の記憶も覚えてるんだね?」


「うん。お母さんのお腹の中にいた頃の、たぶんあの人(・・・)が入ってきた時からのことなら全部覚えてる」





































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