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6.和解




「──颯斗!」


「師匠! 美緒はどうしていますか!?」


「分からない……近くに人がいない方が落ち着くだろうと今は一人にさせておる。日和が部屋の前で控えてはいるが……とにかく行こう。天代宮様と半身様もありがとう存じます。さぁ、こちらへ」


「はい……!」


お兄ちゃんの家の前に来ると、お師匠様が待ってくれていた。

美緒が目を覚ましてからそんなに時間は経っていないはずだけど急がなければと気が急いてしまう。

すでに何度も通ったお屋敷にお師匠様の案内で入ると、見知った玄関に見知った廊下のはずなのに、知らないところに来たみたいに緊張する。








* * *








早足になって屋敷の廊下を進んで角を曲がると、美緒の部屋の前で心配そうに閉ざされた襖を閉めの前に佇む人影が見えた。日和さんだ。


「──師匠! 颯斗さんが来たんですね!」


「うむ、天代宮様と半身様もいらしてくださった。何か問題はなかったか?」


日和さんは私たちの姿を捉えてとほっとしたような表情を浮かべている。


「はい。私が颯斗さんに連絡をして戻ってきた後には特に……気配はありますがとても静かでした」


「まずは咲空だけが入った方がいいですかね?」


「そうじゃな……半身様、お願いしてもよろしいですか?」


「もちろんです」


お兄ちゃんの提案にみんなが頷く。

私もそう思う。ここにいる5人の中で美緒が認識して、落ち着いて話せる可能性が一番高いのは私。

今までの美緒の意識がどうなっていたのかはわからないけど、他の人は美緒が認識できている可能性が限りなく低いから……


「万が一の備えとして我も姿を消して共に行こう」


麗叶さんは付いてきてくれるみたいで心強いし、甘えてしまいたくなる。

けど……


「すみません麗叶さん、ここは私一人に行かせてください」


「それは……」


「大丈夫です、お願いします」


「……何かあればすぐに呼ぶのだぞ?」


「はい」


私と美緒はしっかりと向き合わなければならない。

妹であるあの子が“美緒”として私と向き合っていたことはない。

初めての対面となるこの瞬間を大切にしたい。


姿を消してもらえば気付かれないのかもしれないけど、美緒はどこだかも分からない場所に一人という不安な中で私と会うのに、私は知っている場所で信頼できる人に付き添ってもらっているというのはあまりに不公平。

それは姿が見えなくとも変わらないし、私が心から美緒と向き合うことができなくなってしまう。




みんなに別の部屋で待っていてくれるように頼んで、廊下には私一人になった。

もしかしたら麗叶さんは部屋の中はだめでも傍にって言うかもしれないと思ったけど、私を信じて希望をのんでくれたみたい。




人がいるのか分からない程に静かな部屋の前で深呼吸をして、襖の中へと声をかける。


「──美緒、お姉ちゃんだよ。入ってもいい?」


「」


返事はないけど私の声は聴こえているはずだし、そうでなくともすでに私達のやり取りが聞こえていて、私がいることも私が部屋に入ることも分かっているはず。


「美緒、入るね」


「っ!」


私が襖を開くと小さく息を呑む気配がした。


開いた襖の間から部屋の中を見渡すといつも美緒が寝ていた布団の上に美緒はおらず敷布団だけが残されている。美緒は、と視線を移していくと部屋の隅に掛け布団の塊があった。

下から足の指先が覗いていて美緒だとわかる。


私が近ずくと、布団がぎゅっとさらに小さくなった。

……怖いよね。でも、拒絶はされていない見たい。


美緒から少し離れた所に腰を下ろして話しかける。


「私のこと分かる?」


『……』


「一応自己紹介するね。私は姫野咲空、あなた─姫野美緒の1歳年上のお姉ちゃん」


「目が覚めたら知らない場所にいたらびっくりしちゃうよね。ここは陰陽師の人達の住んでいる集落にあるお家だよ。美緒の目が覚めて本当に良かった」


「少し前まで美緒の中には妖っていう悪いものが居て、それを美緒から引きはがしたら美緒は倒れちゃったの。2か月くらい眠ってたんだよ」


「いま、体調は大丈夫? 気分が悪かったりしない?」


『……』


「えっと……そうだ、美緒自身のことについて話しておこうか。美緒はいま17歳の高校2年生で……、……ごめんね。私、美緒のことをあまり知らないの。さっき言った通り美緒の中には妖がいて美緒の身体を乗っ取ていたから、あまり仲良くは出来ていなかったの」


「ごめんね、私がもっと早く気が付いて美緒を助けられていたら……」



「──」



「美緒?」


ずっと静かで動いてもいなかったが身じろいだ。


「どうかしたの?」


「なんで、おねえちゃんがあやまるの?」


「美緒……! 私がお姉ちゃんだって分かるの?」


「だいじょうぶ、おぼえてるよ」


「……!」


「せんぶ、おぼえてる」


「美緒……!」


たどたどしいけど、確かに美緒の声。

ずっと話さなかった美緒が話してくれたこと


「おねえちゃんは、おこってないの?」


「え? 怒ってるって何に?」


「……ぜんぶ。わたし、ずっとおねえちゃんをくるしめてた」


「それは美緒じゃないでしょ? 美緒は体を乗っ取られちゃってたんだから……、待って。さっき全部覚えてるって言ってたけど、身体を乗っ取られていた間のことも覚えてるの?」


布団が頷くように1回、縦に動く。


「それは……」


辛いことだと思う。

今でこそ想い人と再会して改心した黒邪だけど少し前までは世を恨み、救いと称して私を殺そうとしてたんだから。


「……自分が望んでいるわけでもないのに自分の身体が自分のやりたくないことをしていたんだも、辛いよね……でも、美緒は全く悪くないでしょう?」


「わたしがもっとひっしになればとめられた」


「美緒は十分頑張ってくれたよ、いつ助けてもらえるのかも分からない中で他の人のことを気に掛けるなんて、普通はできない」


横に首を振っているように布団が動く。

見えないけど、すすり声が聞こえるから泣いているんだと思う。……そっか、美緒はずっと自分を責めてしまっていたんだ。


どうしようもないことだったとしても、『自分には出来ることがあったのに』という自責の念が美緒を苦しめていたんだ。


「……美緒、私も美緒がずっと身体を乗っ取られて苦しんでいたのに助けられなかったんだよ。ううん、私は自分のことで一杯一杯になって、気付くことさえできてなかった」


否定するように首を振っている美緒は本当に優しい子だと思う。


「私はあなたが誇らしい。一人でも戦って私を助けようとしてくれてたんでしょ?」


「……」


「ねぇ美緒、私たち今までは姉妹として過ごすことができなかったけど、これからは仲良くできるかなぁ?」


「……!」


私の目からも涙が溢れてくる。

せっかく姉妹として生まれたんだもん、大分遅くなっちゃったけど今からでも姉妹になりたい。


「ゆるして、くれるの? わたしのこと」


「ふふっ、最初から怒ってないよ。……美緒はどう? 私のこと赦してくれる?」


「……わたしも、おこってない」


「じゃあ、仲直り。これからよろしくね、美緒」


「っ、おねえちゃん……!」



やっと布団から出てきてくれた美緒。

私の大切な妹。


今まで抱きしめられなかった分も、ぎゅっと抱きしめる。


あぁ……ずっと心の中にあったモヤモヤがまた一つ消えていく。

美緒。今まで仲良くできなかった時間をこれから埋めていこうね。































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