40.開示
今日は2学期最終日。
「みんな昨日はどうだった?」
「ん? うん、楽しかったよ」
「ハルミン何の映画見たんだっけ?」
「これ~」
晴海ちゃんがスマホ見せてくれた写真は、少し前から上映しているアニメ映画だった。
私はアニメとか詳しくないけど、人気な作品で今回の映画もかなり評価されているらしい。
「加奈は家族で過ごしたんでしょ?」
「うん! アニキがプレゼントくれたんだけど、前から欲しかった推しのぬいぐるみだったんだ!」
「ふふっ、よかったね」
「うん!」
満面の笑みで写真を見せてくれる。
加奈ちゃん、普段はお兄さんのこと『お菓子を食べた』とか『勉強してるのに話しかけてくる』だとか文句も言っているけど、こういうところから仲の良い兄妹だと伝わってくる。
「あっ、咲空ちゃんも昨日は何かしたの?」
「えっ? あー……」
どうしようかな?
もともといつかは麗叶さんのことをちゃんと伝えたいと思っていたし、麗叶さんもいつも私を助けてくれるみんなにすごく感謝していて『話してみたい』って言っていたし……
……うん。
「か、彼氏?ができました!」
「そっかぁ! 彼氏が──……ん? 彼氏?」
「う、うん」
「えぇぇぇっ!?」
「驚かせちゃってごめんね」
「そ、それはいいんだけど……いや、本当にびっくり! えっ、おめでとう!」
「おめでとう」
「おめでとう」
「ふふっ、ありがとう」
「そっかぁ、咲空ちゃんも彼氏持ちに──って、ちょっと待って。何でウチ以外そんなに驚いてないの?」
そういえば……
麗叶さんと会っている結華ちゃんはいいとしても、晴海ちゃんも大きく驚くことなく私の話を受け入れてお祝いの言葉をくれた。
「いやぁ、それがですね……アタシは咲空ちゃんが彼氏さんといるとことを見てしまったもので……」
晴海ちゃんが少し気まずそうに言っているけど……
「……え?」
「ぐ、偶然だったの! みんなには駅のイルミ見に行くって言ってたと思うんだけど、それからプラン変更しちゃっててっ」
「つ、つまり……」
「……はい、アタシもフラワーパークに行っていました」
「えっ!?」
全然気が付かなかった……
でもそうだよね、学校から少し離れているとはいっても電車で行ける距離だし、ここ何年かでクリスマス穴場として少しずつ有名になってきてる場所だったから、この学校の人がいてもおかしくはないと思ってた。
それが晴海ちゃんだとは思わなかったけど……
「普通にイルミネーション見てそろそろ帰ろうかなって思ってたら、咲空ちゃんが背の高いイケメンさんといるじゃん? 最初は見間違えかと思っちゃった!」
「そうだよね……」
みんな大切で信頼できる友達だけど、麗叶さんのことはずっと隠していたから……
「『おっ?』って思ったんだけど、楽しそうだったし踏み入っていいかもわからなかったから声はかけなかったんだ」
「そうだったんだ……気を遣わせっちゃってごめんね」
「全然! 今日こうやって教えてくれるとは思わなかったけど」
「ふふっ」
「教えてくれてありがとね」
「……うん」
晴海ちゃん、知っていたのに私が言い出すまで何も言わないでいてくれた。
きっと、私が今日言わなくてもそのまま秘密を護ってくれてたんだろうな。
「……咲空ちゃん幸せそうだね」
「えっ?」
「あはっ、分かるよ。今日の咲空ちゃんいつも以上に雰囲気が柔らかいし、頬が緩んでるんだもん」
「う、嘘!」
恥ずかしくなって自分の頬を触って確認してみるけど、自分では分からない。
「アタシはそんなわけで知ってたけど、ユイユイは?」
「私は咲空ちゃんのお相手と会ったことがあったんだ。あっ、本当に最近の話なんだけどね」
「なるほどね~」
「むぅ……知らなかったのは私だけかぁ」
「ご、ごめんね」
手を合わせて加奈ちゃんに謝る。
「……しょうがないから赦す! 今日の咲空ちゃん、いつも以上に可愛いから」
「もう、加奈ちゃんまでそんなこと言って……ありがとう」
「……あれでも待って、2人彼氏持ち?」
「ま、まぁ……」
「ユイユイ~~咲空ちゃんまであっちに行っちゃったよぉっ!」
「あ、あはは」
……い、言えない。
実は結華ちゃんも昨日は恋人と過ごしてたなんて……
「あっ、誰か聞いてもいい?」
「もちろん! ……とは言ってもこの学校の人じゃないから……」
「そっかぁ……ハルミン曰く長身のイケメンでしょ?」
「うん、めっちゃイケメンだった。国宝よりも国宝」
「そんなに?」
「そんなに。みんな見てたもん」
「え、」
確かに麗叶さんは変装していてもオーラがあるし、あれほど格好良い人がいたら見てしまうのも仕方がないかもしれないけど、全然気が付かなかった。
昨日は緊張していたし、告白が成功したらその後は幸せすぎて周りが目に入らなかったけど……
……麗叶さんが見られていたってことは一緒にいた私も?
いや、麗叶さんのような人がいて私を見ることはないか。うん、考えるのを止めよう。
「2人ともいいなぁ、ウチも会ってみたい……」
「ふふっ、迷惑じゃなければ紹介してもいい?」
「えっ、ガチ!?」
「うん」
「会いたい会いたい!」
「加奈うるさい。でも、アタシもちゃんと話してみたいなぁ」
「わかった、春休みくらいになっちゃうかもだけど伝えておくね」
「やったぁ! ありがとう!」
朝はここで時間切れとなってしまったけど、お昼休みにも麗叶さんの話が続いた。
恥ずかしいけど今まで秘密にしていて心苦しさがあったから、こうして隠すことなく話せてよかった。
「ねね、どこで会った人なの?」
「う~ん……気づいてるかもしれないけど、私は家族とあんまり良い関係じゃなくて……あっ、最近は改善してきて普通に話せるようにはなってきたんだけどね。……それで、家を追い出されちゃって困ってたところを助けてくれた方なの」
「そう、だったんだ……」
「咲空ちゃんが良い人に巡り合えてよかった……でも、アタシたちが聞いちゃってよかったの?」
「うん。 みんな大切な友達でいつも私のことを助けてくれるんだもん。今までは機会がなかったり言い出せなかったりだったけど……」
全部、いつかは話したいとずっと思っていたこと。
「実はここ1年くらいはその人にお世話になってたんだ。家に帰りづらくなっちゃったから」
「えっ、そうだったの!? 大丈夫!?」
「咲空ちゃん、何か困ったことがあったら何でも言ってね……!」
「ありがとう。最近は本当に家族との関係も良くなってきたんだけど、その人の傍の居心地がよくて……」
「おっ、惚気だぁ!」
「咲空ちゃんから惚気を聴ける日が来るとはねぇ」
「ふふっ」
そういえば、こうして他の誰かに麗叶さんのことを話すということは今までになかった。
そう考えると、こそばゆいけど麗叶さんのことを知ってほしいという気持ちにもなる。
「……良い人なんだね」
「うん、すっごく。あっ、その人にお世話になっていることは学校にも言ってあるから安心してね」
「えっ、そうなの? まぁその方が安心だけど……」
「すごいなぁ……彼氏さん大学生くらいだよね? まだ若いのに咲空ちゃんを助けてくれてイケメンで……」
「あー……」
そう、だね。
昨日の麗叶さんは20代前半くらいの人間男性に見えるように変装していたから。
考えて見れば、路頭迷っていたとはいえ女子高校生の私が大学生と思われる男の人に助けてもらって一緒に暮らしていたなんて、あらぬ誤解をされかねない。
この際だし、教えてしまった方がいい?
私の相手が神族だって──……
麗叶さんは私が教えていいと思ったら隠さなくていいと言ってくれていたし、結華ちゃんはすでに知っていて加奈ちゃんと晴海ちゃんにも会ってもらうことになったんだから、早いうちに伝えておいた方がいいだろうし……
事情を知っている結華ちゃんに目を向けると、私の意図が伝わったかは別として頷いてくれた。
……よし。
周囲を確認して他の人がある程度離れていることを確認して、2人に耳を寄せてもらう。
「実はね──────」
教室に2人の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。