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39.2人だけの世界




「──麗叶さん、大好きです」


「──……」


……あぁ、やっと言えた。

世界から私たちのいる空間だけが切りとられたかのような感覚に陥る。


「麗叶さん?」


切りとられた世界の中で時間までとまってしまったかのように何の反応もない麗叶さんにに不安になってもう一度名前を呼ぶと、麗叶さんの目に私が映る。


「あ……すまない。咲空、とても……とても嬉しい。そなたが直接的な好意を言葉にしてくれたのは初めてだな」


麗叶さんの顔は緩み、いつも以上に柔らかく優しい表情を浮かべている。


「……なかなか言えなくてすみません」


「謝ることはない。自分の気持ちを表出するというのは難しい……あぁ、でも」


なぜか変装を解いていつもの姿に戻った麗叶さんは私の頬にそっと片手を添えて囁くように言葉を紡ぐ。


「──我もそなたを“愛している”」


「……!」


「これからは毎日でもそう伝えることができるな」


「! う、嬉しいです」


麗叶さんがこういう言葉をくれるのも初めて。

もちろん、私のことが大切だということを隠すことなく言葉や態度で伝えてくれてはいたけど、私に合わせてくれていたから。

恥ずかしいけど、どうしようもないくらい幸せ。


「……わ、私もこれからは言葉で伝えられるようにします」


「それは嬉しいな」


今夜は月が出ていないから私たちを照らしているのは眼下のイルミネーションとわずかな外灯だけ。

だけど、幸せそうに私を見つめる麗叶さんの姿は暗闇に隠されることなく私の心を跳ねさせる。


「っそうだ、プレゼントを用意したんです」


「プレゼント?」


「はい」


鞄の中からクリスマスの包装がされたプレゼントを取り出す。


「ありがとう。あぁ、今日は嬉しいことばかり起きるな……開けてみても?」


「もちろんです」


今日のために琴さんと水上先生にも相談しながら選んだプレゼント。

気に入ってもらえるといいんだけど……


「これは組紐か?」


「はい、髪を結うのにどうかと思って……」


「ありがとう、大切に使おう」


そう言った麗叶さんは早速というようにプレゼントした髪紐で髪を結わえる。

麗叶さんの白銀の髪に合わせて選んだ紺色の糸と金糸で編まれた組紐は麗叶さんの荘厳な雰囲気ともよく合っているように思う。


「どうだ?」


「よくお似合いです。……いつも私ばかりが色々なものを頂いてしまっていましたが、やっとお返しができました」


「ふっ、そんなことはない。そなたは多くのものを与えてくれた。そなたのお陰で感情というものを知り、天代宮としての任を果たすだけだった日々が明るく色どりのあるものとなったのだ」


「……そう言っていただけて嬉しいです」


私も麗叶さんと出会って壊れかけていた心を癒すことができた。

()を見てくれる人と出会って、私の世界に光が差した。



「麗叶さん、私はこれからもずっと麗叶さんと一緒にいたいです」


「あぁ、我もそう願っている」


「……ずっと一緒にいるために“契りの儀式”に臨みたいと思っています」


麗叶さんは驚いたような顔をする。

……伝わったのだと思う。私が遠くにあるいつかの将来の話をしているのではなく、近い将来の話をしているということが。


「一応確認するが、10年後や20年後という話ではないのだな?」


「はい」


「我としては嬉しいが、契るのは時期尚早ではないか? 儀式を行えば普通の人間として過ごすことは出来なくなるのだぞ?」


「わかっています」


「両親や友が重ねる時を共に刻むことは出来なくなっても良いのか?」


「麗叶さん、貴方となら悠久の時を過ごしてみたいです」


自分でも驚くほどに迷いはない。

“契りの儀式”の話を聴いたときからいつかは儀式に臨みたいと思っていたから、早くはあるけど迷う理由はない。


「……颯斗のためならばあやつが喜ぶとは限らないぞ」


「……急ぐ理由の中に早くお兄ちゃんの呪いを解きたいからというのもあります」


「ならば……」


やっぱり分かっちゃうよね。

でも、私がお兄ちゃんのことを気にしているのは判然たる事実だし、そんな中で水上先生や琴さんに会っていて『“契りの儀式”に臨みたい』と言ったとなれば気付かれても仕方がない。


「でも、一番は麗叶さんを残して逝きたくないという思いです」


人間である私は儀式を受けなければ麗叶さんの枷にしかならない。

自惚れではなく、麗叶さんは私が死んだら追いかけてしまうと思うから。


「人間の理の中にいる私はいづれ麗叶さんを残していってしまいます。“契りの儀式”について聴いたときから漠然と『それは嫌だ』と思っていました」


「そう、か……しかし、本当に良いのか?」


「もちろんです。ご存知の通り人間はか弱い存在です。麗叶さんの半身である私には無縁の話かもしれませんが、不幸な事故や突然の病気というのは誰しもに訪れます」


「……」


「私は、そうなってしまった時に麗叶さんを一人にしたくない。麗叶さんと契れば、麗叶さんを一人にしてしまうという恐怖に苛まれる必要はなくなります」


「そうか……」


「はい。これは私の願いで私の我が儘です。……お兄ちゃんも私の我が儘なら叶えてくれると思いませんか?」


「ふっ、可愛らしい我が儘だな。あやつも嫌とは言うまい」


「ふふっ」


「時期はそなたが卒業したらというのでどうだ? 来月には大切な試験を控えている大事な時期だし、友との時間も大切にしてほしい」


「はい」


卒業式は3月の頭だからあと2カ月と少し……

心の準備はもうできてるけどそれまでに神族の仕来たりとか神族と契ることで受けることになる制約なんかを調べておこう。


水上先生が言うには神族と契ったからといって雲上眩界で過ごさなければいけないというわけではなくて大学に通っても問題ないらしいけど、そこについても考えないと。

せっかくだから大学には行きたいとは思うけど、時間を気にせずに学びたいことを好きなだけ学んでいくというのも魅力的だし。



「……さて、そろそろ人が来るかもしれないな」


「そうですね……下に降りますか? まだ見ていない場所もありますし」


「そうしよう」


「じゃあ、また変装をしないとですね」


「いや、この後はこの姿のまま過ごそう。ここは電車の中でも人混みでもないし、そなたにも隠匿の術をかければ怪しまれることはあるまい」


「ふふっ、はい」


本当に私たち2人だけになったみたい。

園内には他にも人がいるけど、互いの存在をとられられるのは互いだけ。


「麗叶さん、私を見つけてくれてありがとうございます」


「礼を言うのはこちらだ」


「愛しています。これからもよろしくお願いします」























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