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38.クリスマス


季節外れのクリスマス❄



そして迎えたクリスマスイブ。


「メリークリスマ~ス! イブだけど」


「ふふっ、いいんじゃない? クリスマスって本当は24日の日没の後から25日の日没前なんでしょ? 今は朝だけど当日だし」


「へ~初めて知った。咲空ちゃん知ってた?」


「うぅん、私も知らなかった」


「私も最近知ったんだけど、教会暦で考えるとそうなるんだって」


結華ちゃんの説明に加奈ちゃんはまた「へ~」と返している。

他の子たちも今日は朝から盛り上がっていて、サンタ帽を持ち寄って写真を撮っている子たちもいた。


「はぁ、ハルミンは放課後デートかぁ」


「なに、文句ある?」


「うんや。単純に羨ましい」


「家族と過ごすのだって楽しいじゃん」


「いや、そうなんだけどさ? やっぱ憧れるじゃん?」


加奈ちゃんは拗ねたように口を尖らせている。

ふふっ、なんとなくだけど加奈ちゃんの気持ちが分かるな……クリスマスを恋人と過ごすというのは特別だし、やっぱり憧れるから。

“大切な人”という意味では家族も同じなんだけどね。


……私も学校終わりに麗叶さんとクリスマスの思い出を作りたくて、少し時間をもらえないかお願いしてみた。






* * *



『麗叶さん、明日の放課後に少しお時間をいただけませんか?』


『明日?』


『はい。あの、突然のことなのでお忙しければ……』


『問題ない。……嬉しいな、そなたの方から誘ってくれるとは。何かしたいことが?』


『はい……でも、麗叶さんにはまだ秘密です』


『秘密?』


『ふふっ、明日のお楽しみです』


『あぁ。楽しみにしていよう』



* * *






麗叶さんはお忙しい方だし、言い出せなかったりタイミングが合わなかったりで伝えるのが昨日になってしまったから無理かも……って思ったけど、嬉しそうにはにかみながら了承してくれた。


神族である麗叶さんには馴染みのないイベントかもしれないけど、楽しんでもらえたら嬉しい。


夕食は桃さんと葵さんが腕を振るってくれるというから、それも楽しみ。

それまでにイルミネーションを見て、プレゼントを渡して、私の気持ちを伝えて……あぁ、今から緊張する。



「──咲空ちゃん、顔赤いけど大丈夫?」


「! だ、大丈夫。えっと、ちょっと暑くて……」


「確かに暖房ガンガンだもんね」


「ちょっと下げてこようか?」 


「うぅん、大丈夫。ありがとう」 


いけない。

幸いにも加奈ちゃんと晴海ちゃんは別の話題に移ってくれたけど、隣にいた結華ちゃんが私にしか聴こえないくらい小さい声で楽しそうに尋ねてきた。


「咲空ちゃん、今日は天代宮様と?」


「うん……今から緊張しちゃってて」


「ふふっ、楽しみだね。実は私も兄様と過ごすことにしたんだ」


「そっか。もともとは中学校の友達と会う予定だったんだっけ?」


「うん。友達ももちろん大切だし久しぶりに会いたかったんだけど……千年も私を想ってくれていた兄様を一人にはしたくなくて」


「……」


「会う予定だった子達とはまたいつでも会えるからって、その子達の受験が終わって落ち着いたら会うことにした」


『いつでも会える』……そう、だよね。

清光さんの処遇によっては2度と会えなくなってしまうんだから。

私の出す結論で……


結華ちゃんはすぐに私が顔を曇らせたのに気が付いたみたいで、まっすぐな瞳で私の瞳を射貫いて言葉を綴っていく。


「ねぇ、咲空。兄様ね、咲空ちゃんにすごく感謝してたんだよ。この間はお礼も謝罪もできなかったから、次に会ったら赦してもらえなくてもちゃんと謝ってそれで感謝を伝えたいって」


そう笑顔を浮かべる結華ちゃんは本当に幸せそうで、だけど、その笑顔の裏にはどのような未来も受け入れるという覚悟が見える。


「……咲空ちゃん、咲空ちゃんは自分の納得のいく答えを見つけて。私も兄様もまた会えて、一緒に過ごせてるだけで満足してるの。それが叶ったのは他でもない咲空ちゃんのおかげ。今、本当に幸せなんだ」



──あぁ、結華ちゃんは知ってたんだ。


清光さんの処遇が私に一任されてるって。

……そっか、麗叶さんが私にその事を伝えたとき結華ちゃんも近くにいたんだから、清光さんと話していたとはいえ私達の会話が聴こえていてもおかしくはない。


「……さ、そろそろSHRだね。加奈ちゃん晴海ちゃんも席もどろ~」


結華ちゃんの声に2人で話していた加奈ちゃんと晴海ちゃんもそれぞれの席に戻っていく。



……うん、未だに何が正解かは分からないけど、自分の中で1つの答えが見つかった気がする。








* * *








授業が終わって放課後。

少し自習をした後でいつもの空き教室に行くと、既に麗叶さんの気配があった。


「麗叶さん……?」


「おかえり。大事なかったか?」


麗叶さんがいるであろう空間に呼びかければ、術を解いて私を迎えてくれる。

神族だと分からないようにとお願いしていたから、前に出かけた時と同じ黒髪に洋服という見慣れない姿。

でも、確かに麗叶さんだと分かる。


「はい。お待たせしてしまってすみません」


「いや、楽しみで早く来てしまっただけだ」


麗叶さん、楽しみにしてくれてたんだ。


「主様、私共は先に戻り夕餉の準備をいたします」


「うむ、頼んだぞ」


「ありがとうございます」


「では」


桃さんと葵さんを見送った麗叶さんは私に向き直る。


「……さて、この後の予定は?」


「2人でイルミネーションを見に行きたいです」


「ふっ、ならば行こうか」


「はい!」


日の入りが早い今、外は既に日が沈み始めている。

到着する頃にはすっかり暗くなっていて綺麗だろうな。


「場所は?」


「電車で30分くらいのところなんです。ちょっと遠いんですけど、電車と歩きでも大丈夫ですか?」


「もちろんだ」







* * *







イルミネーションの名所を調べたら、少し遠いけど素敵な場所を見つけた。


普段はフラワーパークとして季節折々の花が見られるそこは、この時期の夜間はイルミネーションの演出をしているらしい。


もちろん、麗叶さんに頼めば一瞬で移動することも出来ただろうけど、今日は私が主導したかったし、2人きりの落ち着いた時間というのはあまりないかったから……


電車は年末だから混んでいるかと思ったけど、帰宅ラッシュの前だからか不思議と空いていて、心地の良い落ち着いた時間を過ごすことができた。


駅に向かう道で話題が尽きることはなかったし、電車内で会話を控えていて気まずくなるということもない。

たまに視線が合うと優しい笑顔を向けられて、心地良く落ち着く時間だった。



降りた駅からしばらく歩くと、夜の闇を照らす色鮮やかな光が見えてきた。

麗叶さんも気が付いたみたいで、物珍しそうにしている。


園内に入って光の世界を目の当たりにすると一言、


「美しいな」


「そうですね。私もイルミネーションを見に来るのは初めてですけど、本当に綺麗……」


園内には他にもたくさんの人がいて、光が創り出す幻想的な光景を楽しんでいる。


ハートのオブジェや光のトンネル、勿忘草や藤の花のような花を模した演出もあった。


私も麗叶さんと2人で慣れない自撮りをしてみたり、イルミネーションを眺める麗叶さんをこっそり写真に撮ってみたりした。


そして、光の世界を見下ろすことができる展望台にやってきた。



……この1年、色々なことがあった。

麗叶さんに出会ってから1年と少し……その長いようで短い時間の中で色の無かった私の世界は鮮やかに色付いた。


友達ができた。

自分に自信がついた。

家族との仲が改善した。

お兄ちゃんの事を思い出せた。


──……大切な人ができた。


もう、麗叶さんのいない世界なんて考えられない。



……あぁ、今なら言える。








「──麗叶さん、大好きです」


































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