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32.未だ夢寐の中


《雑なあらすじ》


月読の言を受けて、結華と“想いが眠る地”へとやってきた一行。そこで結華が取り戻したのは初華として生きた過去の記憶。前世の記憶は、神から富をもたらす力を授けられたがために利用され、悲劇の末に殺されたという凄惨なものだった。しかし、そこには恋人─清光と過ごした幸せな時間も確かにあった。

黒邪となった清光と再会した結華は、自分の死後に復讐にかられた彼が歩んできた道を知り、ともに罪を背負うと決意する。

結華と再会して完全に邪気が祓われた清光は、麗叶から監視の下であれば現世で生活し、結華に会ってもよいという許しを受けた。


そんな彼の処遇を一任された咲空はどんな答えを出すのか?

永い時を経て再会した恋人達の運命は──?





結華ちゃんと“想いの眠る地”に訪れた次の日、私は朝から美緒に会いに陰陽師の集落に向かった。

午後には琴さんと水上先生と会う予定だから長居は出来ないけど、まだ目を覚まさない美緒の様子を確認しておきたい。



昨日は清光さんが生活するための準備が整ったところで、解散ということになった。


帰りは麗叶さんの神術で結華ちゃんの家の近くの物陰に飛んだんだけど、清光さんはその近くの空き家で生活することになるみたい。監視には式神の和泉さんと長門さんが付くとのことで、結華ちゃんに別れを告げた清光さんは式神の2人とともに去っていった。

やはりというか、清光さんは離れがたそうにしてたけど、結華ちゃんが「今後はいつでも会えますから」と笑って宥めていた。……2人は私たちと離れている間にしっかりと話をすることができたみたい。準備が整ったと呼びに行ったときにも、涙を浮かべながらも楽しそうに話していた。

……永い永い時を越えての再会。まだまだ話したりないだろうけど、少しずつ離れていた時間を埋めていってほしい。




「──おはよう、お兄ちゃん」


「あぁ、おはよう。体調は変わりないか?」


「うん。ふふっ、一昨日も学校で会ったでしょ?」


いつものように出迎えてくれたお兄ちゃん。先生モードはお休みで、満面の笑顔で()を迎えたと思ったら、すぐに眉を八の字にしている。


「それはそうだけど、昨日は大変だっただろう?」


「……えっ、知ってるの?」


「そりゃあ、俺は陰陽師としての力は結構ある方だし、当事者といえば当事者だし。ねぇ、天代宮様」


「うむ。こやつらは協力者だ。事のいきさつは最後まで共有しておくべきだと思ってな」


「なるほど……」


昨日のことを知っていたらお兄ちゃんがいつも以上に私を心配するのも仕方がないかもしれない。

お兄ちゃんは、会えない時間が長かった上に再会後も他人として過ごさなければならなかったことの反動か、()としての私を過剰ともいえるほど心配してくれているから。

生徒としての私に対しては今までと変わらない接し方なんだけど……


「お兄ちゃん、この通り元気だから安心してね」


「……よかった。でも、もし体調が悪くなったらすぐに言うんだぞ? 俺じゃなくてもいいから」


「うん!」


……きっと、不安なんだと思う。

やっと会えるようになった(家族)が再びいなくならないか。

まして、姫野颯斗(・・・・)を記憶として留めているのは私だけ。お兄ちゃんにとって私は、自分の存在を証明する唯一の証人だから……


「ははっ、我が義兄殿は心配性だな」


「……義兄殿は止めてくださいって言ってるじゃないですか」


「間違いではあるまい?」


「まぁ……。この世に貴方以上に信頼出来て咲空を大切にしてくれる存在はいませんし」


……なんだか、私が恥ずかしくなってしまう。

お兄ちゃんが麗叶さんと私の関係を認めてくれているのは嬉しいけど……


「……っ」


ふふっ、麗叶さんから視線を逸らすお兄ちゃんも照れているみたい。

麗叶さんに兄と呼ばれることも気恥ずかしいだけで嫌がっているわけでなないみたいだし。



「そっ、そうだ」


お兄ちゃんが誤魔化すように声を発した。


「鈴木さんに対する対応で何か注意があればそれとなく教職員に伝えておきますけど、なにかありますか?」


そう聞くお兄ちゃんはさっきまでとは一変して先生モード。

麗叶さんもそれに答えて纏う空気を変えている。


「そうだな……。特段、今までと変える必要はない。彼女も今まで通りに対応を望んでいるはずだ」


「承知しました」


「ただ、同一の人間であるとはいえ別の人格と統合されたに近い状態だ。それによって言動に若干の変化があるかもしれない」


「なるほど……では、そうしたことが他の教職員の目についた場合には、問題にならないよう対応します」


「うむ、頼んだぞ」


「はい。あっ咲空、待たせちゃったね?」


「全然」


「さ、美緒のところに行こうか」


「う、うん」



やっぱり、お兄ちゃんモードと先生モードで空気が違うんだよな……






* * *






「──それでね、卒業したら春休みに入ったら旅行に行こうっていう話になったの」


「ははっ、いいなぁ……いっぱい楽しめよ」


「うん!」


「ちなみに俺は参加しちゃだめ?」


「う~ん……私は問題根いけど、みんなにとっては先生だから難しいかな?」


「だよなぁ……」


「ならば別で行けばよい」


「おっ、それはいいですね!」


「ふふふっ」


「咲空、時間があったら俺とも旅行しような」


「うん!」


美緒のお見舞いに来た時には決まって、眠っている美緒の横で楽しい話をする。

暗い話はしない。美緒が気になって混ざりたくなるような、楽しい話。


……まだ眠っている美緒からしたら迷惑かもしれないけど、それならそれで煩いって起きてくれるかもしれない。


「……」


あの日から2週間近く経とうとしているのに、美緒はまだ目を覚まさない。

それだけ、黒邪に侵されていたことの影響が計り知れないということだと思うと、不安になる。


「呼吸も脈拍も正常。いつ目を覚ましてもいいはずなんだけどね……」


話が一区切りついて静かになった部屋。

お兄ちゃんも眉を下げて、布団の上で瞼を閉じている美緒の頭を撫でている。


お兄ちゃんも私も、本当の(・・・)美緒とは話したことがない。

早く話したい、末妹のことを知りたい。


「……美緒、早く起きてね。私、いっぱい話したいことがあるの」


「……」


お兄ちゃんは複雑だと思う。

美緒に対して妹として触れ合えるのは美緒が眠っているからこそだから。


でも、私が思うに……──


「──咲空、そろそろ時間ではないか?」


「えっ?」


麗叶さんに声を掛けられて時計を確認すると、ここに来てから2時間が経っていた。


「本当だ。お兄ちゃん、そろそろ失礼するね」


「もうこんなに経ってたのか。時間の流れはあっという間だな」


「ね。今日は忙しいのにありがとう」


「いや、また来てくれ。美緒も喜ぶと思うから」


「うん!」


静かに立ち上がって麗叶さんが差し出してくれた手に自分の手を重ねる。



「また明日学校でな」


「うん、ありがとう」













申し訳ございませんでしたぁぁあ_/\○_ ε=\_○ノ


大変お久しぶりです┏( _ _ )┓

まさか3か月近く空いてしまうなんて……

話の中のクリスマスを現実と合わせた時期にしようと思ってたんだけどな_(:3 」∠)_


しばらくは安定して投稿できるかと思いますので、よろしくお願いします|•́ㅿ•̀ )


それと、3章25話をこっそり改稿しました。

話の流れには影響ないです!

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