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10.お願い



麗叶さんに屋敷の案内をしてもらってから一週間、雲上眩界(ここ)での穏やかな生活に慣れていく一方で、家族との関係をおざなりにしていて良いのか、このままで良いのかという思いが強くなっていく。


そっと首元に手をやる。

……私の首元にはエメラルドのネックレスが戻ってきた。

ネックレスがない時も癖で手を当ててしまっていたけど、その度に求めるものはもうないのだということを突きつけられていた。

でも、屋敷を案内してもらった日、部屋に送ってもらった時に麗叶さんが『勝手に預かっていてすまなかった』と言いながら渡してくれたのだ。


なんでも、土神族一位の珠稀さんという方に直してもらったらしい。

返してもらったエメラルドは砕かれたなんて思えない程綺麗で、見た目はもちろん、かつての優しい温もりまでもが元に戻って……いや、増していた。


珠稀さん……お礼を言いたいな。


唐突にネックレスを受け取った後のことを思い出して顔が熱くなる。

あの時、嬉しさのあまり泣いてしまった私を麗叶さんは優しく抱き寄せてくれたのだ。

……麗叶さんの腕の中、すごく安心感があったな。




「──咲空、退屈はしておらぬか?」


「れ、麗叶さん」


突然の声にビックリしたけど、ちょうどいい。


「……私の家族はどうしていますか?」


「……知りたいか?」


少し険しい顔になった麗叶さんに無言で頷く。


「……まず、そなたの周囲は調べさせてもらって、監視も付けさせてもらった」


「はい」


予想はしていた。

麗叶さんは天代宮だから、人間界での出来事を知るのは容易いだろう。


「そなたがここへ来てからの事だが……しばらくは、関心がなかったようだ」


「……」


「3日が経った頃、両親はそなたの身を案じ始めておったのだが、探すにはいたっていないようだ」


「今は……?」


「……普通に生活しておる」


やっぱりね……

まぁ、忘れられていないだけよかった。


美緒()は?」


「……」


麗叶さんが何も言わないところを見ると、私がいなくなって心配するどころか喜んでいるのだろう。

……いや、その程度ならまだましなのかもしれない。


「……私が、人間界に行くことは出来ますか?」


「もちろん出来るが……言いたくはないが、あの家族に会うのならば我は気が進まぬぞ?」


「その、家族に会っておきたいというのも、無くはないんですけど……学校に行きたくて」


「学校?」


「はい……」


私は学校、特に今通っている高校が好きだった。……小学校と中学校はあんまり好きじゃなかったけどね。

高校でも友達はいなかったけど、皆で一緒に勉強したり、運動したりするのは家で蓄積された孤独を紛らわせてくれたし、小中と違って、先生や同級生に何かされるということはなかった。


そして私は“学ぶ”ことが好きなのだ。

学ぶことは誰にも邪魔されず、自分のしたいように出来たし、自分の成長を感じさせてくれる数少ない行為だった。

その結果というべきか、テストでの私の総合順位は常に学年の上位3人に入る成績だった。

家ではお母さんが『美緒が自分の成績を気にして傷ついちゃったらどうするの』と言うから、成績を見せなくなってしまったけど、自分が成長していると感じると普段は感じることが出来ない充足感を感じられた。


……先生達は美緒が神族の半身であることを知っているはずなのに『学校からご家族に話をしましょうか?』と何度も気遣ってくれた。私を見れば私が美緒や朋夜の不興を買っていて、不興を招くということがどのような結果を招くのか分かるだろうに。

自分達まで被害を被るかもいれないのに、先生方は私を気遣ってくれていた。

それに、話をする友達はいなかったけど、クラスメイト達は優しい子が多くかった。

私が暗くてと火傷があるという雰囲気から、積極的には関わってはこなかったけど、風邪を引いて休んでしまった時にノートのコピーをくれたり、グループ学習の時に私を誘ってくれたりした。


……私が本当に麗叶さんの半身だったら勉強する必要はなくなってしまうかも知れないけど、知っていて損になることなんてないし、大学は無理でも高校くらいは卒業しておきたい。


「だめ、ですか?」


「……そなたが行きたいのならば否やは言わん。しかし、ここから通い、誰か供を付けていくことを条件にさせてくれ。……我が付いていっても良いぞ?」


「れ、麗叶さんが!?」


「あぁ、下で何があるか分からんのだ。愛しい者について行きたいと思うのは当然であろう?」


「……麗叶さんはお忙しいと思うので、桃さんか葵さんにお願いします」


「……そうか」


麗叶さん、残念そう?

もしかして、学校に興味があったのかな。


行かせてもらえそうでよかったけど、“供”か……

私を気遣ってくれるのは嬉しいし、気の知れた人が側にいてくれるというのは安心だけど……普通の人間(生徒)には“供”なんていない。学校側が許可してくれるかな……


「さて、準備は早い方が良いだろう。……笠井(かさい)に我の半身が見つかったことと、学校は続けることを報せておくか……」


「…………笠井って、総理大臣の?」


「ん? 確かそんな役だったな。下で好ましくない政策を進めようといている時などに啓発するのだ。時たま招かれることもあるな」


「そ、そうですか」


……麗叶さんが個人として認識していそうで笠井(・・)という名字、『もしかして』って思ったけど、当たっていたなんて。

……そういえば、前に東北地方の森林を切り開いて住居不足を解消しようという大規模な政策が進められていたけど、急に取り止めになったことがあったな……莫大な予算がかかるけど、大きな問題はなく今後のためにも必要だと言われていた計画だったから何故だろうと思っていたけど、もしかして──……ん? 総理大臣に私のことを報告するって言ってた?


「……私のこと、報告するんですか?」


わざわざ総理大臣に一国民、一学生の私のことを?


「咲空が嫌ならば秘してやりたいが……来月そやつと会わねばならぬのだ。渡さねばならぬものがあってな……その時に会えば、我の変化に気付かれるだろう」


「そうですか……」


ならば早めに報告した方が良いだろう。


「咲空はいつから通いたい?」


「……できるだけ早めがいいです」


長く休めば休む程に戻り難くなってしまうし、勉強にも遅れてしまう。


「では二日程待ってくれ。それまでに準備を整えよう」


「! ありがとうございます」


「咲空が喜んでくれてよかった」









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