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語るに響く  作者: 誰彼凪
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誰もうまく笑わない

こんにちは。誰彼凪[いつびなぎ]です。

三話目までで引き込めなければ僕の負けだと思ってます。

お付き合いください。

よろしければ応援お願いします。




俺は、父の顔を見たことがない。


そもそも幼少期は『父親』の存在すら知らなかった。

父について知っている事もほとんどない。


ただ、興味がなかった訳でもない。

もちろん気になって母に聞いたことだってある。


俺だって欲しかったんだ。

もう片方の手を繋げる存在が。


でも、母は聞く度聞く度に悲しい顔をする。


親戚の人だってそうやって誤魔化すばかりで、話が進まないんだ。

だからもう、聞くのを止めた。


知らなくても生きていけるなんて言うのははもちろんそうだし、

今の高校生活がとびきり幸せなもので正直興味が薄れているからだ。


それに…


もし知ってしまったら、

誰も上手く笑えなくなる気がするんだ。


どことなく、でも確かにそう思う。

そうなるぐらいなら、、、













『ハル、起きろ。』


馴染みのある声がする。

どうやら俺、『相生 晴』は教室の自分の机に突っ伏していたらしい。

重たいまぶたを持ち上げて、顔を声の方へ向けた。

そこには俺を見るいつもの2人の姿があった。


『寝てた…?』


心で思う暇もなく、疑問が口から出る。

それに答えるのはさっきの声の主、

俺の幼馴染『新田 聡太』だ。


『おう。てかヤバイなお前。』


椅子にまたがるように反対に座ったまま、煽るように笑いかけてくる。

メガネとキリッとした目が隠れるほどの長髪という、

この男が放った言葉の意味が一瞬分からなかった。

聡太が時計を指差すので、流れるように時計に目を移す。


現在4時ちょうど。


寝始めたのは確か1時間目の授業である。


『…起こせよー。もうー。』


最悪だ。

学校を学校で寝過ごすという意味が分からない日本語がここに成立してしまった。

だいたいずっと寝てるとか恥ずかしすぎる。


気持ちのやり場のない俺は、理不尽だと解りつつも2人を軽めに睨んだ。

さっきから黙っていたもう1人が口を開く。


『起こしたんだけどだいぶ死んでたよ。ハルくん。』


俺の事を『ハルくん』と呼ぶこの女子は、クラスのマドンナであり2人目の幼馴染『田淵 優』だ。

誰に対しても距離感を感じさせない佇まい、怒った所を誰も見たことが無いほど優しい人格だ。

ショートの髪型で片耳をかけ、教室の中に入る夕暮れの日差しより10倍は眩しい笑顔で語りかけてくる。


『それに、物凄い安眠してたしさー。』

『先生も無視してたよなー。』


完全に他人事である。


『そうはいっても…

今日が期限の提出物あっただろ?

あれ出さないとまた母さんに叱られるんだよ…』


もはや心に余裕が無い。

もう対処に躍起にならず、諦めてただ後悔や自責の念に駆られた。


『あ、私相生の出してあげたよ。』

『…今、なんて?』

『だから、提出物なら私がハルくんのカバンから出して先生に提出したって。』


神です。

どうやら私の幼馴染は神だったようです。道理で人間離れした顔の整い方してると思いました。


『マジありがとう!助かったわ!』

『1つ貸しだからねー!』


急に元気が出てきた。勢い余って席から立つぐらい。

今ならなんでも出来る気がする。

てなわけで地球温暖化止めてくるわ、

と言わんばかりに教室からカバンを持って出ようとした。

と、その時後ろから、


『あ、ハル。お前の部活の顧問が呼んでたぞ。

今日のお前の事で話があるんだってさ。』


そう聞こえた時、

北極なんて無くなれと本気で思ってしまった。






今日の寝過ごし事件について顧問にこっぴどく叱られた後に、

打ち上げられたフグみたいな顔の様相で職員室から出ると馴染みのある顔があった。

申し訳無さが少し込み上がりながら俺は口を開く。


『…待った?』


その人物は俺に気付くと、掲示板を一瞥していた顔からこっちを見て少しだけ口角を上げて言う。


『そうだね…15分以上30分未満でここに留まっていた事を待つというのなら、待ったかもね。』


そう言いながら寄りかかっていた壁から離れた。

彼女は俺の三人目の幼馴染であり、ハイスペjkの『最上 咲』である。

容姿、学力、運動、何をとっても不足はない。


『外で2人とも待ってるよ。ハル。』

『あー、マジか、、、今日は幼馴染全員に迷惑かけまくりだな。』


肩身が狭い、、、


『いいよ。親友の関係と言うのは無償の愛の上にあるからね。』


そのまま何事もなかったかのように二人が待つ校門へ向い歩き始めた咲に、少し頼もしさを感じてその背を追った。



俺の家は、高校から歩いて約三十分の場所にある。

高校の周りはそれなりに建物があり、形容するなら『エセ都会』であるが、家に近づくにつれ畑と山しかなくなる。

家の周辺にはポツポツと住宅があり、それらが山に添うように乱立していて山の上には少し大きめの施設がある。

優や咲、聡太たちは父や母についてきてその施設で暮らしているんだとか。

遊び場が少ないので、幼い頃に近所に一つしかない公園にて知り合い、そのまま今に至ったのは必然だろう。

毎日肩を並べて下校するぐらいには仲がいい。


今も三人は隣で俺をイジってる。


『それで、そのまま待ってたらハルが打ち上げられたフグみたいな顔して出てきたんだ笑。』

『よっぽど絞られたんだな笑!な!アイオフグ!』

『その名前のフグ普通にいそう笑』

『天敵に遭遇したら膨らむんじゃなくて、くしゃくしゃにしぼむんだろ笑!?』

『もう勘弁してくれ、、、』


隣で三人共めちゃくちゃ爆笑してる。

怒られたばかりで全く気分が上がらないのに、

ちょっと面白くて笑いそうになった自分が憎い。

たまらず口を開く。


『もう15分は俺をイジってるだろ、、、飽きないのかよ?』

『怒った怒った!!やめとけよしぼんじゃうぜ!!??』


また爆笑してる。てか俺も笑ってしまった。

流石にこれ以上ほっとく訳にも行かないし、

仕方ない、奥の手だ。



『てか来週テストじゃね?』



俺と咲以外の顔が打ち上げられたフグになった。


『ちょ、やめろよ、、、』

『ハルくん。だめだよその話は、、、』

『確か「期末」テストだったね。』


咲がニコニコしながら追撃をかけてくれた。


『やめろって、、、』


この時優に至っては2000万年前のフグの化石になっていた。


『全く。こうなるのは分かっていて尚勉強しない事が理解し難いよ。』

『ほんとだな!』

『うん?君も毎回赤点ギリギリじゃないかな。』

『ほんとだな!泣』


咲はクスリと笑った。


しばらくして優たちと別れ、帰路につく。

そうしてやっと家にたどり着いた途端、気づいた。

しまった。鍵を忘れていた。


せっかく家に帰り着いたのに入れない以上、引き続き外で夏の日差しに当てられ続けるほかない。

ただでさえ気分は上がらないのに、これではますます下がる一方だ。


『マジか、、、』


しばらく窓や裏口を探ったあと、

諦めて家の前の段差に腰を下ろす。

ただなんとなくため息をして目線をどこに置くか考えていると、後ろから鍵の開く音がした。

振り返ると、今日は仕事のはずの母がドアを半分ぐらい開けて覗き込んでいる。


『おかえり。』

『あれ、今日仕事は?』

『急に休みになったのよ。』


そうだったのか。珍しいな。なんにせよ助かった。

これからこの二階建ての家の玄関で2時間耐久しないといけないところだったので、安堵の表情と共に家に入る。


家の明かりがついてから気付いたが、外はだいぶ暗くなっていた。


風呂を済ませ食卓に座り、母の十八番、ハンバーグに手を付け始める。

デミグラスソースをかけ、箸でつまみ、ご飯と一緒に口へ運び、、、

色々考えながら食事をしていると、ふと今日の昼の事を思い出した。


なんとも奇妙な夢だった。

父についてどうとか、誰も笑えないとか。

確かに今も、父のことや事件の事は気になっている。

恐らく、かなり凶悪な事に父や母が巻き込まれていたのもわかる。

だが、夢にまで出てくるとは、、


そう思いながら、ふとテレビを見ている母を見る。

父が惚れたのも納得の行く横顔だ。

そういえば、俺も悪くない顔をしているらしく、まあまあモテる方である。

なので母にもらった顔なのかと思っていたら、父似だと言われたことがある。


よくわからないけど、多分。


いや、きっとお似合いだっただろうな。


『何よ。』

『なんでもない。』

『もしかして母さんの事好き?』


気が変わった。やっぱり気持ち悪い。父も変な趣味を持っていたんだな。


と思ったのが顔に出たらしく、ほんのちょっとだけ機嫌を損ねた。

バツが悪いのでそのまま一気に食べ終わり、コンビニへ行く。

一番近いところで往復20分かかるので帰れば機嫌も治ってるだろう。


ジャージだけ寝間着の上に着て、自転車にまたがる。

夜空がとてもきれいだった。ペダルが少し軽く感じた。

そのまま夜景を見ながら進む。

色々考えながら坂道を下る。

気づけば五分が経っていた。


、、、あれ。

そういえば、かなり前に聡太に送ったラインが返ってきていなかった。

いつもは秒で返信が来るのに。


何かあったんだろうか。


帰ったら返信が来ているだろうか。


と、次に思考を巡らせようとした瞬間。

突然山の上の施設から閃光が走った。


『、、は!?』


爆発音が響いた。

今まで真っ暗だった施設は、一瞬で赤く照らされていた。

よく聞けば、小刻みな破裂音もしている。


しばらくわけが分からず、呆然としていた。


そして急に正気に戻される。


『、、!あいつらは?!』


そうだ。あの施設には田淵たちがいる。

今頃火に巻かれているのでは?それ以前に爆発で吹き飛んだのでは?


とにかく戻ろう。


考えるより前に漕ぎ出した足は、かすかに震えている。

無事でいてくれとただ願いながら進んだ。


まず家に寄って携帯を取り、母さんの安否と行動を確認する。

それからはその時考えよう。


施設に行ってもなにか出来る訳じゃない。

でも田淵たちの安否は知りたい。

と考えていたらもう目の前だ。

自転車を乗り捨てて庭に入る。


どうやら火の気配はないようだ。


と、

少し安心しそうになっていたその時。

正面の大きい窓が割れている事に気づいた。


『、、、!』


不安に駆られ、心が潰されそうになりながら家に入る。


『母さん!?母さん!!』


土足で窓から踏み込んだ。

ガラスが潰される音がする。

一階には誰もいないようだ。


この窓の割れ方。他の窓が割れていないことや、散乱しているのが窓の破片だけでなく家具や電球までもなことから、少なくともあの爆発による直接的な破壊ではないことは分かる。


となると、、、


そのままリビングを通り抜ける。

突如上から物音がした。


『、、、母さん!?』


すぐそこにある階段を覗き込む。


人影があった。


その人影は座ったまま不自然に揺れている。

こちらの言葉に応じるともなく

ただ揺れている。

あれは、母さんではない。

おそらく割れた窓に少なからず関係している奴だろう。

そう思ったとき、その人影の先にもなにかあることに気づく。


それは、赤色をしていた。


それは、人だった。


それは、



『母さん!!!!!!!!!』



思わず叫び、その人影へ突進していく。


その人影が振り向いた。


俺は殴り飛ばしてやると拳を握った。


だが、

それは人ではなかった。









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