第八話 オークの森へ殴り込め
アストロ参入から二時間後。俺達は今オークの森でレベリングをしている。
ちなみに戦闘を始める前のパーティーみんなのレベルは、小さい順で俺が1、エミリーが16、ジンが53、そしてアストロがまさかの65だった。
信じられるか?これ自己申請じゃなくて、女神情報だから確実なんだぜ。
ストロングドラゴンをタメではっ倒したレベルMAXの王様をベッドに強制送還するレベル65(王女)とか、意味不明すぎて笑えてくるわ。
「レベルが、レベルが上がるっ!!」
「ちょ、エミリーさん落ち着いてください!ああ、また1人で突っ込んで……」
「まあ今の彼女なら大丈夫でしょう。私達もついてますし」
「五体倒せば一レベル!!!」
そしてエミリーがレベ上げ中毒になってしまった。
まあ気持ちは分かるけど、俺の敵までぶち抜くのは勘弁してくれ。
『千弥さん、南東にまた大きな群れがいますがどうしますか?』
「おーいエミリー。向こうにでかい群れがいるんだが、どうする?」
「突っ込む」
『「ですよね〜」』
普段はキラキラしてるおっきなお目目がギラッギラしてるもん。
ついさっきまでの、ちょっとしたドッキリでビビり散らかしてた純粋なエミリーはどこ行った?
「あ〜、すみませんアストロさん。また魔力をいただけませんか?」
「いいですよ〜。【魔力譲渡】」
ほら、普通ならこんな短時間で魔力切れなんてしないジンが2回目の魔力補給を受けてるし。
そして後衛の仕事をこなしながら本業の魔法使いに2回も魔力補給してピンピンしてるお前はなんなんだよ。
「センヤ!向こうだよね!ボク先に行ってていい!?」
「いいぞー」
「ヒャッハー!!」
ヒャッハー???
◇◇◇
エミリーが別のオークの群れへ突撃していった後。
補助役としてエミリーに付き添っていったジンを抜いた残りのパーティーメンバー、千弥とアストロは周辺にちらほらうろついているはぐれオークを狩っていた。
(女神様、話が違います)
僧侶アストロ、もとい王女アメリア視線の先では、まだレベル1桁であるはずの勇者がレベル30はありそうなオーク数匹に対し、国に支給された木剣一本で互角以上に渡り合っている。
特別な力を使っている様子もなく、だ。
(勇者様は元々戦い慣れしていない一般人……どこがですか?)
召喚方法を伝授された際に女神によって告げられたその情報と今現在の状況が、完全に矛盾していた。
そもそも、何故格上を複数相手にして互角以上に立ち回れるのか。
千弥の戦闘スタイルは、なにも革新的なものではない。
敵の動きを先読みし、全て回避しながら急所に攻撃を叩き込む。
文字に表すと難しそうだが、アメリアも実戦で似たような事をしているし、この世界での戦い方としては至極オーソドックスなものだ。
問題は、その質である。
類い稀な戦闘センスを持つアメリアには分かる。
彼の動きは、その全てが理論値レベルまで洗練されているのだ。
それも何か補助魔法を使っている様子はないため、あの挙動は千弥自身が保有している技能という事になる。
しかし、それなら千弥はどれだけの戦場を乗り越えてきたのだろうか。
少なくとも自分があの境地に到達するには、休みなく鍛錬を重ねたとしても果てしない月日がかかるだろう。
「お、もうレベル10か」
(これ、私が来た意味ありましたかね?)
アメリアは今回、戦闘初心者だという勇者の補助をするために、強い思いで親の反対を押し切りこのパーティーに参加した。
しかし蓋を開けてみれば、やって来たのはどう見ても戦闘経験豊富で下手すると己よりも強そうな千弥である。
アメリアは自分のお節介が盛大に空ぶったことを悟り、少しだけ肩を落としながらも引き続き千弥に支援バフをかけるのであった。
【悲報】勇者パーティーの唯一の良心がキャラ崩壊