第五話 世界一の親子喧嘩
あっぶねぇ!なんとか間に合った!
金色のポニーテール。そして両サイドに伸びる長い耳と涙を浮かべた大きな翡翠色の目。
そして何よりついさっきパーティーから追い出されていた。
間違いなくこの女性がエミリーだ。
「えっと、どちら様ですか?」
「おっと、失礼しました。俺の名前は千弥、一応勇者やってます」
「へ?ゆ、勇者?」
「はい、勇者です」
エミリーの背後にあるテーブルで、真昼間から酒を酌み交わしていた中年男達が生暖かい目を向けてくる。
おい何が『俺達もあんな時期があったよなぁ』だ。こっちも自分で勇者って名乗るの恥ずいんだからな。
「勇者って、あの勇者?」
「はいあの勇者です。証明書見ます?」
「……ホントだ」
「でしょ?」
ハッハァ!ザマァ見ろおっちゃん達ぃ!
俺はモノホンの勇者様だぞ?早く貢ぎ物でも……っておい、憲兵呼ぶのは止めろ。いや詐欺じゃねーから。
「でも、ボクまだレベル16くらいだか…ですし」
「大丈夫、俺のレベルはまだ1だから」
「いや、そうじゃなくて。エルフって成長……人間で言うとレベルアップするのに凄く時間がかかるんです。去年も2つしかレベル上がりませんでしたし…」
「あ~そう。それなんですけど」
ちょっと名前借りるぞ。
『そういう事ならいいですよ』
「エルフって、勇者とパーティー組むと必要経験値量が大幅に少なくなる、つまり俺ら人間と同じ早さでレベルアップできるようになるんですよ。女神様が仰っていたので確実です」
「……ヴォエァ?」
なんて?
◇◇◇
狩人 の エミリー が なかま に なった
「という事で、よろしくお願いしますエミリーさん」
「こちらこそよろしくお願いします」
取り敢えず仲間第一号は無事確保。
あと、本当に呼ばれて来た憲兵は身分証明書を見せるだけで帰ってくれた。ついでにあのおっちゃん達も憲兵と話している間にいつの間にか居なくなっていた。
二度とその酔っぱらった面みせんなよ。ペッ!
「ところで、今ボクたちは何処に向かっているんですか?」
「どこって、王城ですよ」
「えっ」
え?何この初めて聞いたよ!?みたいなリアクション。
『実際エミリーさんは初めて聞きましたからね』
あれ、言ってなかったっけ?あ、確かに伝えた覚えねぇや。
「これから貴女も王城で生活する事になるんですよ。まあこの街にいる間だけですけどね」
「はいぃ!?」
「嫌ですか?」
「いえ、嫌ってわけではないんですけど…いいんですか?」
「だってこれから貴女は勇者の仲間になるんですよ?宝物庫とか以外なら自由に出入り出来るようになると思います。あとほら、そろそろ敬語もやめてください。仲間になるんですから」
正直敬語使うの面倒になってきたから、それっぽい理由でため口に戻したい。
やっぱりなれない事はするもんじゃないよね。
「…わかった。でもそれならキミも敬語は止めてよ?」
「当たり前だろ?あと王城に着いたら、お手伝いさんに今泊ってる宿の場所を教えておけよ。荷物を取り寄せてもらえるから」
「うわぁ、やっぱり上流階級は違うなぁ」
いやいや、こんなことで驚いてたら身が持たねぇぞ。
この国の侍従達は何なら何まで手伝うからな。
ちなみに俺が一番驚いたのは、本のページをめくる手伝いをされたことだ。流石に断ったけど。
◇◇◇
同刻
ログナント王国、その王城の地下演習場にて、壮絶な親子喧嘩が行われていた。
「絶対に行かせんぞぉ!」
「なぜ分かってくださらないのですかお父様ぁ!」
王女アメリアの放つ連撃を、俊敏な動きで掻い潜りつつ国王アーサーは実子の首筋へ手刀を叩きつけ昏倒させようとする。
それを左手の平で弾き、アメリアは大きく後ろへ飛び退いた。
「私は勇者様の精鋭部隊に加わる許可を頂きたいだけなのです!」
「それがならんと言っておるのだ!」
「何故ですか!?」
『コイツマジか』という風な表情を浮かべたアーサーは、一度深呼吸をし肺を膨らませ叫ぶ。
「魔王軍幹部を打ちのめすような王女など、絶対に嫁の貰い手が居なくなるであろうが!今でさえ危ういことを自覚しろたわけぇ!」
「っ!そこまでいいますか!お父様のお体を思い手加減しておりましたが、どうやら不要であったようですね!全力で行きますよ!お父様!!」
「娘に手加減されるほど、儂はまだ落ちぶれておらんわぁ!!」
「「『限界突破・極』!!!」」
黄金の衣を纏い、腰に佩いていた木剣を金色に光り輝く片手剣に変化させた両者は、一瞬の間を置き激突——!
演習場の床を大きく抉り、すぐ上にある城に推定震度5の揺れを加えながらもその戦いは更に加速していく。
同じ境地へたどり着いた親子の世界最高レベルのガチンコバトルが今、第二ラウンドを迎えた。
ちなみにこの戦いは第3ラウンドもあって、具体的には魔法の翼を広げて三次元機動しながらぶつかり合います。