第二話 自業自得の縋りつき
「……見慣れた天井だ」
独特な薬品の匂いが微かに香る王城の個室。
かつて召喚された直後に気絶した俺が運び込まれたその場所で、俺はまた目を覚ました。
寝転がったまま顔だけ動かして周りを見回すと、俺が寝ているベッドの側に黙って読書している若い女性がいる。
彼女の名前はアメリア・ログナント・シャルテリーシア。
俺を異世界に召喚した張本人で、このログナント王国の第一王女だ。
「もう確定じゃねぇか」
この場所、この人物、そしてこのシチュエーション……信じたくなかったが、やはり召喚された直後まで時間が戻されてしまったらしい。
「また最初からかよぉ……」
「あ、おはようございます」
ぶつくさ小声で文句を垂れ流しながらゆっくり起き上がると、本を閉じた王女が話しかけてきた。
「お体に何か違和感はありませんか?」
「えっと……大丈夫ですね」
「それは良かったです。では私についてきてください」
「分かりました」
王女の後ろに続き、見慣れた王城内を歩いていく。
……さてどうしよう。
まずまたリセットが起きた原因だが、十中八九女神の仕業だろう。リセットする直前に『どうやるんだっけ?』とか『あっ』とか聞こえてきたし。
『すみませんでしたぁ!』
ん“ん”っ!?
「どうしましたか?急に立ち止まられましたが」
「……いえ、この絵綺麗だなって思ったので」
咄嗟に近くの壁に掛けられていた絵を指差し、動揺を誤魔化す。
「ああ、それは『奇跡の夜空』という五百年以上前の高名な画家が描いた絵画です。この巨大な流星は最近まで誇張表現だと言われていたのですが、近年では本当にあった出来事なのではないかという説が――」
あっぶねぇなんとか誤魔化せた……それで、女神様ですか?
『はい、私です。この度は本当に申し訳ございませんでした……』
ちょ、ちょっと待ってください。その前になんで貴女の声が頭の中に聞こえてくるんですか?
『私テレパシーできるんです。あと私に敬語とか使わなくていいですよ。千弥さんには凄いご迷惑をお掛けしていますし、私あまりそういうの気にしませんので」
そ、そうですか、なら遠慮なく……それで、何か釈明ある?
『……一応、マニュアル通り送還の手続きは出来てたんです。念のため再確認しましたが、私の操作に間違いはありませんでした」
なるほどなるほど。
『ただ確定ボタンを押す瞬間に、急に変なウィンドウが被さってきたというか……きっとこれは邪神の陰謀に違いありません!』
そうか。じゃあ今から邪神倒しに行くわ。
『ごめんなさい冗談です。本当にそれだけは勘弁してください』
冗談だ冗談。マジトーンになるなよ。
あとさ……今の段階でも日本に帰らせてくれるのか?
『いやまあ、出来ないことはないです。でもまあ……できれば、魔王さん達の問題を解決していって欲しいなぁって』
やっぱそうなるかぁ。もしそれをしないって言ったらどうなる?
『いや別に脅迫とはするつもりないので、普通に日本へ送りますけど……魔王陣営とこちら陣営の仲を取り持つだけでいいのでどうか!!ワールドリセットを使っちゃったので今あまり神力に余裕が無いんです!千弥さんを送還した上で神託下したりしたら、ちょっとだけ残ってた貯蓄も空になっちゃうんです!』
いやそれは自業自得じゃねぇか。ってか今回は倒さなくていいのか?
『はい。前にも説明した気がしますが、魔王軍が侵略してきていたのは邪神が彼らを全員洗脳したからです。なので、邪神が消えた今なら普通に話し合いで解決できると思いますよ。それに勇者様が魔族を説得したって事にすれば、民衆も納得するでしょうしね』
なるほどネームパワーって奴か。うーん……まあその位ならやってやるさ。
最後にこの世界を観光するってのも悪くない。
『ありがとうございます!あ、でももしかしたら戦うことになるかもしれないので、その時は頑張ってください!』
まあ戦う事自体は慣れてるし。
「——という事で南の山の大きな窪みがこの流星が落ちた跡であると……聞いてます?」
「もちろんです。興味深い話ですね」
「そうですよね!ただこの絵についての話はこれだけじゃないんです。この絵をよく観察してみると、周りの流星が全て黄色なのに対してこの大きな流星だけ何故か蒼く描かれている事が分かると思います。勇者様は蒼い流星を見たことはありますか?無いですよね。これについては今も議論されているのですが、特に有力な説は――」
王女がまだ話してた件。そして話はまだ終わらないらしい。どんだけこの絵が好きなんだよ。
昨今の異世界系ライトノベルにおいてドジらない神とか絶滅危惧種レベルですよね。
全能の存在とは一体……?