ティーパーティー・メアリー・スー①
僕は今不思議なことに巻き込まれている。
怖いことと形容した方が良いのかもしれない。
突如として始まった訳の分からないコロシアイ。
殺されかけたかと思えば、助けられていつの間にか僕を殺そうとしていた人の腕が切り落とされて。
血だらけになって。
そして、戦い合った全員で人のいないお店の中にいる。
「なんで俺たちとこいつとお前で仲良く茶会なんてしてんだよ。あぁ? 死神ってのはポン引きの別称だったりすんのか?」
右腕の切断面を割いた服の包帯で止血した遼がファミレス特有のソファのような横長椅子にふんぞり返って愚痴を吐く。
隣に座った竜太は嫌気がさしたように目を細めた。
「くだらないディスはいいからさっさと治してもらえよ。右腕がないとまともに殴ることもできなさそうだし、話し合いと殴り合いはそれからでもいいんでしょ?」
僕たちはあの小日向一という死神か悪魔のような男の誘いで休戦のお茶会をすることになった。
ここは有名なファミレスチェーン。
不思議なことにウェイターや受付は平日の昼間だというのに誰もおらず、電気すらついていなかった。今日が定休日だったりすればその理由にも説明はついただろうが、そんなことを表す張り紙はなかった。
恐らく人が消えたのもクイーンが何かしらの手立てで引き起こした現象なのだろう。
僕がそんなことを考えていると、あの知り合いのような三人組がピリピリしだしていた。
「遼くん、痛そうだし……右腕ないと不便じゃない、かな? 元に戻してもらった方が、お、お得だよ、きっと……」
席に着いたのに岬はまだカバンを肌身離さず膝の上に置いている。
僕は斜めからしか見えないのでそのかばんの手持ちが見えるくらいなのだが、中に何が入っているのか気になった。
「はっ、お得ってだけなら死んだって治療費はかからねぇんだよ。寧ろ俺は死んでた方が良かったね。生きてるのなんていてぇし、うぜぇし、めんどくせぇし! ろくなことないわ!」
キレた遼はそう言って粉チーズの入れ物を左手で小日向の方に向かって投げつけた。岬がビクッと肩を震わせた。
宙に浮く粉チーズの缶。
蓋が開きかけたところで粉チーズはまた『見えない動作』をした小日向の手の中に納まっていた。
「うん……カルボナーラというのも中々……」
小日向はその粉チーズをテーブルの真ん中に置くと、何もなかったようにメニュー表に手を伸ばして我関せずといった態度で見始めた。
粉末が飛び出た様子も、小日向が席を出た様子もないのがやはり全員に言い知れぬ不気味さを与えた。
「ご、ごめんね……でも、僕は二人に、生きててほしかったから……」
岬は遼の荒れようを見てより萎縮してしまい、落ち着かない様子で蚊の鳴くような声で言った。
生きててほしかったから、その言葉にどことなく羨ましさを感じる。
それほど信頼し合った仲だというのにどうして今はこんなにも心の温度がチグハグにかけ離れているのだろうか。
僕には理解しがたい構図だった。
そして、岬の言うには言った言葉を遼は皮肉を込めて一蹴する。
「生きててほしかったから必死に俺を殺しかけた相手にプライドも捨てて頭を垂れましたってか? そんなことして欲しかったわけないだろ!」
ガンッ! と拳がテーブルを震わせる音が空虚な店内に響く。
行き場のない怒りが溢れた遼の顔は悔しそうで、怒っているようで、悲しそうだった。
「……ごめん」
岬は視線を落としてぽつりとそう呟くしかなかった。
先ほどまでの覚悟を決めたような瞳は曇ってしまった。
「岬、こいつに何言っても今は意味ないよ。飲み物でも見に行こう? 電気が通ってなくても水くらいはあるでしょ」
「……うん。ありがとう、竜太くん」
席を立った時の竜太が遼を見る目は冷徹そのもので幻滅なんて『期待があった』素振りすら見せていなかった。
それを受けた遼は精いっぱいの強がりに顔を背けた。
岬は心配した様子で遼の方を見たが、躊躇いつつも竜太の方にとぼとぼと付いて行ってしまった。
「何で俺は……ッ!」
読了ありがとうございます。
もし面白いと思ってくださったら、感想を書いてくださると作者がとても喜んで小躍りします。
友情故のすれ違いってのがまたもどかしいなぁって感じです。
遼は岬が好き(ライク)岬も遼が好き(ライク)竜太と遼はお互いを信頼しながら敵視してます(ライバル)
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