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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友情ってなんだろう

作者: 文芸まん

初めての投稿でドキドキしています。宜しければご意見ください。

あれ、真っ暗だ。死ぬ直前、色々な事を思い出す。



幼稚園で僕は周りと違うことを知った。みんなは喋って、掛け声を出せるけど僕には出来ない。なんで?って聞かれても声に出せないのだからしょうがない。代わりに先生が説明するけど、みんなわかってないみたい。声、の代わりに手話というのがあると聞いたのは小学校に入る4日前。まだ文字を書けなかった僕にとってそれは、手から翼が生えたみたいだった。1日に何回も難しい本を読んで、季節が変わる頃には日常レベルで問題ないくらいには手話を使えた。でもだめだった。

小学生の時からいじめを受けた。当然だ、周りと違うんだから。それに小柄で弱そうだったから。みんなと喋れない分、ほかにやることがなくて勉強だけは真面目にやった。それもいじめの対象になった。

初めていじめを好きになれたのは中学2年生の時だ。男の子三人に呼び出されてプールに行ったら水をかけられた。男の子の一人が去り際に、明日金持ってこなかったら殺すからな、と笑顔で言った。ハンカチで拭こうと思ったけど、ズボンのポケットにまで水が染みていた。セミはとうに泣き止み、日が沈むのが早くなったと感じる季節で少し寒かったのを覚えている。

ぶるぶると震え、一人暗い廊下を歩く。窓から溢れる月明かりを頼りに教室に向かう。階段の側で足音が聞こえた。その頃からいじめは慣れていて特に何も感じなかったけど、追い討ちというのは初めてで少しドキドキした。お腹の青あざをなぞり、足音を待った。

階段の上に少女がいた。チューバを両手で抱えて、恐る恐る進んでいるという感じだった。暗くてチューバの反射でしか見えないけど、どこか僕と似ていた。でもそのチューバの頭の部分はただくぼんでいるんじゃなくて、何か出てるように見えた。

でも暗くてよくわからなかった。彼女は僕を見つけると、足の先から頭までくまなく見ていたが驚いてチューバを落としそうになった。何でって、僕の髪の毛についた水が廊下に落ちて音を立てたから。

その落としそうになった楽器をゆっくりと廊下の手すりに立てかけて、ポケットから何かを取り出す。

「はい」

彼女の声はよく聞こえた。静まり返った廊下、いつものトゲトゲしい音じゃなく、柔らかな、人に話すような声だったから。

手のひらを見て不思議そうに僕は首を傾げた。でも暗くて見えなかったと思う。

彼女はややあって、続けて言った。

「これ、ハンカチ。わかる?ハンカチ。あなたの、かみのけ、拭いて」

僕の間がどう捉えられたかはわからないけど、ハンカチだったらしい。学校で、それも大人以外に優しくされたのは初めてだ。

反射的に前屈みになり、ハンカチを受け取る。ハンカチを受け取る前にひっ、と小さな悲鳴をあげたのは多分水滴が廊下に跳ねたからだと信じたい。

さっきより荒げた口調で「返して」と言われた。僕は洗って返そうかと思ったけど、どう伝えればいいかわからなかった。

さっきより長い沈黙。口を開いたのはもちろん彼女。

「もしかして話せないの?わかった、君何組?」

手で1組と表す。

そう、と言い残すと、足音と共に廊下の闇に消えた。家に帰って洗濯機に入れたハンカチは朱色であった。

次に彼女とあったのは1ヶ月経つか経たないかぐらい。今朝やっていた、この近辺で首切り殺人が起きたというニュースの推理を、弁当を食べながらしていると、ドアが開くなり「すいませーん」と結構な大声で彼女が入ってきた。そして目当ての僕を見つけると、僕にしかわからない言葉で

「今日、授業、後、プール」と言った。

授業が終わり、すぐに駆け出した。いじめっ子から逃げるわけじゃない、先生に呼び出されるんじゃない、そのことが僕を嬉しくさせた。プールサイドの近くについたけどまだいなかった。水面が風に揺れて、その周りに小さな波が広がって、コンクリートに当たると霧散する。穏やかな風が頰にあたる。少しだけ汗ばんだ背中に当たったが、あまり冷たくなかった。ズボンから出たワイシャツでパタパタする。

プールと地面との間に隙間があり、プランターが二つ重なった隣に座った。隙間は日陰になっていて、外からはあまり見えなかったが、中には空洞部分が多く、冷たくひんやりとしていた。プランターの縁にはてんとうむしがいて、近くで見たいと思い覗き込んだ。

プランターの中には本があった。表紙には白のキャミソールを着た女性が、体をくねらせ、胸のあたりを強調するように座っていた。右上に、四十路、五十路の大ご奉仕!完熟妻の淫らな痴漢模様という文字が。これは俗にいう、エロ本だ!わかった瞬間、すごくワクワクした。もちろん初めて見たということもあるけど、それ以上に学校で見てるという背徳感からそれ以上をしようとしてしまう。周囲を素早く確認する。誰もいないことを確認して、恐る恐る手を伸ばす。真ん中の膨らんでいる袋とじはさすがに見ないことにする。左端の閉じられてない部分の一枚目を右手の親指と人差し指でつまむ。僕の指はプールに入ったわけでもないのにじんわりと濡れていた。気持ちを落ち着かせるため深呼吸をする。吸う息よりも吐く息を長くする。目を閉じて、お宝を思い浮かべ、一思いに目を開かせる。指に力を込める。いざ、ユートピアへ!

「あっ、いたー」

やっ、やばい。とりあえずプランターを遠くにやろう。と動こうと思ったら膝に当たって、ゴンっと音が鳴った。

「大丈夫?」

彼女の心配の声音は、恐怖の声にしか聞こえなかった。さっきとは別の汗が背中全体にまとわりつく。

あーでもない、こーでもないと考えてる間に彼女は一歩、また一歩と近づいた。

プランターに覆いかぶさったまま隠す手段。あるにはあるんだけど……。

「ねぇ」

な、なに?と手話で伝えた。お腹にエロ本を隠して。彼女が何か思案している間に、急いで着衣を整える。お腹にいる熟女の服は乱れたままだ。幸いなことにブレザーを着ていて、注意深く見なければバレることはないだろうと安心しきっていた。

「お腹膨らんでない?」

凍りついた。さっきまであれほど暑かったのに、今は寒さで凍えている。指を震わせながら、さ、さぁ?と答えた。別段興味がなかったのか、ふーんと言って彼女はプランターの縁を指でなぞった。

いっぱい聞きたいことがあった。でも、最初に言うことはもう決めていた。

満を持して、彼女の肩をつつく。ん?とちょっと錆びた鉄の匂いと共に振り返る。

僕はなるべく丁寧に、指で、僕のお腹は普通です、と言った。それから色々聞いた。彼女の名前は小鳥遊のん。僕と同学年で、1年6組。僕を知ってたのは単に僕が有名人だからだそうだ。手話は前から興味があって、ちょうどいい機会だから図書室で覚えたらしい。

「君ってさ、すっごい細いよね。手とか足とか。それに女の子みたいに髪サラサラだし」

そんなことないよ、と言って僕も彼女を改めてみる。短く切られた髪は綺麗に整えられていて、スカートから覗く足はスラリと伸びている。でも所々制服が汚い気がする。爪には三本の縦線が入っているが、手入れはされている。なんとも不思議な感じだった。

お互いに何か伝えようとした時にちょうどチャイムが鳴った。急いで教室に戻る最中、放課後おんなじ場所にとさっきより上手くなった手話で約束した。

青とオレンジが混じり合った空で、水に映った木とか空とか綺麗だなって思ったら、のんが唐突に立ち上がった。

「もしも私が今日死ぬかもって言ったらどうする?」

僕も死ぬ。即答だった。のんは数度まぼたきをして、はぁと呆れ混じりのため息をついた。

「あのさぁ、自分の命、もっと大切にしたほうがいいよ」

それは君もだよ、と返したら「じゃぁ、うちに来て」と誘われた。まだ知り合って1日も満たないのになんでだろうと思う気にはなれなかった。だって人生初の女子の部屋だよ!そりゃテンションだって上がるよ!!

もちろん、と伝えた。

「後悔するよ」

そっぽを向いて言った声は、風と外野の音でかき消された。

「おいおい、こんなとこいんじゃなねぇーよ、なめてんのか?」

「金寄越せよ、金」

男二人に囲まれて、胸ぐらを掴まれる。なす術なく財布から1万円を抜き取られる。

「ちぇっ、てめぇもっともってこいよ。じゃなきゃぶっころすかんな、あっはっは」

福沢諭吉を二人で奪い合うのを尻目に、プランターの後ろに隠れたのんを見る。のんはプランターからちょこんと顔だけ出した。

「お金、平気なの?」

最近はずっとこうだよと伝えて、胸ポケットから諭吉さんを2枚取り出す。そして一枚を財布に入れる。この二万円は僕の全財産で、これ以上は渡すお金が無くて死ぬだけだ。いつ死んでもいいように、一万円札を食べてみたって動画をユーチューブにアップしよっかな、と現実逃避を始める。

のんはお尻に付いた土をほろい、よいしょの掛け声で立ち上がった。

「じゃぁ行こっか」

手を差し出され、それを掴む。立ち上がる前に、プールの土台のコンクリートにぶつかった。

のんの家は二階建てで、一階はリビング、二階に子供部屋があった。

「ここだよ、入って。私はちょっと電話」

こ、ここが女子の部屋か。なんかむず痒い。ドアから右手に窓があり、その下に勉強机。散乱するように教科書やノートがあった。地面に落ちたノートの延長線上にはCDとスピーカーがあり、スピーカーの下にある曲のタイトルはハダッド。本当にチューバが好きなんだな。今まで気づかなかったけど、足元にはチューバを入れる袋。そして左を見るとピンク色のベットがあった。あそこでのんが寝たりしてるんだ、そう思うと途端に意識してしまう。だって、あのベット。

「ねぇ、なんか食べる?」

ひっ。めっちゃびびった。い、いや、あれだよ。別に邪な考えがあったわけじゃないんだよ。と心の中で言い訳しながら、お構いなくと気丈を振る舞った。

異変を感じたのは彼女と話して30分ぐらい経った後だった。チャイムが鳴っているのにのんは気づく素振りすら見せなかった。二回、三回と鳴り、僕はチャイム鳴ってるよと言ったが、あれはね、と語尾を濁してなかなか話してくれなかった。ドアの叩く音がいよいよ大きくなり始めた時、初めて彼女の目から大粒の涙が溢れた。堰を切るようにのんは秘密を打ち明けた。

「わだしはね、おがねにごまっでたの。それでね、悪いどごろから借りぢゃったの。だからね、ぞのひどたぢなの」

泣いた顔が可愛いと思った。子供のような話し方が可愛いと思った。何より、初めて優しくしてくれた女の子を可愛いと思った。だから、だから。

のんの肩を揺すって、目の前に指を置いた。君を守る。と伝えた頃にはもう覚悟は決まっていた。

ドアの音は、半濁音から濁音に変わっていて、最後に聞いたのはどんと倒れた音だった。

「おらぁ、なめてんじゃねぇーぞ」

ドスの効いた声が部屋いっぱいに充満した。すぐにドアに内鍵をかけたが、音で、この家に人がいることを知られたことに後悔した。

行くよ。声には出来ない、でも伝えられる。

「行くってどこに」

大空。

急いで窓の鍵を開ける。チューバの袋に足跡が残る。でも今は緊急事態だから、あとで謝るから。

彼女の手を引き、大空へ飛び立った。

茜色に染まる空はすごく離れていて、高さが1メートルだろうが、2メートルだろうが、景色が変わらないことを今知った。柿の木に落ちて、落下速度を抑えた。走って。片腕で必死に伝えた。のんは黙って頷くと、僕の左手をぎゅっと握った。

僕たちは走った。どこまでも、どこまでも。目的地は空港。僕のお金で逃げよう。休んでる途中、必死の形相で伝えた。その度に涙しながら、うんうんと頷いた。

空港に着く頃には夜はとっくに過ぎて、朝になっていた。休む間も惜しんで、10時間以上握っていた二人の手でチケットを買った。フライトまでは後1時間。目的地はソウル。ギリギリ二万円で行けるところだ。のんはトイレに行くと行って、僕の分を含めた2枚のチケットを持っていった。はぁ、疲れた。多分10時間以上は走っただろう。もうクタクタで飛行機の中ではずっと寝ている気がする。でものんの手は離さないでいようと思った。

「ゴラァァ」

身長2メートルは優にある筋肉ダルマみたいな男が大声で奇声をあげた。その声はつい昨日聞いたもので、今一番聞きたくなかった声だ。僕はもう動けない。イスに座ったまま、せめてもの報いで顔を伏せた。

「オイ、てめぇ小鳥遊の連れだな?覚悟決めろや」

一瞬にして視界が白くなった。殴られた頬は熱湯をかけたみたいに熱くなった。声の代わりに涙が出た。それと同じくらいに血が出た。

「小鳥遊は、どこにいる?」

首を横に振る。ごほっ。初めて骨が割れる音を聞いた。まるで割り箸の折れたような音がお腹のあたりから聞こえた。口から気泡と胃液と血液が漏れた。

「小鳥遊は?」

何を言うでもなく、喉仏を抑えつけられた。ただでさえ減った酸素がさらに空中へ消える。

首にかかった力が弱まった瞬間、息をいっぱいに吸い込んだ。反動で電子掲示板が見えた。フライトまであと50分。


そのまま殴られ続け気を失った。次に目が覚めた時は、フライト5分前を告げるアナウンスだった。口の中はあったかくて、錆び臭かった。でも唇は乾いていて、舐めようとしたら邪魔するものが何もなくなっていた。

「あにきぃー、こいつもしかして知らないんじゃないですか?」

いつのまにか人が増えていた。何人かはわからない、もう目が見えないから。

「あぁ、そうかもな。おい、あれもってこい」

目ぇ開けろとまぶたらしきものを持ち上げられた。まだ見えた世界は一面赤で、ところどころ白くなっていた。

ガタイのいい男、兄貴はせせら笑った。

「残念だったな、お前、あののんってガキに騙されてんぞ」

何言って、パキッ。目線が空高くに上がった。頭の中はぐちゃぐちゃで、ぐるぐるバットを5分間やったみたいだったけど、のんという単語だけはやけに鮮明に聞こえた。

「おらっ、起きろ、このっ」

腹に衝撃を受ける。もう吐血だけが僕の合図だった。

まぶたを持ち上げられる。目の前には僕の血で染まったチューバがあった。でもそのチューバのくぼみはただのくぼみじゃなくて、人の頭が入っていた。

何故だろう、思い出したくない。そのチューバは見覚えが。よく見ると、今ついたばかりとは思えない黒っぽい色が付着していた。

兄貴は僕の考えが真実だと言わんばかりに大きく頷いた。

「そーだ、それをやったのはあいつだ。まぁ、厳密には殺したのはあいつじゃねぇーがな。金がねーから死体運びやりますだなんてなぁ、がっはっは。なのに初日からしくじりやがってよー。でもよ、目撃者を連れて来れたら借金が半分になるって言ったらよ、簡単に騙されたたぜ。ばかだな、んなぁことあるわけねぇじゃん。

せせら笑いながら、兄貴はナイフを僕に向けた。

「最後に聞くが、小鳥遊の居場所は?」

僕はありったけの力で目を細めた。その瞬間、腹部を新品の紙で切られたように真一文字に切れ、血腫が忘れたように紅の花を咲かせた。ワイシャツが赤く染まる。それを見て思い出した。そうだ、のんにまだ返していないんだった。洗濯して白くなったハンカチは、ポケットの中でまた朱色に染まった。

のんと聞こえた気がして目が覚めた。隣のおばさんは呑気だと言ったらしい。僕はそれほどまでにのんを好きになっていたのか。というか、あれ?なんで生きているんだ?腹部をさすってみる。少し腫れてるようだけど、それだけだ。今すぐ見たいと無理やり体を起こす。激痛が全身に走る。でも水色の服をめくり、僕のお腹を見る。イジメで出来たミミズ腫れ、肋骨の位置がずれている以外に問題はないみたいだ。

その部屋にはテレビがあって、また近くで殺人事件が起きたらしい。テレビを見ようと体の向きを変える。少し遠くに本があった。その本は横に切れ目があって、しかもところどころ赤くなっていた。風がカーテンを揺らす。その本のページもいたずらにめくる。エロ本の袋とじは僕の血でいい感じにモザイクがかかっていた。

お読みいただきありがとうございました!

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