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おねがい!精霊さん  作者: 絶筆ダメ
1章
6/24

1-4 素敵なことと、彼は言う


 「……それでは皆さん、初めてください。」

 薬術の授業、先生の声で私は我にかえる。

 見るとミリィを含め多くの生徒が、薬の入ったガラス瓶を受け取りに教壇に向かっている。

 前のボードの内容に目を遣ると、『解毒薬の調合』とあった。

 「……はい、コレの解毒薬だって。」

 ミリィが取ってきた瓶の中にはいかにも毒々しい紫の液体が入っている。

 本来ならば、まずこの毒薬の成分を調べるのに手間がかかるのだが。

 

 「チーちゃん、ウォルちゃん、コレ何かわかるー?」

 私は首飾りの二人にこっそり声をかける。

 二人は飛び上がって瓶の口の周りを飛び回ると、目の前に戻って答えを告げた。

 

 (コレ、テ、アシ、シビレル)(ノムノ、ダメ)

 

 「ありがとー。飲まないから安心してねー。

  ……痺れ薬だって。えっと、確か成分はね……」

 私は精霊さんたちにお礼を告げると、教科書……ではなく自作の分厚い研究ノートをめくる。

 彼らが全く同じ反応を示した薬を、前に作ったことがあるはずだ。

 

 「これこれ。ドクアザミの実が主成分だねー。

  ……ミリィ、ここに書いてあるのもらってきて。」

 「……りょーかい。」

 

 彼女に解毒薬の材料を取ってきてもらう間に、私は鍋の下にかがんで火を覗き込む。

 少し心配だったが、今日は火の精霊さんを一人見つけられた。

 「よろしくねー。」

 揺れる炎に笑顔で声をかけ、ミリィが戻ってくるのを待った。


 「……お待たせ。これでいい?」

 「ありがとー。あとは、ここに書いてある分量だけ、刻んで煎じればいいかな。」

 「……んー。」

 私たちはナイフを片手に薬草や木の根を刻み始める。

 時折チーちゃんたちが、

 (ソレ、チョット、フルイ、カワイテル)

 などと助言してくれるので、それをミリィに伝え、使う量を多めに修正していく。

 

 刻み終わったら順番通りに鍋に投入するだけだ。

 あらかじめ伝えておけば、火加減はチーちゃん達と火の精霊さんとで常に調整してくれる。

 「えっと、根を入れてから5分……強めの火……と。」

 私は砂時計をひっくり返して一息ついた。

 「……ユーナがいると、楽でいい。」

 「あはは……いつもは助けてもらってるからねー。」


 全ての材料を投入して軽く撹拌を加えると、薬液の色は薄い緑、調合の成功を示す色に変わった。

 私とミリィはそれぞれ出来上がった薬を瓶に流し込んで封をする。

 教室内を見渡すと、調合を終わらせたのは私たちの一組だけ。

 もっと言えば、半数以上の組が毒の分析で脱落し、調合までたどり着けていないようだった。

 隣を見るとエレムが毒を調べ、ニックは完全にお手上げという顔で呆けていた。


 「もう完成したのかい?」

 見回りにきたイェシール先生が、私たちの鍋を覗き込む。

 「うん、素晴らしい。いつもながら見事な出来映えだね。」

 先生はこちらを向いてニッコリと笑みを見せた。

 チーちゃんたちのおかげで、薬術だけはぶっちぎりでトップの成績なのだ。

 

 

 「……そこまでにしましょう!完成した組は瓶詰めして提出してください。

  ……ダメだった組には課題を出すので、各組一人、前に来てください。」

 先生が教室中にそう告げると、あちこちからうめき声が上がった。

 隣の鍋でもニックが、

 「初日から課題多過ぎんだって……」

 と嘆きながら、のろのろと教壇に向かっていた。

 

 「……私も貰いにいこ。」

 ミリィが唐突にそう言い、小走りでニックの後を追いかける。

 この熱心さが、ミリィが優秀たる所以だ。

 ……もっとも、今回は別の理由がありそうだけれどね。


 残された私が道具の後片付けをしていると、横から突然声を描けられた。

 「素晴らしい手際ですね。ユーナさん。」

 「えええっ!……あ、ありがとう……えっと、エレム君。」

 不意をつかれて、変な声が出てしまった。顔が赤くなってないといいけど。

 「見ただけで毒の成分を看破するなど、熟練の薬術師のようでした。

 「見てたの!?あ、あれは……私の場合は、そんなのじゃなくて……」

 言葉に詰まる私を見て、彼は軽く微笑んだ。

 「そういえば、鍋や火に話しかけたりもしてましたが、あれがコツなんでしょうか?」

 私はビクッして彼の顔色を伺う。……嘲笑の色はない。純粋に疑問に思っているようだ。

 「あれは……えっと……何て言えばいいのかな……」


 適当にごまかすことも考えた。

 しかし、これは先の訓練でのことについて尋ねるチャンスではないだろうか?

 そう思った私は勇気を出して口を開き、こう尋ねかけた。


 「……エレム君は、ここに精霊がいる、って言ったら、信じる?」


 言った瞬間に私は俯いて、今の発言を後悔した。またやってしまった。

 きっと彼はきょとんとした顔で、その後笑われるか、馬鹿にされるか……

 恐る恐る見上げると、しかし彼の表情は真面目なものだった。


 「精霊、ですか……僕には何も見えませんが、その精霊のなす技だ、ということですか?」

 私が驚きながら、おずおずと頷こうとした時、怒鳴り声が割り込んでくる。


 「エレム!あんまりその女と喋んなよ!」

 そう言った男子生徒が数人、エレムと私の間に割って入るように立った。

 「変なことしか言わねーんだからよ、コイツ。」

 私は俯いて、ただ時が経つのを待つ。

 「精霊のお話のことでしょうか?……それほど変なことでしょうか。

  大昔には精霊と人が手を取り合って暮らしていた、という話しもありますよ。」

 

 私はこっそり視線を上げてエレムを見る。彼の顔はやはり真剣そのものだ。

 変わった人。私が言うのもなんだけど、そう思えた。

 

 「んなもんおとぎ話だろ!精霊とかなんとか言って、目立ちたいだけなんだよ。」

 「おとぎ話が本当であれば……とても素敵なことではありませんか?」

 

 変わった人。素敵だって。ミリィやニック以外で、初めてそんなこと言われた気がする。


 「妄想女のインチキにひっかかるんじゃ……」

 苛立った様子の男子がそこまで言ったところで、

 「あ!?なんか言ったか?お前ら。」

 戻ってきたニックがドスの利いた声を上げ、男子達を睨みつける。

 「……悪かったって、お前マジで信じてんだったな。」

 当たり前だ、とニックが胸を張ると、呆れた様子で首を振りながら男子達は散っていった。


 私が表立って虐められたりしないのは、クラスの中心にいるニックの存在が大きい。

 彼には本当に感謝している。……改めて口には出さないけれど。

 

 「あの……何か、ごめんね。変な空気にさせちゃって……」

 私はエレムにそう言って、急いで荷物をまとめる。

 「気にしてませんよ。よければ、また、精霊のお話聞かせてください。」

 彼はニッコリと笑顔を見せ、ニックと二人で去ってしまった。

 

 本当に、変わった人。そう思いながら、戻ってきたミリィとともに教室を後にした。


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