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おねがい!精霊さん  作者: 絶筆ダメ
1章
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1-1 新たな出会いの予感?

 「うーん、これでいいかなあ……」

 新学期を迎える朝、私は藍色に染め上げたローブを体に当てて、姿見を覗き込む。

 学園支給の制服も、精霊さんたちが嫌がるため、私はこうして手作りせざるを得ないのだが。

 「んー……ちょっと濃すぎたかも……」

 などと新学期早々不安を抱えながら、私は火の精霊さん、フィーちゃんに火を熾してもらい、簡単な朝食を済ませた。

 

 「それじゃあ、行ってきまーす。」

 チラチラと揺れる暖炉の火に見送られて部屋を出ると、丁度隣の部屋から私の姉、ミリィが姿を現した。

 「……おはよう、ユーナ。」

 「おはよー。」

 彼女はあくびをこらえながら、手櫛でボサボサの赤い髪を整えている。

 ちなみに私の髪は長い深緑、およそ姉妹らしくない似ても似つかぬその色は、私とミリィに血の繋がりが無いことを示している。

 

 「それにしても……うーん、やっぱり……」

 「……どうしたの?」

 「ローブ、ちょっと染めすぎたなって……。」

 「……ああ、大丈夫じゃない?そのくらい。」

 ミリィはそう言ってくれるが、やはりこうして比べてみると違いがはっきりと判るのだった。

 「あーあ、また怒られそう……なんで三年生で制服が変わるんだろう……」

 「……それは三年生で新しく……」

 

 二人で談笑しながら女子寮を出ると、こちらに駆け寄ってくる人影が見えた。

 四角張った顔の男子、私たち二人の幼なじみであるニックだ。

 

 「うーす!お前ら聞いたか!?」

 彼は開口一番にそう尋ねてきた。いつも明るい性格とはいえ、明らかに興奮している。

 「……朝から暑苦しいわね……何?」

 「聞いて驚け!俺らの学年に、編入してくる奴がいるんだってよ!」

 「「……へー。」」


 私たちの淡白な反応に、あからさまに期待はずれという表情のニック。

 

 「お前らなんで驚かないんだよ!

  この国立魔術学園にいきなり三年から編入って、創立初らしいぞ!

  ……しかも俺が聞いたとこ、かなりのイケメンだってさ。」

 顔色の変わらない私たちを見て付け加えられた一言に、ミリィは眉をひそめて冷たく言い放った。

 「ハア…………どうでもいい。」

 「そういうのって、いろいろ尾ひれがくっついてるんじゃないかなー。」

 私がそう言うと、彼はこちらに向き直って、未だ興奮冷めずにまくしたててきた。

 「お前も冷めてんのなー……あ、そいつがお前と同じで精霊が見えるとかさ。」

 「あはは……ナイナイ。」

 その後も熱く話し続けるニックを二人であしらいながら、三人で朝一番の授業の教室へと向かった。


 

 「うーす!お前ら聞いたか!?」

 「おうニック、聞いた聞いた!編入だってな!?」

 「どんなすげえ奴が……」

 教室に入るや否や、ニックは教室の真ん中に集まった男子グループに飛び込んで、早速例の話で盛り上がっている。

 私とミリィは教室の後ろの方、なるべく目立たない席を選んで座ったのだが、

 一人だけ色の濃いローブを着ているのでやはり目についてしまうようで。


 「うわ……『精霊ちゃん』進級できたんだ……」

 「普段は術符もロクに描けないのにね……」

 などといった囁き声が聞こえてきてしまう。

 私は小さくため息を吐き、教科書を開いてぼんやりと眺めていた。

 彼女たちの言うことは事実だ。この教科書の内容にも、私にはもうついていけそうにない。


 「最初から術符の授業か……ヤだよう……」

 私が机に突っ伏すと、隣のミリィが時間割を取り出して一番下のコマを指し示す。

 「……今日の最後は薬術だから、頑張ろう?」

 「えー……お昼終わりに戦闘訓練……何この一日……」

 「……三年生は忙しいから、しょうがない。」

 「うー。」


 そうこうしているうちに時計台の鐘が響き、教室には私が最も苦手としている教師がズカズカと歩み入ってきた。

 ガリア先生……今年は他の人に代わってて欲しかったんだけどな……


 「よお!今年も術符の担当をさせてもらうぞ!……ん?」

 教壇に着いて教室内を見渡した彼に、私は早速目を付けられた。

 「ハッ!お前まだ居やがったのか!何だその服は!自分は特別ですってか?」

 教室内にクスクスと忍び笑いが漏れる。私は何も言わずにただ俯いていた。

 「いいぜ、特別に復習から入ってやる。術符とは何か、簡潔に答えろ!」

 再びクスクス笑いの響く中、心を無にして私は答える。


 「……紙に陣と式を記してから魔力を込めたもので、魔術の発動に使います……」

 

 「やるじゃねえか、一年の最初に習うことだ。

  いいか、術符がない限り魔術は使えん、よーく覚えておくんだな。」

 広がる嘲笑の中、今日何度目だろう、ごく小さなため息がこぼれる。

 「それじゃあ実践だ。お前、実際に「……ふあああぁぁ」

 彼がさらに私に課題を押し付けようとしたところで、隣のミリィの大きなあくびが割って入った。


 「ミランダ!新学期早々俺の授業で腑抜けてんじゃねえか!

  いいぜ、お前だ。発火符に氷結符、閃光符、1分だ!」

 ミランダとはミリィの本名だ。彼女は怒鳴り声にも眉一つ動かさず、細長い紙に文様や文字を気怠げに、だがサラサラと描いてゆく。

 あっという間に三枚の術符を描き終え、それぞれから火花、氷柱、閃光を発して見せた。

 「……フン、上出来だ。授業は真面目に聴くことだな。

  いいか!三年ではかなり複雑な符を扱う!まず手始めはだな……」


 なんとか私から矛先が逸れた……

 その後も授業は続き、私も諦め半分に見よう見まねで符を描いてはみるのだが、やはり何の術も起動させることができないままだった。

 はあ……どうして私だけできないんだろう……

 入学以来何度も繰り返した疑問を浮かべているうちに授業は終わり、教室が騒がしくなる。

 女子も男子も編入生の話題でもちきりのようだ。

 

 「ミリィ、さっきはありがとうねー。」

 「……何のこと?」

 「……何でもない!次歴史だよね、行こ!」

 私たちは連れ立って、盛り上がる教室を後にした。

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