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おねがい!精霊さん  作者: 絶筆ダメ
プロローグ
1/24

0-1 この日が全てのはじまりかも?

 木漏れ日の輝く緑豊かな森の中を、私たち三人は歩いていた。

 獣の住まう危険な森……らしいんだけど、もうすっかり慣れてしまった今では軽いピクニック気分。

 

 「なあ、今日はどこまで行くんだ?」

 先頭を歩くニックが退屈そうに尋ねてきた。


 「うーん、いつもの薪と、それから制服を新調するのに染料の葉が要るから、

  ちょっと奥の方まで行こうかな。」

 「奥?よし!今日こそ出てこい!」

 

 私が答えると、ニックは大剣を振り回しながら騒ぎだす。

 それを見たミリィが、私の後ろでため息をついた。

 「……大声出すのやめなさい、バカ。」

 

 いつも通りの会話を交わしながら歩を進める。

 やがて木々の枝は複雑に絡まりだし、蔓や下草が茂り始めた辺りで、私は二人に声をかけた。

 

 「この辺でいいかなー。二人とも、いつものお願い。」

 そう言って私とミリィは茂みの中に屈み込み、青い汁を出す平べったい葉を集める。

 ニックも大剣を鞘にしまい、するすると木に登ると手斧で木の枝を次々に落としだした。


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 鳥の声も聞こえない静かな森の中で、枝を打つ斧の音だけが響き渡る。

 持ってきた籠は葉で一杯になり、脇には切りそろえられて薪に変わった枝が山と積まれている。

 これくらいでいいよ、と二人に声をかけようとしたそのとき、鋭い叫びが耳を貫いた。


 (アブナイ!)


 「え?どうしたの?」

 私は反射的に、胸元に下げた木の輪の首飾りに目を遣る。

 すると、ごく小さな緑の光が二つ、首飾りから私の目の前に飛び上がり、再び警告を発した。

 

 (ナニカ、クル)


 その声に従って私は周りを見回すが、特に変わったところは見つけられない。

 そんな私の様子を見た二人がそれぞれ素早く剣と弓を構える。


 「どうした!ユーナ?」

 「わかんない……チーちゃん達が、何かの危険が近付いてるって言ってるんだけど。」

 「……!気をつけなさい、二人とも!何か来てるわ!」


 ミリィがつがえた矢の先に目を凝らすと、一瞬、三つの黒い影ー獣のようだーがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 

 「……ハア、あんたの願い通り、出て来たわよ。三匹も。」

 「上等だ!まとめてぶった切ってやらあ!!」

 

 ハア、とまたため息をついたミリィは、ニックと共にスッと私の前に歩み出る。

 

 「多分あれはヴォルフの群れね……ニック!なんとか二匹は足止めしなさい!私が脅して追い払う!」

 「オーケー!逃げなかったら?」

 「逃げると思うけど。……そのときは、ユーナ、いけそう?」

 「うん、ここなら大丈夫!」


 三人で息を詰めて影が見えた方向を見つめる。

 「影」が茂みをかき分けるガサガサという音が次第に大きくなって、そして、低いうなり声とともに姿を現したそれは、私が見たことのないものだった。


 長く黒い体毛に覆われた、四つ足の獣。

 顔の半分を占めるほどの大きな口には鋭い牙がずらりと並び、滴り落ちた唾液からは焦げるような臭いとともに薄い白煙が漂っている。

 私が一歩も動けないでいるうちに、一匹が牙をむき出しに飛びかかってきた。


 「くぅっ……オラッ!こっちだ!」

 大剣を盾にそれを受け止めたニック。大きく振り払って、二匹の獣の前に躍り出た。

 一匹の獣は彼をすり抜けて私を狙おうとする素振りを見せるが、すぐさま彼が切り掛かり、獣の意識を引きつけた。

 残る一匹の前には弓を構えたミリィが立ちふさがる。獣が襲いかかろうとしたその瞬間、足下に一本の矢が突き刺さった。

 

 「グルルル………グガアアッ!!」


 獣は向きを変え大きく飛び上がって距離をとった。

 見ると矢の刺さった周辺の地面から大きく鋭い氷柱が何本も突き出している。

 ミリィは素早く矢をつがえ、矢じりに一枚の紙を結わえ付ける。そして再び獣の足下を射抜いた。

 脇に飛び退いた獣を氷柱が襲う。しかし怯む気配こそ見せるものの、獣はすぐに体勢を整えてまたミリィに食らいつこうとする。


 「おいっ!コイツら逃げる気ねえぞ!ユーナ!?」

 「わ、わかった!もうちょっとだけがんばって!」


 二匹を相手に奮闘を続けるニックを横目に、私は首飾りを目の前に掲げ、恐怖と戦いながら囁くように話しかけた。


 「チーちゃん、ウォルちゃん、お願いっ!」

 

 二つの小さな緑光が、うなづくように揺れ、空に飛び上がった。

 私は必死で頭の中に一つのイメージを象る。

 

 (根っこ……獣を縛る、長い木の根……!)


 二つの光はそれぞれ木の枝に吸い込まれていく。次の瞬間、二本の木の根元がパックリと割れ、太い根が大蛇のように伸び上がった。

 根はそのまましなやかな動きで二人を襲う獣を打ち据え、瞬く間に地面に縫い付けた。

 獣たちは逃れようと暴れるが、締め付ける力が上回るようで、その場でじたばたともがくだけだ。

 私は根が思う通りに動いてくれたと知りつつ、辺りを見回す。


 「どこかに風の精霊さんたち……いた!お願い!力を貸して!」


 私がそう力強く声を上げると、木から飛び出した二つの緑光とともに三つの白い光が新たに私のもとへ近づいてくる。

 それを確かめた私は再び別のイメージに集中した。

 

 (風……花と若葉の、甘い風……!)


 五つの光が煌めき、頭上で回転を始める。

 やがてその軌道は薄桃色のつむじ風を成し、それを見て私は手を獣の方へと挙げる。


 一陣の風が薄暗い森の中を吹き抜けた。

 

 樹木の精霊と、風の精霊の力を借りた魔法、眠りの風。


 辺りには仄かに甘い香りが漂い、風を正面から受けた獣たちは次第に暴れる力を弱め、最後には寝息をたて始めた。




 

 

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