蛍雪の妄想の功
【足切り】迷える仔羊に敗者の烙印を焼きつけ、奈落の底に突き落とす恐ろしい魔物。
(類義語)門前払い、不合格
最後の模試の結果が出た。
足切りのボーダーラインを下回っていた。
ぼんやり読書に逃避していたら3日が過ぎた。
やばいな、と思いつつ、机に向かえない自分。今に始まった事ではない。
対策を練らねば。それも、ワクワクするようなヤツを。
「必死で勉強する姿って良くね?」
馬鹿なことを呟いてみる。
どこかの国の皇太子。貧乏な出自の革命家。赤毛の孤児。
舞台は?たとえば…
帝国の離宮。その執事室。小さな屋根裏部屋。鬼才のアトリエ。風車小屋。尖塔の囚人。森の中。田舎の村。厳しい寮。
自分がなりたいのはどれだろう。
不遇の子供。傾国の姫君。勇猛なる騎士。冷徹な皇帝。冷静な賢者。闊達な老人。心を閉ざした奴隷。素朴な英雄。温かい女将さん。天真爛漫な幼子。制御不能な能力者。絶大なる異端児。深窓の令嬢。風を駆ける草原の民。月の妖精。恐ろしい悪魔。
だめだ、しっくりこない。
その主人公は、なぜ勉強しているのだろう?
きっと何かの目的があるはず。
国を支えるため。家族を守るため。愛する人に近づくため。自身の野望のため。
うーん。共感できない。
何かになりきって、ひたすら勉強する。…良い案だと思ったんだけどなぁ。
学習環境でも変えてみようか?図書館にでも行くか。いや、でもこの時期インフルエンザも怖いしなぁ。何より行くのがだるい。交通の便が不便。なら想像で補うか。…早朝。ログハウス。机。夏。蝉。小川。あ、小川の中に机。天然の足湯じゃなくて、なんだ?
…仕方ない。現実でも見るか。
・試験は年に一度開催される。
・合格点は225/345。足切りは必須問題63/90未満。
・出題範囲は9科目。
・不合格だった暁には、就職先の内定は取り消される。
・従って、卒業後の一年間は浪人となる。
・その際の(とらぬ狸の)損失は300万円ほど。
むーん。
やる気出てきた?……ちょっと。あ、雪降ってきた。
じゃあ、こうしよう。
時は現代。
場所は日本。
主人公は私自身。
目的は自立と人生の謳歌。
今やるべきは、試験勉強。
残り時間は僅か。
合格ラインまでは遙か。
それでも全力でやり切る。
大好きな読書も封印する勢い。
おっと、もちろん、駄文を書くのも封印だ。
神様!仏様!読者様!
勉学の神様と受験の神様!
日本中の戦士たちに祝福を!!