正義の魔王
一週間後って言ったのに大分遅れてしまいました。。。
ぐにゃりと景色が歪んだ。
その瞬間あずろを包んでいた白い光が消え、中世の貴族の部屋のような____あずろの知らない景色が現れる。
そして世界が歪んだ反動とも言うべきかひどい目眩と著しく平衡感覚が狂わされ立ちくらみに襲われる。
「ッ___」
思わず座り込み、目眩と立ちくらみが過ぎ行くのをゆっくり待つ。その時だった。
「大丈夫?」
ふいに後ろから声を掛けられた。声の様子からはこちらを少し警戒しているようだ。やや高くも落ち着きを含んだ声。それは紛れもなく声変わりを迎えてない幼少期の少年の声だった。
男の子?まさか…。
こんなところに?とやや不安を抱きながら振り向く。
そこには、藤色の髪に黄金の瞳の少年が立っていた。
「僕の名前はヒリス。お互いに聞きたいことがあると思うけど、まずは落ち着いてお茶でも飲まないかい?」
ヒリスの言葉にハッとしたあずろは、遅れて入ってきた視界情報に息を呑んだ。
雲の上に乗っているかの様に柔らかい赤い絨毯の床。
チェスの盤面を連想させる市松模様の壁。
部屋中に飾られたアンティーク調の調度品の数々。
ヒリスの横に用意された小さなテーブル。
そして___足元で光輝く幾何学的な模様の陣。
「あぁ。そうだな。」
「さ、かけてかけて。僕は君のことを心から歓迎するよ。__異世界にようこそ」
ヒリスはにやりと頬を緩ませた。
ん?異世界?
あずろの頭は再び混乱の渦に飲み込まれた。
ヒリスの勧められるままに席に着いたあずろはここに来るまでの経緯を説明した。
「ふむ、なるほど。あずろはげーむ?とやらをしていたらここに来ていたと」
「そうゆう事だ。と言ってもここって本当に異世界なんだな、俺最初にきた時誘拐されたかと思ったわー。ま、どっちもありえない話だけどな」
「君って結構辛辣だよね。それとここは正真正銘の別世界だよ。それはさっき僕が散々証明したでしょ…」
ため息混じりに少し憔悴した様子のヒリスは壁にふとめをやる。
見るも無残な調度品達。そして壁に大きく空いた風穴。そして__あずろの頬はっきりと残るビンタの後。
ほんと風穴あけても信じないとか疑深すぎでしょ。最後にダメ元で往復ビンタしたら信じてもらえたけど…。
なかなか信じてもらえないとはいえ少しやり過ぎた…。
「はぁ…」
「おっ?どうした?幸せが逃げていくぞ」
「八割君のせいだけどね」
こほん、とヒリスが咳払いし場の空気を変える。
「次は僕が説明する番だね。まずは自己紹介から。僕の名前はヒリス・テェルベスト。テェルベスト家当主にして、魔族の長。_____この世界では"魔王"なんて呼ばれているね」
魔王。
ゲームや小説でお馴染みのラスボスである。
そんな事ネットに染まったあずろはすぐに理解し、動けなくなる。
「まずは歴史からいこうか____………」
昔々、まだこの世界が出来たばかりの頃。
この世界には数えきれないほどの神様がいました。
神様達はそれぞれ種族を創りこの世界に住まわせていました。
しかし、出来たばかりの世界には人々にとっては不満だらけで人々は荒んでいきました。
そんな中、ある種族の長が人々の不満のはけ口となるべく悪役を買って出たのです。
それが僕の先祖。
そんなこんなで荒んでいた人々の心に平和が訪れたのです。
ここから5000年の間悪役を演じ続けました。
ですが数代前の魔王からそんな事を忘れて本当の悪役として暴れるようになりました。
そのため魔王家は一気に落ちぶれてしまいました。
「これが、魔王家の歴史だよ」
「……ヒリスはこれから魔王家の再興でもするのか?」
「そうだね。でもちょっと違う僕がやりたいのは悪役を演じた正義の一族じゃない。___正義の一族そのものさ」
先を見据えている力強い瞳でヒリスは語った。
月末から本腰を入れます。