点呼をとりました
パートの三田さんと合流した後、みんなでひとまず会社へ戻ることにした。
三田さんの出会った冒険者いわく、この辺には凶暴な魔物は少ないが、魔物自体は生息しているらしい。冒険者ならば駆け出しでもやや手こずるくらいだが、一般人が太刀打ちできるもんじゃないようだ。幸い、うちの会社のドアはキーカードロック式なので、魔物が入ってくることもないだろう。
会議室。
「で、とりあえず現状の人数を確認しておこう」
人事部長が言う。
「僕、総務部長、経理部長、工場長、小林、高橋、安井、三田さんの8名でいいのかな?」
全員が一度顔を見合わせた後、こくりとうなずく。
そのまま、沈黙が続いた。
「……社長は?」
工場長が、思いつめた顔でぽつりとつぶやく。
誰もが最初から想っていながら、誰も口に出来なかった疑問だ。
「うちの社長室って、この会議室と繋がってますよね」
俺が確認すると、総務部長が緊迫した顔でうなずいた。
「で、たぶん、ここにいるのって、この階にいた人たちってことですよね」
「そうだな、三田さんもいるとなると、会議室内ではなくフロアごとと考えたほうが妥当だろう」
経理部長が同意する。
「……社長って、いつも社長室にいますよね」
「ええ、そうですね。この時間帯は社長室でウィザードリイをプレイするのが日課です」
「まじっすか~、社長と協力プレイしたかったっすね」
「社長がやってるのはFC版です」
「社長、意外と懐古厨ですね」
「そうそう、ポケモンも初代以外認めない派で……今はそういう話ではありません」
人事部長が咳払いをした。
「社長も、本当ならこの世界に来ているはずです」
「でも、どこにもいないです……」
小林が深刻な顔でつぶやく。
「もしかしたら、三田さんみたいに外に出て獣に食べられたんじゃ」
「バカな事言うんじゃねえ!」
「ひっ!」
工場長に怒鳴られて縮こまる小林。
でも、その言葉は皆が想像していた事態だ。
会議室を静寂が包む。
その沈黙を破ったのは、人事部長だった。