パートの三田さんが現れました
「高橋くーん!」
ぎらぎらと輝く太陽の下。
陽炎の中、遠くから手を振って近づいてくる黒いシルエット。
小柄ながら生命力を感じさせるがっしりとしたその体型に、俺は見覚えがあった。
パートの三田さんだ。
勤続30年、年齢は不詳。
特技は限りなく透明に近いお茶淹れ、趣味はネット炎上鑑賞。
社内ゴシップの入手速度は他の追随を許さず、歴代最強のお局といわれている。
その三田さんが、なぜかこの異世界に来ているのだ。
ようやく俺達の下まで来た三田さんは、タオル(新聞の粗品)で汗を拭った。
「あー、あっつい! まったく、営業じゃないんだから外回りなんてできないよ!」
「三田さん、どうしたんですか!」
「なんかね、さっき会議室の横のトイレに入ったら、いきなり白い光に包まれて。血圧の薬飲み忘れちゃったのかと思って収まってから出たら、フロアに誰もいなくなってたのよ~~」
「な、なるほど。でも、なんでわざわざ会議室前のトイレに? あの階って、会議室と社長室しかないですよね?」
「なんでってあんた、別に理由なんてないわよ」
目が泳いでいる。
「そういえば、三田さんって社長の噂、めちゃめちゃ詳しい」
「いいのよアンタ! 黙って人の話をきいてなさい!」
すごい形相で怒られてしまった。反省。
「でね、窓の外見たら、サバンナじゃない! とりあえず野次馬で外に出てみたのよ」
お、おう。恐ろしい行動力だ。
「それで近くをうろうろしてたら、変な格好してる男の人がいてえ~! 話しかけてみたら、『冒険者だ』って言うの! あれがコスプレイヤーってやつかしらね!」
「たぶん本職だと思いますが……その人と話したんですか?」
「そうそう、いろいろとその人に教えてもらったんだけど。この辺の話とか、ここがどこかとか、その人の離婚した奥さんの話とか、別れた奥さんが魔王と再婚した話とか、養育費払わなくていいのかとか」
「魔王って、この世界、魔王がいるんですか!」
「まあ~~魔王なんてあだ名の男、ろくなやつじゃないわよ! って言ってやったら、何か泣き出しちゃってさ~~ほんとにまいったわよ!」
「まあ、まともな社会人はしてなさそうっすね!」
「そうよ~~! ずっと思春期から抜け出せてないだけよ!」
社畜スキルが発動し、話を合わせてしまった俺。
違う違う、今はそっちじゃない!主に後半の方が気になるけど、必要な情報は別にある。
「三田さん、さっきここがどこかソイツに聞いたって言いましたよね!」
「あー、そうそう。なんかよく分かんないことごちゃごちゃ言ってたわよ。難しいカタカナ単語でさぁ~。顔も外人だったし、外資系の人かしらね!」
「とりあえず、聞いたこと教えてもらえませんか?」
「そうねえ、とりあえず会社に戻りましょうか。更年期障害で暑いの苦手なのよ~」
三田さんの制服は噴出した汗でうっすらと濡れている。
熟した丸太のような体型に、妖艶な赤いブラジャーが透けて見える。
「……(ごくり)」
「小林、お前まさか……」
「やめろ、最初の女性が三田さんはレベルが高すぎる!」
「そうだぞ小林、社内恋愛はやばい! 俺のおススメの熟女ヘルス連れてってやるから!」
「はあ~、なんか暑いわねえ」
「三田さん、服をはだけないでください!」
ちらりと見えたシュミーズに小林の鼻息がさらに荒くなる。
俺と安井で必死に止めているのを横目で笑いながら、三田さんは会社へと去っていった。