町を探すことにしました
「どうしましょうか、佐藤さん」
ニコニコと総務部長に聞く。人事部長、いつもニコニコしてるが目は笑ってない。
俺の会社は結構不可解な人事異動があるが、それに対し本人から異議が出ることはない。
人事部長が何か握っているらしい。正直、俺みたいな平社員はあんまりお近づきになりたくない。
「そ、そうですね……まずは、会社の所在地が変わってしまったので、本店移転手続きを行う必要があるかと」
総務部長がポケットからポケット六法を取り出して答える。
人員不足で法務部を兼任してるので、法律関係は総務部長がやっているのだ。
「なるほど、それにはどうしたら?」
「えーと、現状の法務局担当地区の管轄外に移転した場合は、法務局に届けを出す必要がありますね。あと、株主総会を開かなくてはいけません」
「そうなると、株主と社長の承認がいりますね」
「ええ。しかし、ここの住所がわからないと行動が取れません」
「どうします?」
「とりあえず、近くの町を探しますか? 番地は変わりますが、歩ける距離なら住所は近しいでしょう」
そういって溜め息をついた人事部長と目が合った。
「高橋くん、君、ちょっと探してきてくれませんか?」
「え!? ぼくですか?」
「君が一番適任だと思うんですよ。問題解決能力も高いし、土壇場の機転も利くと君の部署の課長が言っていました。期待しています」
ニコニコと言う人事部長。
体のいい人柱じゃないか!
正直、異世界の情報がない状態での偵察、ブラック会社への出向並みにリスクが高い。
「でも、どんな生物がいるかも分かりませんし、リスクが高すぎるのでは」
「新規開拓にはリスクは付き物です。そして、今、リスクを乗り越えられる可能性があるのは高橋くんだけだと思ってます」
あの褒め殺し、このためだったのか!
手のひらでくるくるされていたことに今さら気づく俺。
しかし、社畜平社員に「さからう」コマンドは無い。
「わかりました、じゃあ安井と一緒にいってきます」
しぶしぶ偵察に出ようとした俺。
その前に、救世主が現れたのだった。