会社は草原の中にあるようです
3、会社は草原の中にあるようです
会社の外にはいつものビル群じゃなくて、広大な草原が広がっていた。
遠くのほうには深い森も見える。もちろん皇居じゃない。
時折でっかい謎の鳥がばさばさ飛び立つ、本物の森だ。
昔NHKの動物番組で見た、サバンナそっくりだ。
なんか大きな動物がのそのそ歩いてたりもする。象のような巨大な胴体に、キリンみたいな長い首がついていて、見たことないシルエットだ。
「ここはどこだ!? サバンナか!?」
「さっきまで会社だったぞ!? いや、会社はあるが!」
ざわざわする部長たち。当然の反応だ。
ちなみに、経理部長は会議室に残っていた。
「無駄なカロリーを消費したくない」らしい。
「すげー、自然だー」
安井が横で目を輝かせている。
生き物も植生もどう見ても日本、いや、地球じゃないのだが、こいつの目には同じ大自然に見えてるのか?
俺も内心びっくりしているが、余りに非現実すぎて夢を見ているようで、落ち着いている。
「あああああああああああああああ!」
絶叫がサバンナに響いた。
思わず振り向く。悲鳴の主は工場長だ。
と、とりあえず、なだめよう。
と思ったら、俺より先に安井が肩を叩いた。
「工場長、サバンナきちゃったらしいっすよ!」
「サバンナなんてどうでもいいだろ、工場がねーんだよ!」
工場長が怒鳴る。
「いや、サバンナのほうが大事でしょ!」
安井が反論する。
まともな意見に聞こえるが、こいつは単純にサバンナが好きなだけだ。
そして、たしかに工場はすっぽりとなくなっていた。
本社だけが、草原の中にどんと建っている。
不思議な光景だ。
ちなみに、他の階にいたはずの社員は綺麗に消えていた。
ここにいるのは、あの会議室にいた社員だけらしい。
つまり、会社の建物丸ごとと、俺達だけが、ここに来たらしい。
「これって、異世界転移ってやつ…?」
俺はネット小説が好きで、よく通勤の合間に読んでいた。
その中には「異世界転移」というジャンルがあり、地球とは全く違う世界へいきなり転移してしまう、というものだ。
もしそうなら、この世界にはダンジョンや魔法、冒険者ギルドなんかがあるかもしれない。まだ頭がついていかないし、魔物のことを考えると怖いが、少しわくわくする。
「おいおいおいおいおい!」
工場長が叫んでいる。
横で小林が放心状態で、ポケットから自作の無限プチプチシートを取り出してプチプチしていた。
地面にがくりとひざを突き、天をあおぐ工場長。
プラトーン状態の工場長を前にして、人事部長は冷静だった。
「高橋くん、ちょっとこっちへ」
「は、はい」
手招きに、緊張しながら近寄る。
なんだなんだ。
「とりあえず、今後の方針を固めたいので、少し相談できますか?」
「俺でいいんですか? 平社員ですけど」
「ええ、高橋くんが一番落ち着いているように見えますので」
「そうですね、内心は結構びっくりしてますが……」
「感情に振り回されない資質は営業として優秀です。さすがですね」
突然の褒め殺し、すげー怖いぞ。
裏の噂を知ってるから、余計に勘繰ってしまう。
そんなこんなで、人事部長と俺と総務部長(気づいたらいた)で相談することにした。