会社が異世界に転移しました
第一話 会社が異世界に転移しました
俺の名前は高橋。百均ショップのデイソーで働く営業だ。
俺の仕事は、デイソーで売る品物をいろんな工場や企業から卸してもらう営業だ。
主に法人を担当している。
品物は食品から文房具、メイク用品まで幅広い。
全国展開の大型店には適わないが、関東限定でそこそこの規模で店を出しているので、隙間を縫ってうまいこと経営している。
「おはようございまーす」
出勤。デイソーの定時は朝9時だ。正直まだ眠い。
「おお、高橋。前言ってたマンガ持ってきたか?」
「わり、忘れた」
「はあー!? 俺続き楽しみで昨日も寝てねーんだから早くしろよ!」
こいつは同期の安井。バカだ。見た目はイケメンだが中学生のまま成長したような奴だ。
上司もいる前で朝から大声でマンガとか言うなよ!
給料日もついこの前だったんだし、マンガくらい自分で買え!
「高橋、安井、君らは遊びに来ているのか?」
やばい、上司に聞こえてた。
安井がいるとろくなことがない。
いつもこうやってトラブルに巻き込まれる。
そのくせになぜか営業成績はトップだからますますむかつく。
「申し訳ございませんでした」
「すみませんっしたー」
俺が粛々と頭を下げる横で、安井がまたポイントを下げる。
上司が溜め息をついて、安井に分厚いファイルを手渡した。
「今日は上で会議があるから、この資料を渡してきてくれ」
「了解しましたー」
安井が笑顔でファイルを受け取っている。
今日の会議は、おそらく月一回の社長会議だ。会社の部門長クラスが集まる、いわゆる「偉い人会議」だ。その会議の使いに安井を使うとは、部長、正気か?
「お前をもう一回人事部長に見せるチャンスだからな」
「まじっすか! 再評価されるってことっすか!」
こいつ、まじで幸せな頭だな!
嫌味に全く気がついてない。俺もこいつみたいに生まれたかった。
「高橋、お前も行ってこい」
「え、俺もですか? 安井一人でいいんじゃないですか?」
俺が慌てて言うと、部長が目配せしてきた。
(あいつを一人で行かせるわけにはいかない)
(部長が行った方がよろしいのでは)
俺も目配せで返す。
すると、部長が、ゆっくりと一枚の紙を引き出しから出した。
態度査定表。この表で現される一年間の勤務態度実績がボーナスにかかわってくる。
その査定表の俺の欄をボールペンでつんつんして、「チームワーク」のところに丸を書くふりをしてきた。
溜め息をついて、俺は10階上のフロアまで階段で行こうとしている安井を追いかけた。
******
ドアを開けると、会社の偉い面々が勢ぞろいしていた。
「おはよう、高橋君」
「おはようございます」
総務部長だ。一番年上のはずなのに、末席に座っている。
影が薄く、部長なのにコピー用紙を補充していたりいっぱいになったシュレッダーのごみを捨てていたりと、雑用しているのをよく見る。
噂によると、入社したときから配属先の部署が毎回なぜか業績が上がり、その結果総務部長まで出世したらしい。あだ名はラッキーマンだ。
よく女子社員からバカにされているが、俺は好きだ。
「おい、さっさとドアを閉めろ。空調代が高くなるだろ」
ドケチな経理部長に怒られた。
おお、工場長もいるな。
「あれ、小林じゃね?」
工場長の隣にいる男を見た安井が大声を上げた。
そいつは小林。俺と安井の同期で、開発部にいる。
変な奴だが性格は悪くない。
大声をギロリと経理部長に睨まれ、慌ててたしなめる。
「おい、安井!」
小声で怒るが安井には効果が無いようだ。
「小林~、今度あれ作ってよ! 消えない鉛筆!」
「ボールペン使えば?」
「天才だなお前!」
安井を羽交い絞めにして部屋を出ようとした瞬間、視界が真っ白になった。
薄れ行く世界の中で、安井のぬくもりだけを感じていた。