2
いつになったら、快活に笑う奈津が見れるのだろう。
奈津はどうしてこうなってしまったのだろうか。
また奈津が薬を溜めていた。それを一気に飲んだ奈津は、普段にも増して虚ろな目で虚空を見上げている。
「奈津、薬は溜めちゃ駄目じゃないか」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、許して」
奈津は誰に謝ってるのだろう。少なくとも、今の奈津に俺は見えていない。
「奈津、落ち着いて」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「落ち着いて!」
「ごめんなさい!」
いつになったら、奈津はまた、笑ってくれるのか。わからなくて、それどころか奈津はただおかしくなるばかりで、俺もおかしくなりそうだ。
生活にも限界が近づいていた。減っていくお互いの預金残高。底をつくのは、あと2、3ヶ月後だろう。それからの生活はどうなる?
かといって俺も奈津も働ける状況じゃなかった。
目を離せば、奈津は居なくなるのが明白だった。もちろん、奈津の精神状態で働くのは無理だ。
ひっそりと俺に焦りが芽生えていたのを、たぶん奈津は知らない。知らないままでいい。
*
俺は奈津の望みを叶えてやりたかった。なのに。なのに。
いつまでたっても希望の見えない、絶望に浸かった生活は、人をおかしくさせるには十分だったのかもしれない。
奈津がまた薬を溜め込んでたくさん飲んだとき、彼女は暴れた。そして言ったのだ。「もう死にたい」と。
俺はその望みを叶えてやろうと思った。反射的だった。自分の手で奈津の首を絞めた。奈津はもっと暴れた。本当は生きたかったのかもしれない。でもお構いなしに首を絞めた。だって、奈津が死にたいって言ったから。奈津の願いを叶えるのが俺の役目だから。やがて奈津は動かなくなった。
奈津は、俺の腕の中で死んだ。
これから、俺は、奈津を追いかける。
だって、奈津は俺がいないとやっていけないから。
死後の世界で、今度は奈津と幸せになるんだ。
首を括るロープは用意した。
最後に奈津をぎゅっと抱き締める。まだ温かかった。
待っててね、奈津。