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霞町の暮らし  作者: 佐宮 綾
2丁目 デザイナーズマンション
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1

 

 ああ、今日は辛うじて終電に滑り込むことができた。それでも帰宅し、リビングの電気をつける頃には、短針は1時を指していて笑うしかない。シャワーを浴びて寝る頃には、2時をすぎていそうだ。

 こんな日々は、あとどれだけ続くのだろうか。


 大型ビルの内装の設計。わたしが勤める中堅の設計会社が、苦しい営業の末に取ってきた大型の発注。わたしは元々営業の人間で、大型ビルの建設を手がける業界最大手の建築会社相手の圧迫営業も苦しかったが、大学時代に取得した建築士の資格を持つがゆえに設計のヘルプにも回される始末。いくらなんでもひどいと思う。この件の営業から、終電で帰り、土曜日も出社、日曜日はひたすら寝溜めする日々が続いている。こだわって選んだデザイナーズマンションは、ただシャワーを浴びて寝るだけの部屋と化していた。


 次の日も、ひたすら設計部総出で設計図を書いて、ああでもないこうでもないと話し合って、ひたすら夜遅くまで設計図を書き続ける。

 しかし、その日の夜は──いつもと違った。

 午後9時頃、CCメールで回ってきた一斉メール。大学時代のクラスのメンバー全員に宛てられている。

『霞町の無理心中の件、奈実が被害者だったらしい。通夜が明日、霞町斎場で19時からあるそうだ。急で申し訳ないが連絡まで』

 霞町の無理心中?すぐ近所の話じゃないか。夕食を摂る間、スマホに「霞町 無理心中」で打ち込んでみる。情報はすぐに出てきた。試しにニュースの動画サイトを開いてみると、霞町3丁目のアパートで男女が無理心中を行ったという。現場として映されているアパートには見覚えがある。奈津は、学生時代からここにひとりで住んでいた。実感は湧かないが、状況として奈津が亡くなったことは間違いがないのだろう。わたしは奈津と仲がよくて、大学時代に実家暮らしだったわたしは、よく奈津の家に泊まり込んで呑んだくれたりしたものだ。そんな奈津とも、ゼミがバラバラになってからは疎遠になった気がする。

 とりあえずチームに友人が亡くなり、明日は午後休をとることを伝えた。不謹慎だが、久しぶりにゆっくり平日に眠れそうだ。


 翌日は午後イチで会社を後にした。喪服はどこにしまっただろうか。数珠は。こういうときっていくら包むのが正解か。

 結局スマホに頼りながら準備を終わらせ斎場に向かうと、大学のクラスメイトの3分の1くらいが集まっていた。

「実感わかねぇな」

「ちゃんと名前が書いてあるのにね」

 皆でまとまって座るも、なんというか気まずさはとれない。

 会場にはひとがまばらだ。それが、明るくて人気者だった奈津と結び付かない。

 そのくせ、斎場の内外……果てはホールの後ろにまで現れて静かな存在感を放つテレビカメラが、異常な雰囲気を醸し出している。



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