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霞町の暮らし  作者: 佐宮 綾
1丁目 社宅
4/8

4

 

 柏原さんが我が家を訪れて以降、私はゴミステーションに顔を出せなくなった。それどころか、家からも出れなくなった。柏原さんが他の人たちに何を言ったのか、そしてゴミステーションでの噂話が怖くて仕方なくなったからだ。

 柏原さんや他の奥さんは「大丈夫?」と我が家を訪ねてくれるようになった。やはり、柏原さんは周りの奥さんに言ったらしかった。噂になっているのだろうか。

 夫に気づかれまいと自分で処分していた、チラシに紛れた『早く去れ』の文字もいよいよ見れなくなった。

 夫も途中でチラシの文字に気がついたのだろう。彼は察しがいい。それが大きな原因の一つであることも気がついたのだろう。妻としての最低限の職務すら果たせない私を彼は責めなかった。夫はゴミを捨ててくれるようになったし、朝には自分と私の朝食と昼食を用意し、残業で大変であるにも関わらず、帰りに日替わり弁当を買ってきてくれるようになった。


 *


 その後、私たちは社宅を、そして霞町を離れ、マイホームでの暮らしを始めた。

 すぐにつわりは軽くなった。外出もできるようになった。柏原さんが社宅に来てからここに引っ越すまで、私は酷いうつ状態だったとしか言えなかった。

 ストレスでつわりが重くなることもあるらしく、あの社宅での生活がどれだけ私の中でストレスになっていたのか、改めて思い知らされた。


「ただいまー」

「お帰りなさい。ご飯あまり作れなくて、惣菜頼んじゃってごめんね」

 私は、霞町の暮らしを経て、変わったと思う。間違いなく、いい方向に。それは紛れもなく、私に様々なことを吹き込んだ柏原さんのお陰である。

 彼女のおかげで、私は自分や子ども、そして夫、克彦さんを守れるくらい強かに、勇気を持てるようになれたのだから。

「そうそう、社宅のときの皆さんから、俺たちと理久に、って」

 夫はスーパーの袋の他に、大きな箱を持って帰ってきた。

 中身は、男の子用のお洒落なベビーセットだった。そして、奥さんたちからの一筆もついていた。中身は見ずに、エプロンに押し込む。

「すごい…!ね、理久、貴方のために、私たちがお世話になっていた方がくれたのよ」

 理久は、にっこりと笑った。

 大丈夫。きっと、これからは幸せに暮らしていける。


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