第5話 これからのこと
書きだめはない。
「すいません、また寝てしまって…」
1時間ほど経ったのちに起きたサクヤはカナエに謝る。
カナエは微笑むとサクヤの頭を撫でる。
「子供がそんなこと気にしなくてもよい。もっと妾を頼ってくれてもよいぞ」
「もう、僕は高校生ですよ!」
口ではそう言いつつも撫でられて頰を緩めている姿は高校生には見えない。
「…」
「ん?どうかしたかのう?」
「いえ、ありがとうございます…」
「…よい、子供は頼れば良いんじゃよ」
(まだ、まだ悲しいし辛い…けど、僕は1人じゃない。カナさんがいるんだ)
サクヤの悲しみが全て晴れたわけではないが、先ほどまで感じていたどうしようもないほどの悲しみはなかった。
カナエがいるからサクヤは頑張ろうと心の中では誓った。
「そうじゃ、たくさん歩いたし泣いたから腹が減っとるじゃろう?下に食べに行かんか?」
カナエにそう言われたとほぼ同時にサクヤのお腹が鳴る。
顔を赤らめて恥ずかしそうな表情をしながらも、サクヤは小さな声で「…行きます」と言った。
「あーもう!可愛いのう、サクヤは!!」
カナエはサクヤに抱きき、その豊満な胸でサクヤの顔を覆う。
「んぐ!?か、カナさん!む、胸が、胸がー!!!」
「当てとるのじゃ」
「んんー」
5分ほどしてから抱擁から解放されたサクヤの顔はゆでだこのように真っ赤になっており先ほどお腹が鳴った時よりも更に赤くなっていた。
「も、もう!早くご飯食べに行きますよ!!」
サクヤはカナエを急かせ部屋から出ると部屋に鍵をかけ一階に降りた。
一階では十数人の人がお酒を飲みながら食べ物をつまみ話し合っていた。
どうやらここの宿屋は夜酒場としても営業しているみたいだ。
「サクヤさんにカナエさん、お食事ですか?」
声をかけられ酒場のカウンターを見ると受付をしてくれたエルフの人がいた。
「はい、そうです…えっと…」
「あ、すいません、私エリディナと言います。よろしくお願いします」
「はい、エリディナさんお世話になります」
「はい。それではお食事を用意しますのであちらの窓側の席に座ってお待ちください」
エリディナが指定した席は2人用の席で店の奥の方にあり、窓から大通りが見える位置だった。
席に着き外の様子を眺めると、日が沈んでいるため人通りは少ないがあちらこちらの窓から光が漏れ出ており人が生活している様子が伺える。
「さて、料理が来るまでの間に明日のことでも話しておくかのう…」
サクヤが窓から外の様子を眺めていると、対面に座ったカナエから声がかけられる。
「明日のことですか?」
「そうじゃ、まずは冒険者としての登録をするために冒険者ギルドへ行くとするかのう。とりあえず登録さえしておけば身分を証明するものが手に入るからの、これさえあれば王都にも入れるから作りに行った方がいい」
その後、冒険者としての身分証明書『ギルド証』のカナエからの説明をまとめると
1 身分証明書になる。これがあると検問や王都に入る際に利用できる。
2 ギルドで依頼を受けることができる。
3 素材の買い取り値が僅かに上乗せされる。
大体こんな感じだった。
「へー、ギルド証って身分証のついたポイントカードみたいですね」
「そうじゃのう」
サクヤの例えにカナエは微笑みながら答える。
「ギルド証を作った後は素材を売った後、何か軽い依頼を受けてサクヤがどれだけ動けるか確かめるかの…いや、その前に武器を見ておかないとのう」
「防具は見なくていいんですか?」
「ふむ、サクヤが今来ている和服はかなり高性能での、ここらの魔物だったら大抵は大丈夫じゃ。まぁ、肌が露出しとる部分は守れんからグローブなどはあった方がいいかものう」
確かにサクヤの着ている和服は何処ぞの脇巫女などが着ている服と違い肌の露出は多くない。
それでも全く肌の露出がないわけではなく、両手や首から頭にかけてと人体の急所になりそうな部分が露出していたりする。
「しかし、サクヤでは重い鎧等は論外として軽鎧でもきつそうじゃな…やはり布系の魔法使いなどがよく着るローブ系の装備が良いかのう…」
「鎧は魅力的ですけど流石にこの身体じゃ着れそうにないですね…一度は着て見たかったんですけど…」
「自分に合わない防具をつけても何の意味もないからのう。仕方あるまい」
「ですね」
そんな感じでサクヤとカナエが明日の予定の話から大幅にずれた話題を話していると両手に料理を持ったエリディナがやって来た。
「お待たせしました」