第3話 森を抜けて
「んぁ?…ここどこ?」
「お、起きたかのう」
「ん?…カナさん…あ、すいません、途中で寝ちゃって…」
「構わんよ、それに可愛い寝顔も見れたしのう」
非常に良い笑みを浮かべるカナエに対してサクヤは赤面する。
恥ずかしそうに顔に手を当てる姿はどう見ても女にしか見えない。
「うー、これでも男だったんですよ?」
「知っとるよ、うーむ、男の時とそんな変わっとらんのう。より女性らしくなったぐらいかのう?髪は少し伸びておるのう。後、身長が少し縮んだぐらいかのう」
カナエにそう指摘される。
実際のところサクヤは女になったわけだが男の時とさほど変わっていない。
カナエも言ったように顔が女っぽくなり、服の上からだと胸が膨らんだかは殆ど分からない。また、髪も少し伸びていた。後は数cm程身長が縮んだぐらいだろう。
ぶっちゃけ外見だけなら耳と尻尾を除けば殆ど変わっていない。
「なんで知ってるんですか…」
「これでも神霊じゃ、神の端くれじゃから色々知っとる」
「そうなんですか?」
「うむ、まぁ正確に言うならば神に最も近い存在、といったところじゃろうか…」
「よくわかりませんね」
「まぁ、こっち側の話じゃからな。わからんでも仕方ない」
さてと、と言いながらカナエはサクヤを抱え立ち上がる。
サクヤの首のあたりに右腕を通し、左腕をサクヤの両膝に添えた抱え方。つまるところお姫様抱っこだ。
「ちょ!?お、降ろして!!」
「可愛いのう…ま、今から移動するからちょいと我慢してくれんかの?」
「おろし…移動するの?」
身体を捻ったりして降ろしてもらおうとしていたサクヤがピタリと止まりカナエの顔を見る。
「さっきサクヤが寝ている時に【千里眼】を使って辺りを見てみたら近くに街があったのじゃ。野宿は嫌じゃろ?それに森は歩き慣れていないと危険が多いからのう。サクヤの格好ではちと不安があるからのう…ま、諸々の理由を挙げればきりがないがそんなところじゃ。じゃから大人しく抱えられておれ」
「うっ…わかりました…」
渋々といった様子で頷くサクヤ。
そんな様子を確認したカナエは微笑む。
その顔を見たサクヤは赤面し顔を背ける。
「森を抜けたら降ろしてやるからそう不貞腐れるでない」
「うー…」
「少し飛ばすからのう、しっかり掴まっておれ」
「はい」
サクヤはカナエの腕にしっかりと掴まる。
サクヤが掴まったのをカナエは確認するとその脚に力を込める。
「では、行くぞ!」
ダンッ!
と、音が聞こえた瞬間先程までカナエがいた場所の土が抉れている。
猛スピードで駆け出したカナエは木々の隙間を縫うように圧倒的な速度で駆け抜ける。
「ひゃぁぁあああああああああああああ!!!?」
「口を閉じとかんと舌を噛むぞ!」
サクヤの悲鳴が虚しく森に響いた。
〜〜〜
「主人、そろそろ機嫌を直してくれんかのう?」
「……」
「いや、妾も説明なしに駆け出したのは悪かったと思っとるよ?すまんかった、この通りじゃ」
カナエはサクヤに向かって頭を下げた。
森の中では特に戦闘があるわけでも無く、数分程で駆け抜けたがその時のことでサクヤは拗ねていた。
それもそうだろう。いきなり時速70kmの車とほぼ同等の速度で体を固定するものも無く森の中を駆け抜けられたのだ、恐怖から機嫌を損ねるのも当然だろう。
そんなサクヤの機嫌を取ろうと必死に謝る神霊という奇妙な構図ができていた。
「…はぁ、もう良いですよ。許してあげます」
「本当か!」
「ただし」
サクヤは顔をずいっとカナエに近づける。
「今度やったら本当に許しませんからね!」
「あ、あぁ分かったのじゃ…」
引き腰気味に言ったカナエに満足したのかサクヤは元の体制に戻る。
サクヤが元に戻った体制でカナエをみるとカナエは鼻を抑えていた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない……危うく鼻血が出るところじゃった…」
「何か言いました?」
「いや、何でもない、何でもないからのう」
わたわたと手を振り否定するカナエに対してサクヤは首を傾げる。
カナエは誤魔化すように前方を指差す。
「ほ、ほれ、サクヤ。街が見えたぞ」
カナエの指差す先には巨大な壁がありはたから見たら街というよりは要塞だった。
「おぉー、凄いですね!僕あんなに高い壁初めて見ました!」
「近くに行けばもっと凄いぞ」
「本当ですか!早速行きましょう!」
サクヤは草原を駈け出す。
この辺りに特に危険がないことを知っていたカナエもサクヤを注意することは無く後を追った。