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第2話 神刀・神鳴

「ひっ!?」


 茂みを掻き分け出てきた生物に短く悲鳴をあげる。

 それは明らかに魔物と形容するにふさわしい姿をしていた。

 のそりと出てきた頭には角が生えており、口から出ている牙は10cm程ありそうだ。続いて出てきた体には足が6本生えていた。地球の生物で言う狼に近いものはあるが似て非なるものだ。


「がるるる…」

「や、やめて…来ないで…」


 サクヤは泣き出しそうになりながら後ずさる。

 パニックになり今すぐ走り出して逃げ出したい気持ちにかられるが、サクヤの意思と反し身体は萎縮してしまい動かない。


「動いて…動いてよ」

「がるるる…」


 一歩二歩と近づいてくる狼のような魔物にもうダメだと思いサクヤは固く目を瞑る。せめて一瞬で終わるようにと祈りを込めて。


(…じ、………つか………ある…じ……かい…つか…じゃ…)


 そこにノイズ混じりで聞き取りづらいが誰かの声がサクヤの耳に届く。


「え?」


 間の抜けた声を上げるサクヤ。

 何処から聞こえてきたかわからずキョロキョロと辺りを見渡す。

 そんなサクヤに何か感じ取ったのか魔物の足が止まる。

 警戒しているようで低いうなり声を上げサクヤを威嚇する。


(主人!【解放リリース】を使うのじゃ!!)


 今度ははっきりと聞こえた。

 ハッとし顔を上げるサクヤ。

 それを見て魔物は一気に駆け出した。

 口を大きく開きサクヤを食いちぎろうとする。


「り、【解放せよ、顕現せよリリース・コンセプション】!!!」


 魔物の牙が届く瞬間、サクヤの握った刀が辺りに眩い閃光を放つ。

 あまりの光にたまらず目を瞑るサクヤ。

 閃光の中サクヤは誰かに抱えられた感覚がした。

 優しく包み込むように抱かれたサクヤは今までの恐怖とは逆の安心感を覚えた。


ドゴッ!

「ギャア!?」


 魔物の悲鳴が聞こえた。

 閃光が収まり徐々に目を開けるサクヤ。

 ぼやけた視界で上を見上げると女の人の顔が見えた。


「妾の主人に手を出すとはいい度胸をしてるのう、魔物風情が」


 艶やかな腰まであるストレートの黒髪。気の強さを表す少々吊り目の黒目。純日本人といった美人の女性は巫女服を着用しており何処となく神聖さを感じる。

 眼光だけで殺せそうなほど魔物を睨みつける女性。

 そんな女性にお姫様抱っこされているサクヤ。パニックになっていなければサクヤは赤面し「降ろして!」とでも言っただろうが、あいにくそんな余裕はなさそうだ。

 吹っ飛ばされた魔物は起き上がると凶暴な形相をさらに怒りに染め、女性めがけて突進する。


「ひっ!?」


 すっかりトラウマとなってしまった光景にサクヤが短く悲鳴をあげ女性にしがみつく。

 女性は腕の中にいるサクヤに少し嬉しそうにし微笑む。


「安心しておれ、すぐに片付けてやるからのう」


 サクヤを抱えたまま軽くステップを踏み魔物の突進を交わすと蹴りのモーションに入る。


バチ、バチバチッ!


 弾けるような音とともに女性の脚が蒼電を纏う。

 蒼電を纏ったその足を魔物めがけて放つ。


ドグォッ!!


 まるでトラックに跳ねられたかのような音が周囲に響いた。

 隙だらけの腹に蹴りが炸裂し1m弱はあるだろう魔物が面白いように吹き飛ぶ。

 地面を二、三回跳ねたのち大木にぶつかりようやく魔物は止まった。

 

「が…グギャ…」

「ま、まだ生きてるの!?」


 死んでいても可笑しくない吹っ飛び方をした魔物はまだ生きていた。

 恐るべき生命力だ。


「魔物は総じて生命力が強いからのう、仕留めきれんかったか…」


 そう言うと女性はサクヤの膝を抱えている右手を伸ばす。


「すまんのう、無駄に苦しませてしまって…これで楽になれ…【神鳴かみなり】」


バチィ!


 女性の手から放たれた蒼電は魔物に直撃し魔物を消し去る。

 魔物がいた場所は黒く焼け焦げ、その中心に牙と青紫色の石が落ちていた。


「さて、初めましてじゃのう、主人よ。妾の名はカナエ。そこの神刀・神鳴に宿る神霊じゃ。気軽にカナと呼ぶと良いぞ」


 腕の中のサクヤに微笑みながら女性、神刀の神霊カナエが自己紹介する。


「あ、と…えっと、サクヤです。カナエさん…「カナじゃ」…え、か、カナさん。助けていただきありがとうございました」

「妾は主人を守るという当然のことをしたまでじゃ。礼を言われるほどのことでもない」

「…ある、じ??主人?」


 サクヤは何を言われているのか分からないといった様子で首を傾げる。

 突然言われても戸惑うだけだろうといった苦笑いをカナエは浮かべる。


「主人の【解放リリース】は武具類に内包されておる力を極限まで発揮するスキルじゃ。神刀・神鳴(わらわ)の様に精霊や神霊が宿っている物は精霊・神霊を顕現させることができる。その際に主従とはちと違うが似た様な契約が交わされるから妾はサクヤのことを主人と呼んどるのじゃよ」

「えっと…主人は少しむず痒いと言うかなんとゆうか…」

「なら、サクヤで良いかのう?」


 花の様な笑顔を浮かべるカナエにサクヤは赤面してしまう。

 こんな間近から絶世の美女と言っても過言ではないカナエの笑顔を見たのだ、赤くなりもするだろう。


「は、はい。サクヤでお願いします」

「よろしくのう、サクヤ」


 少し困り顔で思考するカナエに不安そうな顔をしたサクヤが見つめる。


「えっと、助けて頂いたお礼がしたいのですが、あいにく何も持っていなくて…」

「妾の主人であるサクヤを助けることは当然のことじゃ」

「で、でも何かしてあげたいです…」


 サクヤは貸し借りをしたままだと落ち着かないタイプの人間だ。

 他人に何か良いことされたら何かしてあげたくなるのだ。

 カナエは少し困った様な笑顔を浮かべるとサクヤから視線を外し考え出す。

 そして何か思いついたのかサクヤの方を見る。


「んー、じゃあ妾のお願いを聞いてくれるかのう?」

「僕にできることなら…」

「なんでもとは言わなかったのう…まぁ、よかろう。妾のお願いじゃが…」


 ごくり、とサクヤは唾を飲み込む。

 命を救ってくれたという返しきれない音があるためどんなお願いが来ても従う気ではいたが、それでもいざ相手の口から言われるとなると緊張し心臓が高鳴る。

 内心、そんなことを思っているサクヤにカナエは微笑み自らのお願いを口にする。


「主人の耳と尻尾をもふもふさせてくれんかのう!!」

「……ふぇ?」


 固まった。

 それはもう見事に思考停止した。

 思考停止しながらもサクヤはなんとか絞り出した言葉が「ふぇ?」とは如何なものだろうか…。


「一目見た時から触りたかったんじゃ!その耳と尻尾!!獣人じゃぞ!?あのもふもふじゃぞ!!触りたくないわけなかろう!それにサクヤは可愛い!!これで愛でるなと言われる方が無理じゃろうて!!!しかも、サクヤが自分の尻尾を触った時のあの緩んだ顔!控えめに言って最高じゃった!思わず刀の中で悶死仕掛けたわ!!そんな訳じゃから触らしてくれんかのう!?」


 カナエの如何にサクヤの耳と尻尾が触りたいかという力説をされたサクヤは耳まで真っ赤にして悶える。


(み、見られてたー!!?う、嘘!?本当に!?あ、あの姿を見られたの!!!?)


 カナエの豹変ぶりよりも見られていたことに悶えていた。

 それもそうだろう、誰だって自分の尻尾を触りながらにやけている姿を見られると悶えたくなるのも当然だ。


「して、どうなのじゃ!?妾にもふもふさせくれるかのう?」

「…い、良いですよ。命を助けていただいたんです、それぐらいおやすい御用です」

「おぉおお!触らせてくれるのか!!」


 小躍りでもしそうなほど喜ぶカナエ。というか内心は狂喜乱舞しているだろう。

 サクヤを抱えたままカナエは木の根元に座ると胡座をかいたその上にサクヤを座らせた。


「では触るからのう?」

「は、はい、いつでも大丈夫です!」

「まずは耳からじゃ」


ふにっ

「ん…」

「おぉ、柔らかいのう…」


 他人に自分の耳を触られくすぐったそうにするサクヤ。

 手触りを確かめるように優しく触ったり撫でたりし、頬をだらし無く緩めるカナエ。とても先程魔物を軽々と屠った人物とは思えない。


「こ、これが夢にまで見た獣耳の感触…良いのう良いのう…ふさふさした手触りに人肌ほどの体温が良い感じに妾の心を魅了するのう…」


もふもふ、もふもふ

「ん、気持ちいぃ…はふー…」


 そのまま数分ほどの時間が経過する。

 カナエに身を任せされるがままになっているサクヤと、心なしか肌がツヤツヤになったようなカナエ。


「そろそろ尻尾に行くからのう」


 目を細めて気持ちよさそうにするサクヤ。

 無意識に尻尾がパタパタとしているその姿はカナエを誘っているようにしか見えない。


もふぅ

「んにゃぁ…」

「こ、これは至福じゃのう!この手触り、一撫でしただけなのに高級絹をはるかに上回る感触!あぁ…これが、これこそが天国エデンじゃ!!」


 テンションゲージが振り切れたカナエが感極まった声を上げる。


もふもふ、もふもふ、もふもふ


数十分後…


「…んぅ…すー…すー」

「いやー、若返った気がするのう」


 そこには肌をツヤツヤとさせたカナエと、その腕の中で抱きかかえられるようにして眠るサクヤがいた。

 寝顔も可愛らしく、ついカナエはサクヤの頭を撫でてしまう。


「…ん、おかー…さん…」

「妾のことをお母さんか…それも悪くないのう…」


 小さくカナエは呟く。


「サクヤは妾が必ず守ってやるからのう…あやつの言葉に従うような真似はちと癪じゃが仕方あるまい。これは妾の意思じゃ。それがたまたまあやつの言葉通りになったまでのことよ」


 ぎゅっ、とサクヤを抱える腕に力がこもる。

 覚悟を決めるように、決して離さないように…

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